シナモンとニッキの違いとは?
-植物・使用部位・成分と風味を比べると…

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概要人によって同じもので英語と日本語だとか産地が違う・種が違うなど、色々と言われるシナモンとニッキ。同じようなものだと思われがちなシナモンとニッキですが、実は植物も使用している部位も違います。風味としてもシナモンとニッキには違いがありますよね。そんなシナモンとニッキの違いについてや、生薬として使われている桂皮とニッキ・シナモンの関係などをど紹介します。

シナモンとニッキの違い、植物編

植物分類上での違い

シナモンという言葉はクスノキ科ニッケイ属の樹木から取れる香辛料を指す言葉で、wikipediaの記載では“複数の植物種とそれらの一部が作り出す商業的香辛料の名称”と紹介されています。しかし、その中で香辛料のシナモンとして一般的に利用されているのはセイロンニッケイ、学名をCinnamomum verum(旧式の表記でCinnamomum zeylanicumとも)という種類が主呼び名に“セイロン”と付くように原産はスリランカで、現在でも世界供給量の8割以上はスリランカ産と言われています。風味の異なる品種がいくつかあるそうです。

対してニッキはニッケイ(肉桂)と呼ばれる植物を原料としています。こちらは学名がCinnamomum sieboldii(シノニムCinnamomum okinawense)で、中国南部~台湾にかけてのエリアが原産とされています。日本でも江戸時代くらいから樹木の栽培が行なわれており、鹿児島県・高知県・和歌山県など国産もありますよ。八つ橋やニッキ飴などに使われているのがシナモンではなく“ニッキ”なのも、日本で生産されていたのがニッケイだったためと言われています。今でこそ輸入物のシナモンより国産のニッキの方が割高ですが、かつては輸入品よりも国内で生産されていたニッケイのほうが使いやすかったのでしょう。

そして紛らわしいことに、香辛料としてシナモンやニッキと呼ばれている第三の種があります。こちらは中国南部からベトナムにかけての地域で多く栽培されている品種で、学名はCinnamomum cassia和名はシナニッケイとされていますが、学名そのままにシナモンカッシアもしくはトンキンニッケイとも呼ばれています。元々中国で漢方の生薬として“肉桂”と呼ばれていたものはこのシナニッケイの樹皮部分だったのですが、日本にニッケイ(C.sieboldii)の樹木が伝わった際に間違って名前をつけてしまったとも言われています。

最低限のシナモンの定義を満たすクスノキ科ニッケイ属の植物は他にも種類がありますが、香辛料(スパイス)として利用されているのはこの3つが主体となっています。

使用部位の違い

香辛料として使われる甘くてマイルドな香りのシナモンは、セイロンシナモンの樹皮(内樹皮)を乾燥させたものです。パウダーの方ではなく、シナモンスティックの方をイメージして頂くと分かりやすいのではないでしょうか。
ちなみに内樹皮とされるのは樹皮(木の一番外側の部分)ではなく、幹の皮を剥がする出てくるコルクっぽい層の部分が使われています。そのためスティックで見ると、木の皮というより薄く削いだ木部が丸まっているような、結構ガッシリとした厚みのある形状をしています。

が、しかし。
ニッキもしくは肉桂と呼ばれるCinnamomum sieboldiiは樹皮の香りが弱く、香辛料としてはほとんど価値がないと言われています。そのため樹皮が利用されることはほどありませんが、代わりに香りと辛味を持つ“根皮”を香辛料として利用されています。ニッキもシナモン同様に根にコルク上の層があり、スティック状にして乾燥させることもある…そうなのですが、ニッキスティックはほぼお見かけできません。というかニッキ(ニッケイ)自体の生産数が少ないのでパウダーも一般には流通しておらず、商品・加工品の原料として使われているくらいです。

そして3つめのシナニッケイ(カッシア/カシア)。
シナニッケイはニッケイと違い樹皮に香りがあるため、同様にパウダー・スティックなどの形で販売されています。ただしセイロンシナモンとシナモンカシアは外見が違います。シナモンスティックは良く見ると厚みがあるものと薄いものがありますが、シナモンカシアを原料とするシナモンスティックは薄い木の皮が巻いてあるような感じ。物にもよりますがカシアは表面にややザラつきがあり、赤みが強い色をしているとも言われています。

