食べ物辞典:クコの実
スーパーフードの一つとして話題になり、スーパーなどでも購入しやすくなったクコの実。古くは不老長寿に繋がる食材と考えられ、現在でも高抗酸化力のアンチエイジングフードに数えられています。抗酸化作用による健康メリットや、紫外線による肌老化予防など美容面でも注目されている、クコの実の成分や期待されているメリット・その根拠を詳しくご紹介します。
和名:枸杞(くこ)
英名:Goji berry/Chinese wolfberry
学名:Lycium chinense
クコの実とは
クコの実/ゴジベリーのプロフィール
一時期メディアで美容効果が取り上げられ、密かなブームとなったクコの実。一昔前まではクコの実=薬膳料理・食べる生薬というようなイメージが多く、一般的な認識は「おばあちゃんの知恵袋・薬膳が好きな人が使う」くらいのイメージ。中華料理で杏仁豆腐やお粥の上などにアクセントとして乗せられている小さな赤い粒というくらいで、お家に常備されている方というのはかなりの少数派だったと思います。
そんなクコの実ですが、2000年頃から世界のセレブ達がエイジングケアに取り入れていると注目され、非常に栄養価が高い“スーパーフード(スーパーフルーツ)”という評価が報道されました。メディアによっては食べるエステ・食べるパック・美容液フードなどと表現していたこともあり、美容フードとして人気を高めました。日本ではスーパーフード感を高めるためか、英名の“Goji berry(ゴジベリー)”という表記を使ったものも見かけます。ちなみに、gojiは中国での“枸杞”の発音をそのまま使ったもの。
メディアでは次々と異なる食材の健康メリットが取り上げられますし、ゴジベリー製品に対して過剰な効能が謳われていた事が問題となったこともあり、クコの実の大ブームと言える時期は過ぎました。しかし、クコは原産域である東アジア~中央アジアの伝統医学で生薬として用いられてきました。中医学ではクコの果実は“(クコシ)枸杞子”、葉を“枸杞葉(天草精)”、根皮を“地骨皮”と余すところなく活用されてきた植物[1]。私達が食べている実の部分、枸杞子は民間療法の中でも滋養強壮や不老長寿に繋がる食材として親しまれてきました。
もちろん現在でも、クコの実はドライフルーツの一種として販売されています。ナッツ&ドライフルーツミックス、健康志向のジュース、グラノーラなどでもクコの実入りの商品を見かけます。クコの実の特徴的な目を引く鮮やかな赤色はアクセントになりますし、あまり味がしないので何にでもプラスできることもメリット。スーパーフルーツというとアサイーやカムカムなど日本で馴染みのなかった果物の印象もありますが、実はクコの実やカカオ・ザクロなど私達に親しみのある食材も結構あります。薬のように扱うのではなく、日々の食事として普通に栄養補給に役立てたいものですね。
植物として見ると、クコの実はナス科クコ属に分類されるクコ(学名:Lycium chinense)という低木になる果実で、原産は東アジア。世界的に見ればクコ属の植物は約100種あり、クコの実と同じGoji berryやChinese wolfberryと呼ばれている種にもう一つ、アジアから南東ヨーロッパにかけてが原産のナガバクコ(学名Lycium barbarum)という同属種もあります。和名クコとされているLycium chinenseはシノニムLycium barbarum var. chinenseと表記されることもあるように非常に近い存在で、栄養成分にも大きな違いはないと考えられています[2]。ちなみに、人によっては産地や種類で呼び分ける方もいるそうですが、消費者目線で言えばゴジベリーとウルフベリーという呼称も特に区別せず使われていることが多いようです。
クコの実の選び方・活用方法
乾燥クコの実は甘みがなく独特の臭みが若干舌に残るものもあります。食感も硬めでどことなくゴムっぽいものが多く、レーズンなどのようなドライフルーツ感覚でそのまま食べるのはちょっと厳しい食品。自分の知る限りものすごく甘くて柔らかいドライゴジベリーはありませんが、メーカーによって味・食感が良く食べやすいものもあります。ネットで購入する場合はレビューを参考にすることをおすすめします。
買ってしまったけれど食べにくい、という場合はカレーなど味の濃い料理に入れる・酢や酒に漬け込むと使いやすいでしょう。ドライフルーツとして買ったものでも、水で戻してから砂糖を加えて煮ることでジャムを作ることも出来ますよ。お砂糖を使いたくない方は、柔らかい状態に戻してからミキサーにかけてスムージーに入れ込んでしまう方法もあります。
クコの実(ゴジベリー)の栄養成分・効果について
栄養成分含有量の参考元:日本食品標準成分表2020年版(八訂)
様々なビタミンとミネラルが含まれており、かつ高抗酸化食品であることからスーパーフード(スーパーフルーツ)として世界的に注目されたクコの実。豊富なカロテノイド類を筆頭に、アミノ酸やビタミンB群、鉄分やカルシウムなどの各種ミネラル、食物繊維などの補給にも役立ってくれるでしょう。
クコの実の効果効能、その根拠・理由とは?
