食べ物辞典:ししとう
正式には獅子唐辛子と唐辛子よりも辛そうなネーミングですがピーマンと似た食味を持つししとう。ピーマンよりも小ぶりで細長い形状を生かして、そのまま焼いたり煮浸しにして食べられることも多いですね。辛味のない唐辛子の変種とされていますが、時折辛いものが混ざっているのはご愛嬌。栄養面ではビタミンCが豊富なこと・カプサイシンと同様の作用が期待る“カプシエイト”が含まれているため、ダイエットやアンチエイジングなど美容効果も期待されています。そんなししとうについて、歴史や栄養効果などを詳しくご紹介します。
和名:獅子唐辛子(シシトウガラシ)
英語:small green pepper/Shishito pepper
獅子唐辛子(ししとうがらし)のプロフイール
シシトウとは
シシトウはシンプルにそのまま焼いたものから焼き煮浸し・炒め焼きなどに使われ、おつまみにもぴったりな食材。植物分類としてはピーマンと同種とされており、基本的には日本で品種改良され確立したとうがらしの甘味種(ピーマン)の一品種という扱いになっています。大まかには甘味種のうち小果種がししとう、中果種がピーマン、大果種(肉厚種)がパプリカという区分になるそう。
獅子唐辛子とはいかにも辛そうでゴツいネーミングですが、実の部分にデコボコとした凹凸があることが獅子の顔に似ていることが由来と言われています。見た目としては小ぶりなピーマン・やや太めで緑色の唐辛子といったところで、辛唐辛子の一種である“青唐辛子”とは少し紛らわしい存在。ししとうも青唐辛子も地域によっては南蛮もしくは南蛮辛子とも呼ばれていますしね。ししとうは辛くないことが違いとは言え「食べ物のロシアルーレット」と呼ばれるように時々辛いものが混ざっている場合もあります。青唐辛子と間違えたのではないかと思うほど辛いものもありますが、これらは水分不足等の環境や受粉不良などによって出来ると考えられているそう。
同じく辛味の少ない唐辛子として、京野菜の『伏見甘長とうがらし』や『万願寺とうがらし』・大和野菜の『ひもうとうがらし』などはししとうの仲間として扱われることが多い存在。このうち紐唐辛子は伏見群に属する辛トウガラシとシシトウとの交雑種が元となっているのではないかと推測されています。ちなみに英語では唐辛子の甘味種を総合して“sweet pepper”と呼び、シシトウを指す場合には“small sweet Green Pepper”もしくは和名そのままの“Shishito pepper”と表現するようですよ。
私達が目にするししとうは緑色をしていますが、これはピーマンと同様に未完熟の状態で収穫されているため。品種によって完熟しても緑色というものもあるそうですが、基本的には熟すと赤く色付きます。ピーマンと同じく熟して赤くなったししとうは青いものよりビタミン類が多いという見解もありますから、家庭菜園で栽培されている場合は2色のししとうを楽しんで見ても良いかもしれません。
シシトウの歴史
シシトウの祖先である唐辛子の原産地はメキシコ中東部が有力で、一節によれば8000年前以上前から食べられていた・紀元前8000年には一部で栽培が行われていたとも言われています。紀元前4000年頃には中南米の広い範囲で栽培も行われていたと考えられています。コロンブスのアメリカ大陸到達後にはヨーロッパへともたらされ、環境や品種改良によって18世紀頃には現在のピーマンなどの元となる辛味の少ない品種(甘み種)が誕生します。
日本には16世紀にまず辛味のある唐辛子がポルトガルから伝えられたと考えられています。薬味として広い範囲で栽培が行われた中で、江戸時代には“伏見甘長とうがらし”など現在でもあるような品種が確立しています。何時頃から栽培が行われたのかは定かではありませんが、明治初期には現在のししとうの祖先と言われる“田中トウガラシ”が愛宕郡田中村で作られていたという記録もあるそうです。
昭和初期になると京都以外にも栽培が広がり、辛味が少なく野菜としてししとうの流通が増えていったと言われています。現在ししとうの主産地は高知県で全国収穫量の約4割を占めており、“葵ししとう”という品種が主流になっています。また、ししとうとピーマンの中間的な食感・風味を持つ“ししピー”なども流通しています。
獅子唐辛子(ししとうがらし)の栄養成分・効果について
栄養成分含有量の参考元:日本食品標準成分表2015年版(七訂)
シシトウはビタミンCとビタミンB6を豊富に含み、ミネラルも比較的幅広く含む食材です。外見だけではなく栄養価としてもピーマンと唐辛子の中間というイメージで、唐辛子と異なり辛味が少ないので量を食べられるというのもメリットと言えるでしょう。100gあたりのカロリーは27kcalとピーマンよりもやや高めですが、ビタミン・ミネラルの大半や食物繊維含有量もピーマンを上回っています。
シシトウの効果効能、その根拠・理由とは?