メーカー・販売者によっては「ソフトシナモンスティック」や「セイロンシナモンスティック」などと区分して表記してくれる所もありますが、単にシナモンスティックとして売られている場合もあります。ちなみに国際通商で言う“シナモン”はセイロンシナモンではなくシナニッケイの方が圧倒的に多いと言われていますので、安価で販売されている“シナモン”であればセイロンシナモンではなくシナニッケイを原料としている可能性もありそうですね。

シナモンとニッキの違い:中間まとめ

シナモンのイメージ

シナモンはニッケイ属の植物を原料とする香辛料全般の総称としても使われることがありますが、一般的にはセイロンニッケイ(学名:Cinnamomum verum)のことを指します。しかし近年は中国・ベトナムから多く出荷されるシナモン・カシアという同属別種を原料としたものの流通も多くなっています。

ニッキはニッケイ属の中でもニッケイ(肉桂/学名:Cinnamomum sieboldii)と呼ばれる種を原料とした香辛料。セイロンシナモン・シナモンカシアが乾燥させた樹皮なのに対し、ニッキは根皮を香辛料として利用しています。シナモンの和名がニッキと紹介されているのを目にしますが、調べれば英名・和名の違いではなく植物そのものも使用部位も違うことが分かります。現在はニッキ(肉桂)の方が数も少なく価格も高めになっています。

また、シナモンとニッキは原産国が違うのだと言われることもありますが、これも正解ではないことが分かります。原産国が違っても同一種であれば学名は同じ、もしくは変種扱いとして【var.】以下が付けられるのが常ですから、植物として“種”が違うんです。シナモンやニッキと同じく同属別種の関係である身近な例として、ミカン(学名:Citrus unshiu)とレモン(学名: Citrus limon)があります。その他グレープフルーツやカボスなども同じくCitrus属ですが、それぞれ“種”が違うものとして扱われています。ミカンとレモンは別物ですよね(笑) なのでシナモンとニッキについても同属であり風味も似ているけれど「別物」であると考えるのが妥当だと思います。

生薬として使われる桂皮や肉桂はまた別

シナモン繋がりで「シナモンとは生薬で言うところの桂皮である・肉桂である」という説明を目にしたことのある方もいらっしゃるのではないかと思います。これは誤った表記ではないのですが、ちょっと注意が必要な部分があります。

上の植物としての紹介でも触れましたが、日本でニッケイと呼ばれている樹木はCinnamomum sieboldiiという種です。しかし生薬として用いられているものはシナニッケイと呼ばれるCinnamomum cassiaが主となっています。日本漢方方ではシナモンカシア(シナニッケイ/)の樹皮を乾燥したものが“桂皮(ケイヒ)”として収録されています。また、日本漢方方には収録はされていませんが若い枝は“桂枝(ケイシ)”、樹齢30年以上が経過した樹木の皮を“肉桂(ニッケイ)”と呼び分ける事も。中国の伝統医学ではシナモン類が細かく分類されているようです。

日本ではニッケイの根皮を桂皮の代用として利用することもあるのでニッキ=桂皮(肉桂)と言うのは誤りではありませんが、こちらも収録されているものではないので「同様の作用が期待できる」程度でしょう。ただし西洋で一般的なシナモンとされるセイロンニッケイを桂皮・桂枝の代用品として使うことは無いようです。なのでお菓子作りなどに使うシナモンが桂皮かという話になると、近いけれども異なると言うべきだと思われます。薬用としての品質はシナモンカシア(シナニッケイ)が最も高く、ニッケイやセイロンシナモンは劣るとされているのだとか。

シナモンとニッキの違い、風味・効果編

シナモンのイメージ2

植物としては別物で、ニッキの場合は香辛料として利用している部位も違うことは分かりました。しかしどれも区別が付きにくいほど似ており、大雑把に言うと「甘さの強いスパイシーな香り」を持つ存在。と言っても八つ橋やニッキ飴の香りとシナモンロールやシナモンコーヒーの香りは微妙に違うように、香りや味には若干の差異があります。