抗酸化・アンチエイジングに
クコの実が世界的に注目されるようになった理由として挙げられるのが“高抗酸化食品”、高い抗酸化作用を保つ食材であると報じられたことでしょう。クコの実は抗酸化力の指標として利用されていたORAC(活性酸素吸収能力)で上位グループにランクインしていました。Superfoodlyによると燥クコの実のORACスコアは4,310 μ mol TEと、レーズンよりも高いスコアが付けられています[3]。
クコの実にはβ-カロテン・ルテイン・ゼアキサンチンなどのカロテノイド類、ルチンやタンニンなどのポリフェノール類、ビタミンCなど抗酸化作用を多く含まれていることも分かっています。こうした抗酸化物質の補給によって、て体内のフリーラジカルによる酸化ストレスから細胞を守り、アンチエイジングや生活習慣病予防、免疫機能サポート、美容効果など様々なメリットが期待されています。古くはクコの実が不老不死に通じる食材、と考えられていたことも納得ですね、
加えて、クコの実に含まれている多糖類(Lycium barbarum polysaccharides/LBPs)にも抗酸化特性や免疫調節特性など、健康維持に役立つ作用が見られたことが報告されています[2]。中国で行われたマウスを使った実験では、クコの実に含まれている多糖類が体内の総抗酸化活性を高めるのに役立つこと、クコの実の多糖類にビタミンCを加えることで抗酸化活性がさらに高まることが報告されています[4]。
生活習慣病予防にも
酸化ダメージは老化を加速させるだけではなく、様々な疾患、特に血流系トラブルや心血管疾患のリスクを高める可能性もあります。生活習慣病リスクを高める要因の一つとしても、過度なストレス・紫外線・喫煙などから発生する活性酸素が挙げられています。同じ様な生活を続けていても、加齢とともにSOD酵素など自分の体内にある抗酸化物質の働きが衰え、様々な悪影響を引き起こしやすくなってしまいます。
クコの実は高い抗酸化作用を保つ食品のため、体を酸化によるダメージから保護する働きが期待されています[4]。動物実験では、抗酸化酵素の活性増加、総コレステロールに対するHDLコレステロール(善玉コレステロール)の比率が増加したこと、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)の減少などが見られたことも報告されています[2]。こうした研究報告から、酸化とLDL増加によって起こる動脈硬化や心筋梗塞の予防に役立つ可能性も示唆されています。
加えて、クコの実には別名“ビタミンP”とも称される、ルチンなどのフラボノイド系ポリフェノールも含まれています。ビタミンPにはビタミンCの作用をサポートする働きがあり、ビタミンCと共にコラーゲン生成を促して血管を丈夫に、しなやかな状態に整えることにも繋がります。合わせて動脈硬化や血栓予防をサポートしてくれる可能性もあるでしょう。
血糖値対策のサポートにも期待
クコの実は抗酸化作用だけではなく、糖尿病予防に対しての有効性も研究されています。2014年『Drug Design, Development and Therapy』に掲載されたレビューでは、クコの実に含まれている多糖類(Lycium barbarum polysaccharides/LBP)に“グルコース代謝とインスリン分泌を増加させ、膵臓のβ細胞増殖を促進することにより、有意な血糖降下作用とインスリン感作活性を示す”ことが紹介されています[5]。
クコの実は血糖値上昇を抑えことで2型糖尿病の予防にも役立つのではないか、抗酸化作用によって合併症の予防にも繋がるのではないかと、今も研究が進められています。ただし、現時点では有用性は認められたものではなく、可能性段階。研究もクコの実ではなく抽出物を使用して行われているものが大半ですから、過剰な期待はせずに食材として適量を食べるようにしましょう。
栄養補給・免疫力サポートに
クコの実は必須アミノ酸、ビタミンCやビタミンB群、カルシウム・鉄・セレンほか20以上のミネラル類を含む栄養豊富な果物。抗酸化作用を持つβ-カロテン・ルテイン・ゼアキサンチンなどのカロテノイド類も豊富なことから、栄養補給や抗酸化サポートに適したスーパーフードとして注目されています。また、日本食品標準成分表2020年版によるとクコの実(乾燥)100gあたりのタンパク質量は12.3g。ドライフルーツの中ではタンパク質が多く含まれているため、栄養補給や疲労回復のサポートとしても優れていると考えられます。
