食べ物辞典:なめこ
ナメコは小ぶりなサイズと独特のヌメリ(粘質)が特徴的なキノコ。お味噌汁の具としても定番ですし、ぬめりを生かした和え物はお酒のお供としてもマッチしますよね。お料理に使う頻度が極めて高いとは言えないものの、ゲームや家庭用栽培キットの影響もあって食用きのこを代表する一つと言えます。ビタミン・ミネラルを幅広く含むほか、好き嫌いが分かれるネバネバ成分にも腸内フローラを整えるなどの働きが期待されていますよ。そんなナメコの歴史や栄養効果について詳しくご紹介します。
和名:ナメコ(滑子)
英語:nameko mushroom
なめこのプロフイール
なめこ(滑子)とは
なめこは独特のぬめり気から好き嫌いが別れますが、お味噌汁の具としても定番ですね。味噌汁以外にもスープ類に加えられることもありますし、大根おろしや納豆などと和えても食べられています。粘り気から椎茸や舞茸などのように汎用性が高くはありませんが、和風もしくは中華風の味付けであればサラダやパスタなどにも活用することも出来ます。年代や生活環境もあるかもしれませんが、どことなく和っぽさを感じさせてくれるキノコであるようにも思います。
ちなみにナメコ(滑子)という呼び名は、ヌルヌルとした食感から「滑らっ子(ヌメラッコ)」と呼ばれていたものが、呼びやすいナメコに変化したと考えられています。古くは表面がヌメリで覆われているキノコ全般が「なめこ(滑子)」と呼ばれており、エノキタケなどもナメコに含まれていたとも言われています。しかし現在エノキはヌメリの少ない白い栽培品種が主流となっていますから、現在は人工栽培のきのこ類の中で唯一ヌメリを持つモエギタケ科スギタケ属に分類されるキノコ(学名:Pholiota microspora)を指す言葉となっています。
天然のなめこは秋頃にブナやナラなどの枯れ木や切り株に群生し、多い場合は一箇所で数キロ単位で収穫出来ることもあるそう。他のキノコ類と同様に、なめこも天然物が最も味や香りが濃く、ぬめりも強いと言われています。日本全国に分布しており昔から親しまれてきたキノコの1つですが、現在スーパーなどで販売されているものは基本的に栽培されたものとなっています。菌床栽培ものは風味は弱いですが、食感が柔らかくぬめりが少ないので食べやすいというメリットもあります。製造社によってヌメリが少ない・カサが大きいなど特色のあるなめこも販売されていますね。
同じ栽培ものでも天然の木(丸太)に直接種菌を植え付ける原木栽培は、天然物に近く風味・ヌメリがしっかりとしていると評されています。ただしコスト面などの関係から流通性は多くありません。スマートフォンゲームでは株式会社ビーワークスさん開発の『おさわり探偵 なめこ栽培キット』シリーズが大ヒットとなりましたが、実は本物のなめこも害菌に対する抵抗力が強い部類ため家庭で栽培することが出来ます。家庭栽培キットなどでは菌床栽培ものが多いですが、原木ナメコ栽培キットを使う・ホダ木に種駒を入れるなど原木栽培にチャレンジされる方もいらっしゃるそうです。
余談ですが、商品として見かけるなめこは小粒でカサがポコンと丸みを帯びた形をしていますが、これは傘が開ききる前の幼菌の状態で収穫されているためです。成長すると半球状のカサ部分が開いて扁平な形状になっていき、ヌメリも減少するので炙って食べるとシャキシャキした食感が楽しめるのだとか。と言っても生のナメコは賞味期限が短いですし、シャキシャキすると言われるなめこを食べられる機会はほとんどありません。きのこ狩りではコレラタケなどの毒キノコとなめこを間違えた中毒事件もあるので、自己判断での採取には注意が必要です。
なめこの歴史
なめこは日本をはじめ台湾や中国・ヨーロッパなど広範囲に自生していることが認められていますが、食用していたのは日本だけのため日本原産のキノコとして扱われています。1929年からは学名も日本語の「なめこ」からPholiofa Namekoと付けられていたのですが、2008年にヒマラヤ産のキノコPholiota microspora (Berk.) Sacc.と同一種だと結論付けられました。ヒマラヤ産キノコが記載されたのは1850年と古いことから学名が変更され、現在namekoの表記は用いられていません。ただし英語での呼び名としてはButterscotch Mushroomもしくは和名そのままのNameko Mushroomが定着しているそうですよ。
現在私達がイメージするなめこが日本でいつ頃から食べられていたかは断定されていません。縄文中期の遺跡などからはキノコの形をした土製品が多数発見されており、縄文の人々が毒きのこ中毒を防止するための見本として用いていたのではないか=縄文時代にはきのこの食習慣があったと考えられています。縄文の人々がなめこを食していたかは定かではありませんが、キノコ形土製品にはなめこのような形状をしたものもありますから食していた可能性が無いとは言い切れないようです。
