食べ物辞典:レンコン
煮物や酢の物など和食に多く使われる食材、れんこん。呼び名の通りレンコンは蓮の地下茎で、野菜として料理に使うのは東アジアの一部地域だけ。日本では穴が空いている形から「先を見通す」縁起物としてお正月のおせち料理などおめでたい席でも使われます。栄養面ではビタミンCとカリウムが多いことが特徴で、近年は抗酸化物質の補給源としても注目されています。レンコン含まれている成分や、期待される健康メリットを紹介します。
和名:蓮根(れんこん)
英名:Lotus root
学名:Nelumbo nucifera
蓮根(れんこん)とは
レンコンのプロフイール
煮物に入れるとほっくりと、焼き物や酢の物に使うとシャキシャキとした食感が楽しめるレンコン。お正月の煮物やはさみ揚げなどの印象が強く「料理に手間がかかる」食材と思われがちですが、バターやオリーブオイルでソテーにしたり、さっと湯通ししたものをサラダにしたりと手間や時間をさほどかけなくとも美味しくいただくことが出来ます。主役にも脇役にもなる便利な食材ですし、ハンバーグやシチューなど洋食のレシピとも不思議とマッチしますよ。
漢字で「蓮根」と書く通り、普段食べているレンコンは蓮(ハス)の地下茎部分。仏教のシンボルとして大切にされている、あの泥水の中から美しい花を咲かせる蓮です。蓮が花と実を同時に付ける性質も、仏教の「華果同時」という教えと一致するとして、大切にされているのだとか。中国でも「蓮は泥より出でて泥に染まらず」という成句があり、東アジアを中心に蓮=清らかさや聖性の象徴としても愛されています。
蓮はアジアを中心に、様々な部位が食用として利用されています。茎は野菜としてサラダや煮物に、蓮の実はおやつ感覚や製菓原料として、葉は蓮菜飯に、花は蓮茶(ロータスティー)の香り付けにと、余すところがないですね。また、蓮は伝統療法の中で様々な部位が活用されている植物でもあります。花托は蓮房、種子は連肉または蓮子、胚芽は蓮子心、葉は荷葉、雄しべは蓮髭など、それぞれ効能・用途が異なる生薬として利用されています[1]。
日本での蓮の食用利用は、ほぼ地下茎部分であるレンコンだけ。レンコンしか食用に使わない、という日本はけっこうマイナーな蓮の利用方法をしている国と言えるのかもしれません。とは言え、近年は蓮の実も健康メリットが報じられ、薬膳食材やナッツの一種のような感覚で食べられるようになってきてます。植物としての蓮の実はブツブツしていてグロテスクですが、食材として1粒ずつばらされていれば嫌悪感も少ないでしょう。
ところで、レンコンと言えば縁起の良い食材の1つとして、お正月のおせちなど和食の中でも使われています。これは昔、レンコンに開いている穴が「先(未来)を見通す」ことに通じると考えられたため。とはいえ、レンコンの旬が10月~3月頃なのも、おせち料理の定番として定着した要素と言えるでしょう。保存技術の関係もありますから、お正月ころに採れる・その時まで日持ちがきく食材は今よりも少なかったでしょうしね。ちなみに、レンコンに穴がたくさん空いているのは、泥の中で成長しても潰れないようにする・空気を補給しやすくるなどの実用的な理由によるものです。
レンコンの選び方・保存方法
レンコンを選ぶ際はずんぐりとした丸みを帯びた形で、なるべく真っ直ぐに伸びているものを選びます。色は濃すぎず、クリーム色と呼べるくらいの色が良いとされています。ただし、低価格な水煮などの場合は、色が真っ白なものは漂白されている可能性が高いので注意。切れているものであれば穴が小さく、穴の中が変色していないものを選びましょう。
レンコンの栄養成分・効果について
栄養成分含有量の参考元:日本食品標準成分表2020年版(八訂)
レンコンは100gあたり48mgとビタミンCが多く、そのほかのビタミン類やミネラル類、食物繊維などを広く含む食材。特徴と言えるほど豊富な栄養成分はありませんが、幅広い栄養成分が含まれています。三大栄養素の中では淡水化靴の含有量が多く、生100gあたり66kcalと野菜としてはややカロリーが高めの部類。イモ類のようなタイプをイメージすると、献立に加える時に栄養バランスを考えやすいでしょう。
レンコンの効果効能、その根拠・理由とは?