疲労回復・夏バテ予防に
シシトウは100gあたり57mgとビタミンCを豊富に含み、かつ調理によるビタミンC損失が少ないという特徴があります。β-カロテンも際立って多いわけではありませんがピーマンよりも多く含まれていますから、細胞の働きを活性化してくれるビタミンAやCの補給源として疲労回復に役立つと考えられています。ビタミンやミネラルを幅広く含み、旬の時期であることもあり夏バテ予防にも取り入れられています。ビタミンCは副腎皮質ホルモンの合成を助ける働きもありますから、ストレス抵抗力アップも期待できるでしょう。
またシシトウは一部の辛いものを除き、基本的にはカプサイシンをほとんど含まない甘味種に分類されます。しかしカプサイシンと同様の作用が期待され、かつ辛味の少ないカプシエイトなどのカプシノイド化合物が含まれていることが確認されています。カプシエイトは辛味だけではなく刺激も少ないので、消化器官にダメージを与えずに血行や代謝を促し疲労回復を促す働きも期待されています。
免疫力向上・風邪予防に
シシトウに豊富に含まれているビタミンCは白血球の働きを活発化したり、抗ウイルス作用を持つインターフェロンの分泌促進作用が報告されているビタミン。加えて自らが病原菌を攻撃する働きがあることも報告されており、免疫力の保持・強化にも役立つビタミンの一つとされています。同時にビタミンCは抗酸化物質でもあり、シシトウには同じく抗酸化作用を持つビタミンEやβ-カロテンなども含まれていますから、酸化による免疫力の低下を防ぐという面でも効果が期待できるでしょう。
またシシトウはビタミン類の中でタンパク質・アミノ酸の代謝に関わり、免疫機能を正常に保つにも必要とされるビタミンB6を多く含んでいます。ビタミンB6ほど際立って多くはありませんが皮膚・粘膜の保持に関わるビタミンB2も含まれていますし、β-カロテンから必要に応じて体内で変換されるビタミンAも皮膚や粘膜を保持・強化する働きを担っています。これらビタミン類の補給に適した食材であることからも、シシトウはウィルスの侵入を防ぎ風邪など予防に役立つと考えられます。
血行不良・冷え性軽減に
シシトウはピーマンほどでないにしろ少し青臭い独特の香りがあり、香り成分の“ピラジン”が含まれています。ピラジンは血小板が凝縮するのを抑え血栓や血液凝固を防ぐ働きが報告されており、スムーズな血液循環をサポートしてくれる成分として注目されている存在。シシトウにはビタミンEやナイアシンなど血行を良くする働きが期待されているビタミン類や抗酸化物質も含まれていますから、相乗して血流の改善に役立つと考えられます。
血行が良くなることに加え、シシトウにはビタミンB6を筆頭に代謝に関わるビタミンB群が含まれています。カプシエイトも体内脂肪を燃焼させてエネルギー消費を促進し、体温向上効果が期待されている成分。また末梢血管の拡張を促す働きもあるされることから、血流サポートと合わせて冷え性や末端冷え性の軽減に効果が期待できるでしょう。夏に適した食材でもあるので、エアコン冷えが気になる時などにも良さそうですね。
むくみ・便秘予防に
シシトウは100gあたり340mgとカリウムを比較的多く含む野菜です。カリウムはナトリウムとバランスを取り合うことで水分バランスを整える働きがあることから、高血圧やむくみ対策に役立つとされているミネラルです。そのほかにもシシトウにはカリウムの運搬・体液循環をサポートしてくれるマグネシウム、血液循環をサポートするビタミンEやナイアシンなどが含まれていますから、相乗して体内の循環を整えてむくみ予防・改善が期待できます。
