和梨と洋梨の違いとは?
-植物・栄養価をサックリ比較!

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概要安定した人気を持つ果物である梨。日本でポピュラーなサクサクした食感と果汁の瑞々しさが特徴的なものは“和梨(日本梨)”と呼ばれており、対をなす存在としてラ・フランスなどねっとりとした食感の“洋梨(西洋梨)”もあります。味もサッパリ系の和梨に対して洋梨は濃厚系ですね。そんな2タイプの“梨”について、植物・品種としての違いや栄養価の違いなどをご紹介します。

和梨(日本梨)とは

和梨の植物分類と歴史

リンゴに近い丸みの強い形状と、水分が多くシャキシャキとした食感を持つのが和梨。日本で単に「梨」と言われた場合はこちらをイメージする方が多いと思います。食用とされる“梨”は大きく和梨(日本梨)・洋梨(西洋梨)・中国梨(シナ梨)の3つの系統に分かれます。植物分類としては同じくバラ科ナシ属に分類されますが、和梨はPyrus pyrifolia var. culta、洋梨はPyrus communis、中国梨はPyrus ussuriensisと別種の植物とされています。梨の英名Pearですが、英語で単にPearの場合は洋梨を指すことになるため和梨は「Nashi Pear」や「Sand Pear」などと呼んで区分しています。

梨類全般の祖先と言える植物は中国~中央アジアあたりのエリアに自生していたと考えられており、これが東西へ伝わり各地で栽培品種化されることで現在のように分化していったと言われています。和梨は中国・朝鮮半島・日本に自生していた野生種のヤマナシ(日本山梨/学名:Pyrus pyrifolia)を元とする栽培品種群現在の和梨の先祖と言えるヤマナシの種子は弥生時代の遺跡からも発掘されているため、日本の果物・栽培果樹としては最古のグループではないかとも言われています。

奈良時代になると『日本書紀』などの書物にも記載が見されるようになり、また献上品としても梨が用いられていたことが分かっています。ただし江戸時代頃までの“梨”については現在のような甘く瑞々しいものではなく、酸味が強く固い食感のものであったと考えられています。現在のような甘く触感の良い和梨の直接的な先祖と言えるのは明治に発見された千葉県の二十世紀・神奈川県の長十郎の2種。20世紀前半まではこの2つが和梨の代表格として盛んに栽培されていましたが、戦後になると“三水”と呼ばれる幸水・新水・豊水が誕生し主流となります。

現在も品種改良が行われて様々な新品種が生み出されていますが、和梨は大きく豊水・幸水・新興など外皮に褐色がかった“赤梨系”と、二十世紀・二十一世紀など外皮の色が黄緑に近い“青梨系”の2タイプに大きく分けられています。ちなみに現在国内での生産・消費量としては赤梨系が大半を占めています。ただし主流品種である三水を作るために“菊水”という20世紀系列の青梨が使われているため、外皮の色で赤梨系・青梨系と分けてはいるものの赤梨系でも青梨系のDNAが含まれていると考えられますよ。

「ナシ」の語源について

ナシという呼び名の由来については諸説あり分かっていません。江戸時代の学者である新井白石は“種のある中心に近づくほど酸味が強くなる=中酸(ナス)”を語源としていますが、そのほか果肉が白い=中白(なかしろ)・風があると実らない=風無(かぜなし)が短縮されナシになったなどの説もあります。

平安自体にはこの「ナシ」という音が無しに通じるので縁起が悪いとして、わざわざ“ありの実”と言い換えていたそう。わざわざ言い換えるくらいですから、平安には既に呼び名として定着していたのでしょうね。平安時代には嫌われたナシという音ですが、時代が下ると共に「何もなし」として家に植えと泥棒避けになる・鬼門に植えて厄除けにする「鬼門無し」など縁起担ぎとしても使われるようになりました。

栄養・食材としての特徴

日本梨のイメージ画像

栄養価について

日本梨は100gあたりのカロリーが43kcalと低く、全体重量の88%程度が水分。果物類としてみても栄養価はさほど高くありません。強いて言うならばミネラルの中でカリウムが100gあたり140mgと比較的多いこと・タンニンが含まれていることが挙げられます。シャキシャキとして食感から食物繊維が多いような印象を受けますが、食物繊維量は100gあたり0.9gと果物類の中で中の下~下の上くらいのポジションです。

ただし糖アルコールの一種である「ソルビトール」には吸水作用によって便を柔らかくする・腸の蠕動活動を活発にする働きが期待できること、食感のもととなっている石細胞(リグニンやペントザン)が食物繊維と同じような働きを持つと考えられる事から便秘予防に役立ってくれるでしょう。そのほかタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)が含まれているので食後のデザートとして食べると良いとも言われています。

外見・味の特徴

和梨は球に近い、丸みの強い形状をしていることが特徴。香りはあまり強くなく、果皮の外側から香りを嗅いだ場合は微かに甘い香りを感じられるかどうかという所。ややザラッとした舌触りで、噛むとシャキシャキとした食感があることも特徴的ですね。

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洋梨(西洋梨)とは

洋梨の植物分類と歴史

やや縦長で下に向かって膨らむ形状と、濃厚な風味が特徴的な洋梨。梨類は大きく和梨(日本梨/Pyrus pyrifolia var. culta)・洋梨(西洋梨/Pyrus communis)・中国梨(シナ梨/Pyrus ussuriensis)の3つに分けられます。このうち洋梨は種子名に一般的や普遍的を意味する“communis”と付けられている通り、世界的に見ると最も広く栽培されている梨の種類と言われています。