便秘予防・改善に
日本食品標準成分表2020年版によると、レンコン生100gあたりの食物繊維量は不溶性食物繊維1.8g、水溶性食物繊維0.2g。ゴボウなどのように圧倒的な食物繊維含有量とはいえませんが、同グラムで比較した場合サニーレタスや茹でキャベツと同等程度の食物繊維を補給できます。
不溶性食物繊維は便のかさを増やし、摂取した食物の消化管移動スピードを適切に保ったり、腸の蠕動運動を促すことで便通を促したりする働きがあります[2]。食物繊維補給源として、便秘予防や改善に役立ってくれるでしょう。
また、レンコンはオクラや長芋のようにネバネバ感が強い食材ではありませんが、生で切ると時に細く粘り気のある糸をひきます。この粘り気の元となっている多糖類 Lotus root polysaccharides (LRPs)は、ほとんど消化されないことが報告されています[3]。こちらも食物繊維のような働きを持つと考えられますし、保水作用で便に水を含ませて柔らかく保つ・腸に膜を作って便の通りを良くするという説もあります。
胃腸の健康維持にも期待
レンコンを始め、植物粘液ムチレージ(Mucilage)を含む粘り気のある食材は、東洋・西洋どちらの伝統医療でも粘膜保護に役立つと考えられてきました。ヨーロッパでハーブとして使われるマーシュマロウなどが代表的です[4]。
私たち人間の胃腸や呼吸器官・目などを覆っている粘膜や粘液には、ムチンという動物性粘性タンパク質が含まれています。糖タンパク質によってできている植物性の粘り気(ムチレージ)はムチンとは別物ですが、粘膜保護の手助けをしてくれると考えられたのでしょう。日本の民間療法ではお腹の調子が悪い時・喉の調子が悪いときなどにレンコンを使用しています。
実際にレンコンを食品として摂取して粘膜保護・修復作用が得られるかは分かっていません。ただし、レンコンにはポリフェノールの一種であるタンニンも含まれています。タンニンには抗炎症作用や収斂・抗出血作用があります[5]。こうしたタンニンの働きから、下痢の改善や、胃炎などの予防・炎症軽減に繋がる可能性もあります。レンコンには抗酸化物質や、健康な体を維持するためのビタミン・ミネラルも含まれています。薬のような働きは期待できませんが、胃腸機能を整えるサポートに役立ってくれる可能性はあるでしょう。
むくみ・高血圧予防に
レンコンは生100gあたり440mgと、カリウム含有量が野菜の中でも比較的高い食材です。カリウムは電解質として機能し、ナトリウムとバランスを取り合うことで体液バランスを正常に保つ働きがあります。カリウムはナトリウムを体外に排出しやすくする働きもあります。このため、カリウムを適切に摂取することでナトリウム過多によるむくみ・高血圧の予防改善に繋がります[6]。
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免疫力サポートに
100gあたり48mgと、レンコンは野菜類でもトップクラスのビタミンCを含む食材です。ビタミンC含有量は、同グラムのレモン果汁に匹敵するほどですよ。ビタミンCは調理時に失われやすいのが難点ですが、レンコンに含まれているビタミンCはでんぷんに守られ、熱に強く加熱しても壊れにくい性質もあります。
ビタミンCは抗酸化作用が認められているビタミン。不足なく補うことで、ストレスによって生じた活性酸素を抑制し、酸化ダメージによる免疫機能低下予防に繋がります。そのほかビタミンCには抗ウイルス作用を持つインターフェロンの生成を促すことで免疫力を高める可能性が、レンコンの多糖類 Lotus root polysaccharides (LRPs)にも免疫刺激効果を持つ可能性が示されています[3]。
ストレスケアにも期待
レンコンに豊富に含まれているビタミンCは、副腎皮質ホルモンや抗ストレスホルモンと称されるコルチゾールの生成に関わる栄養素でもあります。カリウムも正常な神経機能の維持に必要なミネラル[6]。レンコンにはセロトニンやドーパミンの合成に関与するビタミンB6も含まれています。こうした栄養素を補給できることから、レンコンはストレス抵抗性の維持や、精神面での健康維持にも期待されています。
抗酸化・美肌作りに
レンコンには豊富なビタミンC、タンニン(水溶性フェノール化合物)の一種であるカテキンや、フラボノイドなどのポリフェノールが含まれています[7]。様々な抗酸化物質の補給源として、酸化ダメージによって起こる機能低下や老化予防にも役立ってくれるでしょう。お肌への酸化ダメージによって起こる、シミやシワの予防に繋がる可能性もあります。
また、レンコンに豊富に含まれているビタミンCは、メラニン色素の生成を防ぐ美白効果や、肌のハリを保つコラーゲンの生成促進効果も認められています。合わせてシワやたるみなど皮膚の老化予防にも役立ってくれるでしょう。ビタミンB類の補給など、栄養バランスを整えることも美肌作りに繋がります。
目的別、レンコンのおすすめ食べ合わせ
レンコンの注意点、その他
蓮根は切り口が空気に触れると黒ずんでしまいます。皮を剥いたらすぐ水につけておき、切った後は酢・レモン水に浸すことで白く綺麗な状態に仕上げることができます。水に晒しすぎると栄養も流出してしまうため、煮物などに使う場合はさっとアク抜きする程度で利用したほうが良いでしょう。
鉄製の包丁やお鍋で料理すると、鉄とタンニンが反応して黒ずんでしまいますので注意してください。
レンコンの注意点
レンコンは胃腸ケアに役立つ食材と称されることもあるものの、タンニンの過剰摂取は胃腸に負担がかかることが指摘されています。野菜として通常量を食べるくらいであれば問題ないとの見解が主流です。が、胃腸が弱い・弱っている方は注意が必要。大量に食べるのは避け、少量ずつ取り入れるようにしましょう。
【参考元】
- [1]ハス | 薬草データベース
- [2]11 Amazing Health Benefits of Lotus Root
- [3]Structural and biological properties of polysaccharides from lotus root
- [4]Word of the Day: Mucilage
- [5]Benefits of tannins for health: natural antioxidants
- [6]カリウム | e-ヘルスネット
- [7]Phenolic Profiles and Antioxidant Activity of Lotus Root Varieties