…と言っても、大正時代になめこの栽培が行われるようになるまでは枯れ木や切り株に自生した天然なめこ採取するしか無く、江戸時代まではポピュラーな食材ではなかったとも言われています。天然のなめこが採れやすかった北関東以北では食されていたようですが、松茸や椎茸のように広く知られるキノコではなかったようです。江戸時代に記された料理本『料理物語』には12種類のきのこレシピが記載されていますが、こちらにもナメコは含まれていません。
人工栽培(原木栽培)は大正時代後半頃から行われていましたが、当初は原木にナタ目を入れ胞子が付着するのを待つという運任せなところがある方法だったそう。昭和5年に森本彦三郎氏が種菌の培養に成功したことで少しずつ安定して栽培出来るようになったものの、昭和初期までは缶詰・ビン詰めにしたものが主流でした。第二次世界大戦後になって菌床栽培技術が確立され、昭和後期にかけて栽培技術が進歩していったことで現在では株取りの生なめこも通年流通するようになっています。なめこが「お味噌汁の定番の具の一つ」と言われるほど定着するようになったのは、人工栽培が出来るようになって以降なのでごく最近と言えますね。
なめこの栄養成分・効果について
栄養成分含有量の参考元:日本食品標準成分表2015年版(七訂)
なめこは100g(約1袋)で約15kcalとキノコ類の中でも低カロリーな食材で、ナイアシンやパントテン酸などビタミンB群を含んでいます。さほど量は多くないもののカリウム・マグネシウム・鉄・亜鉛などのミネラル類も含まれていますから、献立にプラスすることで不足しがちな栄養素をカバーしてくれるでしょう。また粘液質の元となっている水溶性食物繊維に分類される糖タンパク質にも、様々な健康メリットが期待されています。
なめこの効果効能、その根拠・理由とは?
便秘・腸内フローラ改善
なめこの食物繊維含有量は100gあたり3.3gとキノコ類としては多い部類ではありません。しかしなめこの表面を覆うヌルヌルとした粘液質はガラクタンやマンナンなどの多糖類がたんぱく質と結合したもので水溶性食物繊維としての働きがあること・水溶性食物繊維量だけでみると100gあたり1.1mgとキノコ類トップクラスの含有量であることから、キノコ類の中でもお腹の調子を整えて便通を良くしてくれる働きが高いと考えられています。
ちなみになめこのヌルヌル成分はムチンと表現されることがありますが、ムチンは動物性粘性タンパク質のみを指すという見解もあります。私たち人間の胃腸や呼吸器などの粘膜・粘液に含まれているムチンとは別物ではありますが、似た結合様式・粘り気を持つ糖タンパク質であることから、ムチン型糖タンパク質やムチン様粘液多糖体と呼ばれています。ムチン様粘液多糖体は消化器官内で水溶性食物繊維として働くと考えられており、便の硬さを調節する働き・腸内善玉菌の餌になることで善玉菌の増殖を助け腸内フローラのバランスを良くする働きが期待されています。またヌメリ気によって腸の粘膜を保護し、腸内善玉菌の増加・定着を良くするという説もあります。
加えてβ-グルカンなどの不溶性食物繊維類も、腸内の老廃物の排出を促したり、便の容量を増やして腸を刺激することで蠕動運動を促す働きが期待されています。腸機能や腸の健康サポートとしては不溶性食物繊維:水溶性食物繊維=2:1程度の割合での摂取が理想的とされており、なめこの食物繊維は100gあたり不溶性食物繊維が2.4g・水溶性食物繊維1.0gと理想バランスに近いことも特徴と言えるでしょう。バランス良く食物繊維を補給することで便秘解消や老廃物の排出促進と、腸内環境を整える両方の方面から便通の改善をサポートしてくれるでしょう。
免疫機能サポート
なめこにはβ-グルカンと呼ばれる食物繊維の一種が含まれています。β-グルカンはキノコや酵母類・海藻・大麦などに含まれているグルコースがβ結合によって連結した多糖体の総称で、様々な種類がありますがキノコ類に含まれているβ-グルカンは免疫細胞の活性化・免疫の関連物質であるインターフェロンの分泌促進作用を持つと考えられています。β-グルカンの有効性や推奨量などについては研究途中ですが、摂取しても胃腸で消化・分解されずに腸内の免疫担当細胞に働きかけ、免疫力機能を活発化・向上させる作用が見られたという報告は各国の研究機関からなされています。