風味の違い

シナモン(セイロンニッケイ)

西洋で一般的にシナモンと言えばこれを指す、と言われているセイロンニッケイ。濃厚な甘い香りが特徴的で、香りとしてはスパイシーさや苦さを感じさせる部分はあまりありません。しかし食べるとスパイス特有の刺激・苦味を若干感じます。ただしカシアほど香り・味共に強くなくマイルドなので、様々な料理に使いやすいでしょう。

ニッキ(肉桂/ニッケイ)

八ツ橋の香りを連想して頂くと分かりやすいかもしれませんが、ニッキはシナモンよりも甘さが少なく、少しツンとするような辛めで爽やかな印象があります。ただし香りは辛口の印象ですが、実際に食べた時の辛味・スパイシーさはシナモンよりも弱いと感じる方も多いようです。

シナモンカッシア(シナニッケイ)

感じ方には個人差もありますが、シナモンカッシアはシナモンとニッキの中間くらいのややツンとする香りがあります。香りはセイロンシナモンの方が穏やかと言われており、カシアは香りが強く刺激感・渋みを感じることもあるので苦手な方だと鼻につく香りかもしれません。個人的には焼き菓子や飲み物にはセイロンシナモン、カレーや肉料理などはカシアがよく合う印象です。

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含まれている成分・期待できる働き

シナモンもニッキもカシアも使用する量としてはごく少量なので栄養価についてはほぼ無いと考えたほうが良いですが、どれも共通して「桂皮アルデヒド(シンナムアルデヒド)」と呼ばれる香り成分による様々な働きかけがあると考えられています。医学的に認められているものだけではありませんが、伝統的な効果効能も加えると

  • 毛細血管を保護・修復する
  • 血行を促し体を温める
  • 発汗・デトックスを促す
  • 胃腸の働きを活発化させる
  • 冷えによる腹痛・下痢を和らげる
  • 殺菌・抗菌作用
  • 血圧・中性脂肪を低下させる
  • 血糖値上昇を抑える
  • 肌のアンチエイジングを助ける
  • 女性領域での不調を軽減する

などの働きがあると考えられています。かつて桂皮アルデヒド(シンナムアルデヒド)にTie2という受容体の活発化作用があることが報告され、ゴースト血管対策や老化予防策として報じられ一時期ブームにもなりましたね。抜け毛予防に良い・肌の血色を良くしてくれるなどと言われるのも、この働きによって結果的に繋がるというところが大きいようです。

加えてセイロンシナモンの場合のみ「オイゲール」という成分も含まれています。ニッキやカシアにはないマイルドさの元となる成分ともされる芳香成分オイゲノールには、抗菌作用や防腐作用も報告されていますよ。またシナモンの甘い香りは脳を錯覚させて、甘いものに使うと甘みが強く感じる=お砂糖の量を控えられるという説もあります。この働きからも甘い物に使うにはシナモンの方が適していると言えるかもしれません。

シナモンとニッキの違いまとめ

雑学的な余談を挟みつつ書いてきましたが、最後に要点だけをまとめます。

シナモン

  • 学名:Cinnamomum verum
  • 植物名:セイロンシナモン
  • 使用部位:樹皮
  • 主産地:スリランカ
  • オイゲノールを含み、甘くマイルドな香り
  • 味は少しスパイシーで苦め

ニッキ

  • 学名:Cinnamomum sieboldii
  • 植物名:肉桂(ニッケイ)
  • 使用部位:根皮
  • 主産地:日本
  • 甘さよりも爽やかさが強めのツンとする香り
  • 味は薄めでスパイシー感も弱い

この2つとは別にシナニッケイやトンキンニッケイと呼ばれるCinnamomum cassia(シナモンカシア)も香辛料として使われており、使用部位は樹皮。生薬で桂皮や桂枝と呼ばれるのもこちらの種類が主。香辛料としてはシナモンやニッキよりも風味が強く、やや渋さを感じるため好き嫌いが分かれるところです。

ニッキを料理用のスパイスとして入手して使う機会は少ないかもしれませんが、シナモンとカシアは共に入手しやすいスパイス。料理に使う際には香りや味の特徴を生かして使い分けてみても良いかもしれません。