日本では洋梨の代表格としてラ・フランスが知られていますが、約4000品種が存在すると言われているほど品種数が多いことも洋梨の特徴と言えます。外皮の色による分類でも、赤茶色系のラセットタイプ・リンゴのような赤色系のレッドタイプ・黄色系のイエロータイプ・青緑色系のグリーンタイプの4系統に分けることが多いようです。そのほか黄色系と赤色系の交配種ではピンクタイプもあります。
西洋梨のイメージ画像

洋梨は中国~中央アジアに自生していた原種から西に伝わり分化したものと考えられています。紀元前5000年頃のものとされるスイス湖畔住居群遺跡からも梨が発掘されていますから、かなり古い時代にはヨーロッパでも食されていたと言えるでしょう。古代ギリシアでも梨の栽培は行われており、古代ローマ時代になると60種類が栽培品種として認識されていたそうです。ローマ人は生食・加熱料理・発酵してお酒や酢などにと幅広く梨を使ったため、それに合わせて品種改良を行っていたのでははないかと言われています。日本よりも梨の栽培・品種改良はかなり進んでいたと言えますね。

ローマ帝国の滅亡に伴い失われた品種も多く、一時期は最盛期の10分の1近くに品種が減少してしまいました。しかし、各地で交配・品種改良が進められ続け、ドイツやイギリスでも栽培が行われるようになる16世紀には400種以上の品種が確立していたそう。日本にも明治初頭には洋梨が伝わっていますが、栽培条件や味の好みなどの問題から山形県など一部地域でしか定着しませんでした。栽培も加工品用としてが主流だったそう。現在のように青果用として広く流通するようになったのは1970~80年代頃以降と、ごく最近のこと。

ラ・フランス雑学

日本では未だに洋梨の品種として知名度No.1のラ・フランス。1864年にフランスで発見された品種ですが、実はこれをラ・フランスと呼ぶのは日本だけだとか。欧米では発見者の名前であるClaude Blanchetがそのまま品種名として使われているそうです。日本では1903年に静岡県の農商務省農事試験場園芸試験地に受粉用として導入された後、現在に至るまで青果用としても栽培が行われていますが、原産地のフランスをはじめヨーロッパ各国では気候が合わずほとんど栽培されていません梨(西洋梨)の代表的な品種=ラ・フランスというのは日本独自の印象なのでしょうね。

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栄養・食材としての特徴

栄養価について

洋梨全般ではありませんが、ラ・フランスにはメラニン色素を生成する酵素(チロシナーゼ)の活性阻害作用が認められているアルブチンが多く含まれていることが報告されています。フラバノールやアントシアニンなどのポリフェノールも含まれているとされていますから、抗酸化物質の補給を心がけている方・美肌効果を期待したいという方には洋梨の方が適しているかもしれません。

そのほか栄養価としては和梨とさほど変わりはないとされており、栄養価が高い食材ではありません。和梨と異なる点としてはビタミンEが100gあたり0.3gとやや多いこと、食物繊維総量を1.9gと和梨の2倍近く含むことが挙げられます。100gあたりのカロリーは54kcalと和梨よりもやや高め。

外見・味の特徴

洋梨は「ねっとりとしたシャーベット」とも称される柔らかめの食感で、果皮の外側からも分かるほど香りが強いことも特徴。和梨と比べると食感・香り・味共に“濃厚”という表現がピッタリかもしれません。品種によって差はありますが形はやや縦長で、頭(軸)側よりもお尻の方が大きめの水滴型をしています。

また和梨との大きな違いとして、洋梨は追熟する必要性があることが挙げられます。収穫時期や収穫後の温度管理などが難しく、明治~昭和初期にかけて普及しなかったのは追熟が上手く行えずに「固くてマズイ」と思われていたからという見解もありますよ。食べ時は芳醇な香りが放たれ、軸付近を押すと少し凹む感じがする程度の硬さの時。購入時にまだ追熟が必要と感じた場合は15~20度の環境に置いて追熟させてから食べて下さい。

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和梨と洋梨の違いまとめ

植物としては同属なので近い関係ではあるものの、別種であり外見も風味も全く異なる和梨(日本梨)と西洋梨。洋梨は品種が多いためサクサクした食感のものなどもありますが、日本で広く流通しているものについては和梨=丸型でサッパリ系・洋梨=縦長でねっとり濃厚系という認識で大体OKかな、と。ちなみに中国梨は形状こそ和梨っぽいもの・洋梨っぽいものの両方がありますが、風味や食感は和梨に近いと言われています。

和梨

  • 学名:Pyrus pyrifolia var. culta
  • 果実の形状は球に近い
  • 果肉の食感はシャキシャキ
  • 味はサッパリとしている
  • 香りは薄めで、ほのかに甘い程度
  • 基本的に追熟しない

洋梨

  • 学名:Pyrus communis
  • 果実の形状は縦長の瓶型・下膨れ
  • 果肉の食感は柔らかくねっとり
  • 味は濃厚で甘みが強い
  • お酒のような香りがある
  • 収穫後に追熟が必要

栄養価はさほど変わりませんが、洋梨のほうが高カロリー・抗酸化物質を多く含んでいると考えられます。ただし上記でご紹介した日本梨・西洋梨の栄養成分含有量『日本食品標準成分表2015年版(七訂)』に記載されている数値を元にしていますので、品種によっては成分含有量が異なる場合もあると考えられます。