このためβ-グルカンを含むなめこ他キノコ類は、免疫機能への働きかけによって体外のウィルスへの対抗力を高めてくれる健康食材としても注目されています。風邪やインフルエンザなどの予防や回復促進をはじめ、免疫機能のバランスが整うことでアレルギー低減に繋がる可能性も注目されていますよ。なめこの場合は免疫抗体の合成に関係しているパントテン酸を多く含むことや、ムチン様粘液多糖体には鼻や喉などの呼吸器粘膜を保護する働きが期待されていることから、ウィルスの侵入を防ぐ働きサポートとしても役立つと考えられています。
粘膜保護・ドライアイ対策に
なめこ独特のネバネバの元となっている多糖類(ムチン様粘液多糖体)は私達人間の体内に存在しているムチンとは別物ですが、ムチンをサポートするように働くことで粘膜系の保護強化・修復をサポートしてくれるのではないかと考えられています。胃腸粘膜を保護することで胃炎や胃潰瘍の予防や改善効果が期待されている他、肝臓や腎臓などの内臓機能向上に役立つという見解もあります。
内蔵以外に、ムチンは目では表面にある涙の層のうち“ムチン層”と呼ばれる保護層を形成する成分でもあります。ネバネバ成分である粘液多糖体の構成物質もこの保護層強化に役立ち、涙を保持してドライアイや目の不快感を予防に繋がる可能性があると考えられています。こうしたムチン様粘液多糖体の健康効果については実証されていない部分も多いことが指摘されていますが、身体に悪影響を与える危険性は低いとも言われています。なめこは食材(食品)ですから劇的な効果は期待しない方が良いですが、内臓の健康維持やドライアイ対策として取り入れてみても良いでしょう。
ストレス抵抗力アップ
なめこにはビタミンB群の一つであるパントテン酸が生100gあたり1.29mgと、キノコ類の中でも比較的多く含まれています。パントテン酸はコエンザイムA(補酵素A)の構成成分として代謝に関わるなど様々な働きを持つビタミンで、副腎皮質ホルモンの合成にも関与しています。私達の身体はストレスを受けるとコルチゾールなどの副腎皮質ホルモンを分泌し、ストレスに抵抗もしくはストレス化の状況から逃避できるよう備えています。パントテン酸は副腎皮質ホルモンの合成を促してくれるビタミンの一つのため、不足なく補うことはストレス抵抗力を高めることに繋がると考えられています。
なめこにはギャバ(GABA/γ-アミノ酪酸)が含まれており神経の興奮を抑えたりストレス軽減効果があるという説もあります。白味噌もGABAの働きでリラックス効果があると言われていますし、日本人の場合は味噌の香りでもリラックス効果があることが報告されています。ストレスが気になる方は一日一杯、なめこの味噌汁を食べるようにするとリラックスやストレス性の疲労軽減をサポートしてくれるかもしれません。
生活習慣病予防
なめこ独特のぬめりの元となっている多糖類(ムチン様粘液多糖体)は水溶性食物繊維として働くことから、余剰コレステロールを吸着して排出させる働きや、ゲル化して同時期に食べたものの消化吸収スピードをゆっくりにする働きがあると考えらます。このため高コレステロール血症や糖尿病などの生活習慣病予防効果が期待されています。またムチン型糖タンパク質は臓器を健康に保つ手助けをしてくれると考えられることから、腎臓機能を強壮してむくみ・高血圧軽減などの効果も期待されています。なめこにはカリウムも含まれているので相乗して高血圧予防にも繋がるでしょう。β-グルカンにも生活習慣病予防効果が期待されていますし、悪性腫瘍(ガン)の抑制効果を持つ可能性があるという報告もあり健康成分として注目されています。
二日酔い予防・軽減
なめこに多く含まれているビタミンB群の一つであるナイアシンは二日酔い予防にも役立つと考えられている成分。お酒を飲んだ翌日に頭痛や吐き気などが残る二日酔いはアルコールの分解途中で発生する毒性の強い物質“アセトアルデヒド”が体内に残っていることが主な原因と考えられています。ナイアシンはアルコール脱水素酵素やアセトアルデヒド脱水素酵素の働きを助ける働きがあります。
ナイアシンの消費はアルコールを飲むほど多くなり、ナイアシンが不足するとアルコールの分解途中で生じるアセトアルデヒドの分解が滞ってしまいます。このためナイアシンを含む食材の摂取は悪酔いや二日酔いの予防・軽減に有効とされ、二日酔いの朝になめこ汁などを飲むようにすると良いとも言われています。ムチン型糖タンパク質にも肝臓保護・強壮作用が期待されていますから、お酒をよく飲む方はなめこをおつまみとして取り入れてみると良いかもしれません。
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ダイエットサポート
