食べ物辞典:エリンギ
切り方によってコリコリだったり、もちっとジューシーだったりと食感が変わるエリンギ。天ぷら・佃煮などの和食からソテー・パスタ・スープなど洋食系レシピまで活用でき、価格も安定していることから日本家庭にも定着しています。低カロリーでお食事のかさ増しに役立つのも嬉しいところですね。食物繊維が多くヘルシーなことからダイエットにも活用されていますし、ビタミンDやβ-グルカンの補給から免疫力を高めて健康をサポートしてくれる働きも期待されていますよ。そんなエリンギの栄養価や成分、効果について詳しくご紹介します。
和名:エリンギ
英語:Eryngii mushroom/king oyster mushroomなど
エリンギのプロフイール
エリンギとは
サクサク・コリコリとした独特の歯応えが特徴的なエリンギ。弾力のある食感は日本では松茸やアワビ近い食感を持つ食材と紹介されることもありますし、ホタテなどのシーフード類や肉の代用品として料理に使われることもあります。松茸風味のお吸い物とエリンギを使って「松茸ご飯もどき」を作るという方もいらっしゃいますね。お醤油など和の調味料、バターやトマトソースなど様々な味付けと相性が良いのというのも魅力。風味が弱いと称されることもありますが、クセが少ない分どんな味付けや料理法にもマッチしてくれる便利な食材です。
そんなエリンギはヒラタケ属ヒラタケ科のキノコで、原産地は地中海沿岸地域と考えられています。エリンギという呼び名が定着していますが、これは日本で命名されたものではなく学名Pleurotus eryngiiの種小名をそのまま読んだもの。椎茸やブナジメジなどと並んでポピュラーな食用きのことなっていますが、実は日本に導入された時期が遅いキノコの一つ。栽培・販売を行うにあたって生産者がそれぞれ「かおりひらたけ」や「みやましめじ」「白あわび茸」などの商品名を付けて販売していましたが普及せず、種苗法改正時に種子名のエリンギが呼び名として採用されました。ちなみに“eryngii”はヒゴタイサイコ属の植物(Eryngium campestre)の枯根から自生することが由来。
日本では新しい部類に入る食材ですが、エリンギは原産地であるイタリアやフランスなど南欧諸国で長く親しまれてきたキノコの一つ。現在でも欧米ではポピュラーな食材で、英名では“King Oyster Mushrooms”などと呼ばれています。エリンギに牡蠣(oyster)感は感じられませんが、ここでの“oyster mushroom”というのはヒラタケの英名。ヒラタケはエリンギのように軸(柄)が長くなく、木から生えている姿が牡蠣の殻に似ていることが語源とされています。そのヒラタケ類の中でも最も大きいキノコということでエリンギは“king”が付けられているんですね。そのほかking trumpet mushroomやFrench horn mushroomなど、その形状を金管楽器に見立てた名称でも呼ばれていますよ。
私達日本人の場合はエリンギというと軸(柄)部分を中心に考えることが多いですが、ヨーロッパではカサ部分の方が中心でカサが大きく開いたものが好まれる傾向にあるのだそう。レシピとしてもコリコリ感を出すよりも、しっとりと柔らかくなるまで加熱するものが多く見られます。ただしダイエットやヴィーガン向けの代替え食材として軸部分の食感も評価されていますから、一概には言えませんね。日本でもカロリーが低く満腹感があることからダイエット中のお食事に活用している方も多いのではないでしょうか。エリンギは料理に使いやすく、通年価格が安定している便利な食材でもあります。
エリンギの歴史
エリンギは地中海沿岸地域、南ヨーロッパ・北アフリカ・中央アジアにかけてのエリアが原産。エリンギは木ではなくセリ科の草本から生えているため、牧草地などでも見られる身近なキノコの一つであったと考えられます。自生している天然エリンギはカサが大きく、日本でポピュラーなエリンギよりもヒラタケやブラウンマッシュルーム寄りの姿だったようです。ヨーロッパではカサが好まれるというのも、当時食べられていたキノコは軸を食べずに捨てるものが多かったこと・元々は私達の知るエリンギよりもカサ部分がしっかりしていたことが理由かもしれません。