クコの実が保つ高い抗酸化作用は、免疫機能の機能低下を予防する働きもあります。ビタミンCやβ-カロテンには抗酸化作用以外に、皮膚や粘膜を健やかに保つ働きもあります。より直接的にウィルスの侵入を防ぐ手助けにも繋がることから、風邪予防にも期待できるでしょう。クコの実に含まれている多糖類(Lycium barbarum polysaccharides/LBP)に、免疫調節機能が見られたことを報告している研究もあります[2]。
ストレスケア・安眠にも期待
クコの実は気分の安定、睡眠の質・寝起きの良さの向上などの面でも有用性が期待されています。2008年に『Journal of Alternative and Complementary Medicine』に掲載されたアメリカの無作為化二重盲検プラセボ対照臨床試験では、ゴジベリージュースを二週間摂取すると睡眠の質の改善、集中力の向上、疲労・ストレス軽減が見られたことが発表されています[6]。同研究では倦怠感とストレスを大幅に軽減したことで幸福感が主観的に高まり、神経機能が安定することで胃腸機能の改善が見られたことも報告されています。
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貧血予防・ダイエットサポートに
クコの実は幅広く必須ミネラルを含んでおり、中でも鉄分は100gあたり6.80mgとドライフルーツの中でも比較的豊富な部類。乾燥状態のクコの実を1日に食べる量はそう多くありませんが、普段の食事で不足しがちな鉄分補給の手助けになる可能性はあります。ルチンなどのビタミンPと呼ばれるフラボノイドは、コラーゲンの生成を高めて毛細血管を強化する・血中脂質を整えるなどの働きも期待されています。鉄分補給と合わせて貧血・血行不良の予防をサポートしてくれるでしょう。
加えて、クコの実には血糖値上昇を抑制する働きを持つ可能性も報告されています[5]。抗酸化力を高めることからも代謝低下予防に、ストレスを和らげる・神経を落ち着かせる働きからイライラ過食の予防に繋がる可能性もありますね。食べることで痩せると認められたものではありませんが、栄養補給源としても優れた食材ですから、肥満予防やダイエットのサポートに取り入れてみても良いでしょう。
目の疲れ軽減・視機能保持に
クコの実に含まれているβ-カロテンから変換されるビタミンAは網膜で光を感知するロドプシンの生成にも利用されています。ロドプシンは脳へ映像を伝えるために分解された後、再合成され再び情報伝達のための分解を繰り返しているタンパク質。このため不足なく補うことで夜盲症の予防に繋がると考えれているほか、目の疲れの緩和・視界をクリアにするなどの働きも期待されています。また、ビタミンAは目や呼吸器などの粘膜を正常に保持する働きから目の乾燥予防に、β-カロテンは抗酸化作用によって目のダメージを軽減する働きもあります。
同じくカロテノイドに分類される色素成分ゼアキサンチンは目の黄斑部に存在する成分であり、強い抗酸化作用によって白内障などの目の老化・黄斑変性症予防に効果が期待されています。早期加齢性黄斑変性症の方を対象とした、ゴジベリーサプリメントの実験では“血清ゼアキサンチンレベルおよび視力の改善がみられた”との発表もあり[7]、クコの実は目の健康維持にも期待されています。
β-カロテンやゼアキサンチンを豊富に含むクコの実は「飲む目薬」と称されることもあります。伝統医学の中で目に良い食材と考えられていたのも、経験的に何らかのメリットが実感できたからなのかもしれませんね。ちなみに、ゼアキサンチンは紫外線やパソコンやスマホから発せられる青色光(ブルーライト)を吸収することで目を守る働きが期待されている成分でもあります。視機能の老化が気になる方だけではなく、パソコン・スマホ・テレビなどを見ている時間が長く目の酷使が気になる方のサポートにも役立ってくれそうです。
美肌・アンチエイジングに
ビタミンやカロテノイド、ポリフェノール、多糖類(Lycium barbarum polysaccharides/LBP)などの抗酸化作用を持つ成分を豊富に含むクコの実。優れた抗酸化力は体内の酸化を予防して健康を保つだけではなく、内側からお肌の酸化予防に働きかけることで肌をキレイに保つ働きも期待されています。肌細胞が酸化ダメージを受けるとシワやたるみ・くすみなどの肌老化が促進されることが指摘されていますから、クコの実は若々しく綺麗な肌を保つためのサポートをしてくれる可能性もあります。