なめこは100g(約1袋)で約15kcalと低カロリーな食材。ネバネバの元となっている水溶性食物繊維類は水に溶けてゲル状になることで同時期に摂取した食材を包み込み、消化器官内の移動をゆっくりにする働きがあります。この働きから血糖値の急激な上昇を抑え、インスリンによる脂肪蓄積を抑制する働きも期待できます。便通の改善からもぽっこりお腹の改善に繋がりますし、間接的にではありますが腸内フローラの善玉菌を増加させることからも代謝向上・脂肪蓄積抑制が期待できるでしょう。
加えてなめこには栄養素の代謝に関わるビタミンB群が含まれており、ナイアシンとパントテン酸が豊富です。ナイアシンもパントテン酸も三大栄養素(糖質・脂質・たんぱく質)の代謝を補助する働きがあるビタミンのため、エネルギー産生を高めて脂肪の蓄積を予防する働きが期待できます。便秘改善や代謝向上から太りにくい体質作りに繋がると考えられます。ただしなめこを食べただけで脂肪が燃焼する・痩せるという可能性は低いですから、栄養バランスや運動を取り入れた健康的なダイエットのサポート役として活用して下さい。
美肌保持・乾燥予防
なめこはキノコ類の中でも高い美肌効果が期待できる食材として注目されている食材です。なめこが美肌作りに有効とされるのにはいくつか理由がありますが、コンドロイチンやトレハロースが含まれているということがよく紹介されていますね。コンドロイチンは関節軟骨などに含まれる成分で関節をスムーズに動かす働きがある他、皮膚などの組織に保水性や弾力性を与える働きもあります。この働きから肌の弾力性を高め、ハリや潤いを保持してくれる成分として活用されていますね。
トレハロースはキノコ類に多く見られる糖質の一種で、トレハロースは高い保湿力が報告されていることから乾燥肌対策として注目されている成分。化粧品類の保湿成分という印象が強いですが、食べた場合でも保水性を高める働きが期待されています。トレハロースには保湿だけではなく肌細胞を保護する働きも期待されています。このためナメコを食べると肌の乾燥予防に繋がり、潤いあるプルプルの肌を保つ手助けをしてくれると考えられていますよ。
そのほかナイアシンやパントテン酸などのビタミンB群は皮膚や粘膜の健康を維持する役割があるため肌荒れ予防に繋がると考えられていますし、ナイアシンは血行促進があるので肌への血流をアップして新陳代謝を高める効果も期待されています。便秘改善・腸内フローラの改善からも肌荒れやくすみの改善、腸内細菌によるビタミン合成率向上など美肌効果が期待できるでしょう。鉄分や亜鉛などのミネラル補給にもなりますから、様々な方面から美肌作りをサポートしてくれる食材と言えそうです。
目的別、なめこのおすすめ食べ合わせ
なめこの選び方・食べ方・注意点
なめこを選ぶ時は全体的にツヤが良く、粒の大きさが揃っているものを選ぶと良いと言われています。一般的にカサが小さいものの方が良いと言われていますが、カサが大きい種類もあるので一概には言えません。
なめこは傷みが早いため、冷蔵庫で保管してなるべく早く食べるようにしてください。日持ちは長い場合でも一週間程度で、黒っぽくなってきたり異臭がするものは食べられません。買ったものの数日間の間に使う予定がない場合には、石づきから外し水洗いをしてから冷凍保存するようにしましょう。冷凍保存の場合でも2~3週間が保存期間の目安とされています。
なめこに含まれているムチン様粘液多糖体にはタンパク質分解酵素が含まれているという説もあり、タンパク質の消化吸収を促進する働きも期待されています。しかしなめこ自体は繊維質が多く、消化が良いとは言えない食材。そのため消化をサポートしてくれる大根おろしとの組み合わせは相性が良く、栄養吸収率の向上も期待できます。
なめこの下処理と注意点
なめこは“なめこおろし”など冷たい状態で食べられることもありますが、基本的に生のまま食べることは出来ません。食中毒を起こす可能性もあるので加熱して食べるようにしましょう。流通している袋入なめこの多くは菌床栽培物でゴミなどはほとんどありません。洗わずに利用することもできますが、気になる場合は石づき部分を切ってから軽く水につけて汚れをすすぐようにします。パッケージに洗うべきか・洗わずに使用すべきかが表示されている商品も多いので、下ごしらえの前にご確認ください。
洗う場合でも洗いすぎるとなめこから粘液(ヌメリ)が落ちてしまうため、軽くすすぐ程度が望ましいとされています。ナメコに期待される健康メリットは表面の粘液に含まれている成分によるものも多く、粘液を取り除いた試験では機能性効果が見られなかったという報告もあります。好みやメニューによりヌメリを落として利用されることもありますが、栄養摂取の面からはぬめりを逃さない状態で食べるのがオススメ。落ちてしまった粘液もしっかりと食べることが出来る味噌汁やきのこスープなど汁物の利用が最も効果的という見解もあります。熱に弱い成分も含まれているので長時間グツグツ煮込まないようにしましょう。