エリンギは身近なキノコであり、日持ちが良かったこともあって自生域では古くから食材として利用されてきました。フレンチやイタリアンなどでもエリンギを使用した料理は多く、特にイタリアでは人気のある食材なのだとか。イタリアと言うとポルチーニの印象がありますが、ポルチーニは旬の時期が短いので、その代用品としてエリンギを使うこともあるようですよ。
エリンギは中華やアジア料理でも使用されていますが、日本で食材として知られるようになったのはごく最近。日本には台湾から持ち込まれましたが、病原性などの懸念から人工栽培の開始が遅れたようです。1993年に愛知県林業センターによって人工栽培が行われ、日本人に合うよう改良されたエリンギが登場したことで全国的に栽培・流通が行われるようになったと言われています。どこのスーパーでも大抵販売されているという状態になったのは平成10年前後からですので、子供の頃には見かけなかったという方もいらっしゃるかもしれません。今や食卓でもおなじみになっていますが、平成になってから急速に一般家庭に普及した食材の1つなんですね。
エリンギの栄養成分・効果について
栄養成分含有量の参考元:日本食品標準成分表2015年版(七訂)
エリンギは生100gあたりのカロリーは19kcalとカロリーが低く、独特の触感から食べごたえのあるキノコ。食物繊維が比較的多いことと、キノコ類の中ではナイアシンやパントテン酸・葉酸などビタミンB群を多く含んでいることが特徴です。骨粗鬆症予防に注目されているビタミンDも多く、β-グルカンと合わせて免疫機能のサポートなどの健康メリットも期待されていますよ。
エリンギの効果効能、その根拠・理由とは?
便秘予防・改善サポートに
エリンギも他のキノコ類と同様に、手軽に食物繊維を補給できる食材と言えます。生100gあたりの食物繊維総量は3.4gとキノコ類の中では中間くらいですが、同グラムで比較した場合はパプリカやセロリの2倍以上。加えてエリンギにもキノコ類の特徴成分の一つとされる高分子多糖体のβ-グルカンが含まれています。β-グルカンは不溶性食物繊維の一種として扱われていますが、腸内の善玉菌を増やすなど水溶性食物繊維と重なるような働きも報告されている成分。食物繊維補給源として便秘予防に役立つだけではなく、腸内環境を整える働きも期待できますね。
ちなみにエリンギに含まれている食物繊維はほとんどが不溶性食物繊維。100gあたりの食物繊維量の内訳としても、日本食品標準成分表(七訂)では不溶性食物繊維3.2g+水溶性食物繊維0.2gと記載されています。不溶性食物繊維は腸を刺激することで蠕動運動を促したり、腸内の老廃物を吸着して排出してくれる働きがあります。しかし一方で水を吸ってしまうという性質から、水分を補給せずに食べすぎると便をカチカチに固めてしまうという側面も。逆に腸を刺激することで下痢になってしまう場合もありますから、お腹の調子と相談して取り入れるようにしましょう。
肥満予防・ダイエットに
低カロリー・低脂質で食物繊維が沢山含まれているキノコは、ダイエット中のお食事にも取り入れられることが多い食材です。エリンギは100gあたり19kcalであり、水を吸って膨らむ不溶性食物繊維が多いので満腹感の維持に繋がるというメリットもありますね。歯応えがしっかりしているので噛んで食べることからも満腹中枢の刺激に繋がりますし、切り方によって食感が変えられるので食事のかさ増しにも役立ってくれます。細かく刻んでひき肉と混ぜたりすることでカロリーダウンにもなりますよ。生100gあたり340mgとカリウムも豊富な部類なので、血圧やむくみが気になる方にも適しています。
またエリンギはキノコ類の中でもパントテン酸やナイアシン、ビタミンB1などのビタミンB群が豊富だという特徴もあります。ビタミンB群は3大栄養素からエネルギーを作り出すための代謝過程に関与するビタミンですから、代謝向上効果も期待できますね。脂肪燃焼を促す働きが期待されているオルニチンも含まれているため、ビタミンB群の補給と合わせて脂肪蓄積抑制・脂肪燃焼促進に繋がる可能性もあります。エリンギには水溶性食物繊維はほとんど含まれていないため“血糖値の上昇を抑える”という説の信憑性はイマイチですが、運動と組み合わせたダイエットの成果を出やすくするサポートには繋がるでしょう。
骨や歯の健康維持に