ルチンなどのビタミンP類はコラーゲン生成を促進する働きがありますから、クコの実はコラーゲン生成促進&減少防止とダブルの機能によってシミやシワ・たるみなどの改善が期待されています。β-カロテンから変換されるビタミンAも皮膚の保持や新陳代謝向上などに関わっていますから、乾燥肌や角質化・ゴワつきなどの改善にも効果が期待できるでしょう。鉄分の補給や血行促進から肌のくすみ軽減・新陳代謝促進などに繋がること、抗酸化・コラーゲン生成促進・血行促進作用から美髪効果も期待できることなどもあり、クコの実は美容食材として高く評価されています。
更に、クコの実に含まれているベタインには紫外線B(UVB)の皮膚の損傷を予防する働きがあることが報告され、UVB誘発性のしわやコラーゲン損傷の形成を抑制効果が期待されています[7]。資生堂さんの実験ではクコの実エキスを経口摂取してから紫外線を浴びると、紫外線による損傷・色素沈着が軽減されることも報告されています[8]。このため、クコの実は内側からの紫外線対策・美白食材としても注目されています。
目的別、クコの実のおすすめ食べ合わせ
クコの実の注意点、その他
クコの実は食べ過ぎるとお腹を壊す・胃に不快感を覚えるなどの不調を引き起こす原因となる可能性もあります。一日の摂取量としては10粒程度が推奨されており、多くても20粒以内にすべきという見解が主流です。胃腸サポートに有用とも言われていますが、元々消化器が弱い方は負担がかかりすぎるので3~5粒程度から始めると無難です。体調に変化があれば無理をして続けず、不快感が大きい場合は病院で診断してもらいましょう。
クコの実の注意点
クコの実は女性ホルモンへの働きかけを持つ可能性があるため、妊娠中・授乳中の摂取は控えたほうが確実です。また、血圧を下げる働きが強いので低血圧の方は摂取量に注意が必要である、血糖値を下げる働きがあるので低血糖を起こす危険性があることなども指摘されています。
また、in vitro実験では、クコに含まれているフィトケミカルが薬物の代謝を阻害する可能性があることを示唆した報告もあります。特に肝臓の薬物代謝酵素チトクロムP-450(CYP)によって代謝・阻害を受ける医薬品、ワルファリンや糖尿病・高血圧症の薬には注意が必要とされています。医薬品を服用中の方は、医師もしくは薬剤師の方に摂取可能かどうかを確認した上で、クコの実を取り入れるようにして下さい。
乾燥クコの実のビタミンCについて
クコの実は「オレンジの100倍のビタミンCを含む果実(500倍と言う方も)」「ビタミンCの補給に最適」などと紹介される事もありますが、乾燥クコの実の場合ビタミンC含有量は多くありません。日本食品標準成分表2020年版に記載されている、乾燥クコの実100gあたりのビタミンC含有量は9mg。生のオレンジ100gあたりのビタミンC含有量は40mgとされていますので、ビタミンC補給源としてクコの実に過度な期待はしないことをおすすめします。
【参考元】
- [1]生薬の玉手箱【枸杞子・地骨皮・枸杞葉(クコ)】
- [2]Goji (Lycium barbarum and L. chinense): Phytochemistry, Pharmacology and Safety in the Perspective of Traditional Uses and Recent Popularity
- [3]Goji Berry (Wolfberries), Dried | Superfoodly
- [4]Effect of the Lycium barbarum polysaccharides on age-related oxidative stress in aged mice
- [5]An evidence-based update on the pharmacological activities and possible molecular targets of Lycium barbarum polysaccharides
- [6]A randomized, double-blind, placebo-controlled, clinical study of the general effects of a standardized Lycium barbarum (Goji) Juice, GoChi
- [7]Goji Berries as a Potential Natural Antioxidant Medicine: An Insight into Their Molecular Mechanisms of Action
- [8]資生堂、「枸杞(クコ)の実」エキスの経口摂取による新たな美白効果を発見