エリンギはビタミンDを含むことから骨や歯を丈夫に保つ手助けをしてくれる食材としても注目されています。ビタミンDは脂溶性ビタミンの一つで、主な働きとしては小腸や腎臓でカルシウムとリンの吸収促進・血中カルシウム濃度を保つことが挙げられます。ビタミンDは食品から摂取しなくても、日光を浴びるとヒトの体内で合成されるビタミン。意識的に摂取しなくとも極端に不足することはない栄養素と考えられてきましたが、近年は日光を浴びる機会が少ない方・紫外線を極度に避ける方が増えたことでビタミンD合成が不十分であることが指摘されています。
このため現代ではビタミンDを食品から摂取して補う必要があるという見解が多くなっています。ビタミンDはカルシウム吸収を助ける働きがありますから、高齢化に伴い増加する骨粗鬆症の予防をサポートしてくれる栄養素としても注目されていますよ。もちろんお子さんの成長サポートや、骨や歯を丈夫に保ちたいという方にも役立ってくれるでしょう。ただしエリンギに含まれているカルシウムは微量なので、チーズや小松菜などカルシウムが豊富な食材と組み合わせて取り入れるようにして下さい。
エリンギ生100gあたりのビタミンD含有量は1.2μgと、生状態のキノコ類としては松茸・舞茸に次いでトップクラス。またエリンギにもエルゴステロール(エルゴステリン)と呼ばれるステロールが含まれており、紫外線に当たることでビタミンDに変化します。30分~1時間程度エリンギを日干しすることで更にビタミンDを増やすことが出来ますから、紫外線対策をバッチリしている・骨粗鬆症が気になるという方は食べる前にお日様に当ててみて下さい。
免疫サポート・風邪予防に
エリンギなどキノコ類に含まれているβグルカンは食物繊維として便通や腸内環境を整えるだけではなく、腸内の免疫細胞に働きかけることで免疫機能を高める働きがあることも報告されています。βグルカンにはいくつか種類がありますが、マクロファージやナチュラルキラー細胞など人間の免疫機能に関わる細胞を活性化させる作用・インターフェロンの生成促進作用を持つ可能性が報告されているものもあります。エリンギには呼吸器の粘膜保持に必要なビタミンB2やB6、抗ウィルス作用が期待されているトレハロースなども含まれています。合わせて免疫力を整え、風邪やインフルエンザの予防をサポートしてくれると考えられています。
加えてビタミンDも骨や歯の健康維持だけではなく、免疫バランスを調節する役割を持つ可能性が報告されている栄養素。東京慈恵会医科大ら国際共同研究チームからはビタミンD欠乏を改善することでインフルエンザ発症率が減少することが報告されており、世界的にもインフルエンザやアレルギー疾患発症との関係が研究されいます。β-グルカンもビタミンDも現在進行系で研究が進められている成分のため確証には至っていませんが、食材から自然な形でこうした成分を補給できるキノコ類は免疫サポーターとして注目されていますよ。
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ストレス抵抗力アップにも…
エリンギに多く含まれているパントテン酸はビタミンB群に分類される栄養素で、糖代謝や脂質代謝に関わるだけではなく、副腎皮質ホルモン(抗ストレスホルモン)の合成にも関わっています。このためパントテン酸を不足なく補うことで、ストレス抵抗力を高める事に繋がると考えられています。エリンギなどのキノコ類には神経の興奮を落ち着ける働きがあり、リラックス効果を持つアミノ酸として注目されている“GABA”が含まれていることも近年報告されており、合わせてストレス抵抗力アップ・ストレス向上効果が期待されています。
加えてエリンギにはビタミンD、紫外線を浴びることでビタミンDに変化するエリゴステロールも含まれています。ビタミンDが吸収を助けてくれるカルシウムは歯を丈夫に保つ以外に、神経機能の保持にも関係しているミネラル。カルシウム不足によって神経・精神面の不調を引き起こす可能性があることも指摘されています。カルシウムは日本人が不足傾向にあるミネラル。カルシウムの吸収を良くするビタミンDと組み合わせ効率よく補給することで、イライラや倦怠感など精神的な不快感の軽減に繋がる可能性もありますね。
妊娠中の栄養補給に
エリンギは葉酸を含むことから貧血予防や妊娠中の方のサポートに役立つ食材として紹介されることもあります。葉酸はタンパク質や核酸(DNAやRNA)の合成・神経細胞の代謝などにも関与するビタミン。このため赤ちゃんの健全な発育にも不可欠な栄養素として、妊活中・妊娠中・授乳中の女性は意識的な摂取が進められているビタミンでもあります。
エリンギの葉酸含有量は日本食品標準成分表(七訂)によると生100gあたり65μg、ホクト(株)調べでは71μgとして紹介されています。どちらにせよエノキタケに次いでキノコ類では葉酸が多い部類に属しますし、同グラムで比較するとプルーンの2倍近い葉酸を含んでいます。エリンギだけで必要分を補えるという話ではありませんが、ナチュラルな形での葉酸補給をサポートしてくれる食材ではあるでしょう。便通を整えてくれる働きや、免疫力を高めてくれる働きも期待できますから、妊娠中の栄養補給・健康サポートとしても心強い存在と言えそうですね。
ただし葉酸は赤血球の生成に関わるビタミンではあるものの、日本人の貧血は葉酸やビタミンB12が不足することで起こる“巨赤芽球性貧血(悪性貧血)”ではなく、鉄分が不足する“鉄欠乏性貧血”が多いという統計が出されています。エリンギの鉄分含有量は100gあたり0.3gと多くありませんから、貧血や鉄分不足が気になる方の場合は鉄分が豊富な食材と組み合わせて食べるようにしましょう。
肌荒れ・くすみ予防に
エリンギに多く含まれているビタミンB群は皮膚の健康維持に関わりの深いビタミン。例えば葉酸には細胞の生成を助ける働きがありますし、ビタミンB2は皮膚や粘膜の健康維持、ビタミンB6はアミノ酸代謝にも必要で皮膚の抵抗力を高める働きがあります。ビタミンB群不足のサインとしては肌荒れ・湿疹や皮膚炎・口内炎などが挙げられますから、不足なくしっかりと補うことは肌荒れ予防に繋がりますね。
またエリンギに多く含まれているナイアシンは皮膚の健康を保つほか、血行を促す働きもあります。血行が良くなることでクマ・くすみの軽減が期待できますし、肌に酸素や栄養素を行き渡らせてターンオーバーを正常に保つことにも繋がります。間接的にではありますが、便秘改善も肌荒れや吹き出物の予防になり、腸内環境を整えることからも栄養素の吸収が高まる・腸内合成されるビタミンが増えるなどのメリットが期待できます。肌荒れしやすい方はいつものレシピにエリンギを加えてみては如何でしょうか?
目的別、エリンギのおすすめ食べ合わせ
エリンギの選び方・食べ方・注意点
市販されているエリンギは、基本的に水洗いしなくても使用できます。というのも数百円で販売されているものは管理された工場内で菌床栽培されたもの。衛生管理が徹底されているため、メーカーによっては“洗わなくても使用できます(洗わずに使用して下さい)”と記載してくれている商品もあります。そうしたエリンギは石づきの部分を切り落として、おが屑などを硬く絞った布巾で拭き取るだけで使用できます。水でザブザブと洗いすぎると風味が飛んでしまうだけではなく、ビタミンB群など水溶性の栄養成分が流れ出て減少してしまうというデメリットも。洗いたい場合もさっと流す程度をお勧めします。
エリンギは一方向に繊維が伸びたような形になっているため、切り方によって食感も風味の感じられ方も変わってきます。繊維に沿うように縦に割くとコリコリした食感を残しつつ、味がよく染みるのでどんな料理にも合います。頑張って細く割けば麺類のかさ増しにも使えますよ。反対に横切り(輪切り)の場合はアワビやホタテの貝柱にも例えられるような歯応えとなり、エリンギの風味も縦に切ったときよりも強く感じられます。
エリンギの選び方・保存方法
エリンギの軸(茎)部分は鮮度が落ちるにつれて萎びたようになり、黄色っぽい色に変わっていきます。このため新鮮なエリンギを見分けるポイントととしては、軸の色が白くて綺麗なこと・パンとした張りと弾力が感じられることと言えます。軸は太め、かさの色は薄い色をしている方が品質が良いとされています。かさの縁のほうが黒ずんでいたり、外側に開いているものも鮮度が落ちている可能性が高いので避けたほうが無難。パックの内側に水滴がついているものも避けます。
エリンギは3~5日程度であれば冷蔵庫で保存することが出来ますが、水気も乾燥も苦手。未開封であれば購入した時に入っているパックごと冷蔵庫に入れるのが無難。冷蔵庫に入れておくとパックの内側に水滴がつき始める事があるので、そうなった場合は場合は取り出してキッチンペーパーに包んでからラップや保存袋に入れましょう。鮮度が落ちるほど食感が悪くなり、痛み始めるとツンとする臭気が出てきます。数日中に使い切る予定がない場合は冷凍保存した方が確実。冷凍すると歯応えが弱くなるので、使う分ずつ購入するのがお勧めです。