加えてシシトウは食物繊維含有量が100gあたり3.6gと多めで、クロロフィル(葉緑素)も含まれています。クロロフィルは食物繊維の約5000分の1と非常に小さいため、小腸絨毛の奥に蓄積した有害物質・金属類(水銀や鉛)などを取り除く働きがあると考えられています。この働きからクロロフィルはデトックス成分として注目されていますから、食物繊維と相乗して便秘の解消・腸を綺麗に保つ働きも期待できるでしょう。
ダイエットのサポートに
シシトウに含まれているカプシエイトなどのカプシノイド化合物はカプサイシンと同じくTRPV1受容体に作用し、カプサイシン同様の生理作用を持つと考えられています。このためエネルギー代謝促進や体脂肪・体重減少などの作用が期待されています。またカプサイシンのように消化器への負担・血圧変動などの影響を及ぼしにくいことが認められており、カプサイシンよりも安全性が高い成分として燃焼系サプリなどの健康食品にも取り入れられています。
カプリエイト以外にも代謝に関わるビタミンB群・デトックスを促す食物繊維やクロロフィルなど、シシトウにはダイエットサポートに役立つと考えられる成分が多く含まれています。特に豊富に含まれているビタミンB6はタンパク質の代謝に必要な成分でもありますから、タンパク質を多めに摂り、運動によって筋肉量アップを目指している方には適しているでしょう。抗酸化ビタミン類も多いことから酸化や血行不良による代謝低下予防にも役立つと考えられます。
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生活習慣病予防の手助けも
ピーマンやシシトウなどに含まれている香り成分のピラジンは血小板が凝縮するのを抑え、血栓や血液凝固を防ぐ働きがあることが報告されています。このため血液サラサラ効果がある成分として、動脈硬化・脳梗塞・心筋梗塞などの予防に注目されています。シシトウにはビタミンCなど抗酸化作用を持つビタミン類も含まれていますから、過酸化脂質の生成を防ぐという面からも血流をサポートしてくれるでしょう。
血液循環がスムーズに行われることから心臓の負担が減り、高血圧予防にも繋がると考えられます。シシトウにはピーマンの2倍近くカリウムが含まれていますし、カプシエイトはカプサイシンのように血圧を上昇させる心配も低いので、血圧が気になる方により適した食材と言えます。そのほかクロロフィルや食物繊維類によるコレステロール排出・カプリエイトやビタミン類によるメタボリックシンドローム予防効果なども生活習慣病予防に繋がると考えられます。
アンチエイジング・美肌サポート
シシトウはビタミンCが豊富であることに加え、β-カロテンとビタミンEも含んでいます。ビタミンA・C・Eのは抗酸化作用を持つものの働く場所や効力に違いがあり、3つを合わせて摂取することで相乗効果を発揮してくれます。ストレスや加齢・紫外線などによって増える活性酸素は肌細胞を酸化させ、シワやたるみ・くすみなど肌老化を加速させてしまいます。このため抗酸化ビタミンを補給できるシシトウはアンチエイジング食材としても役立つと考えられます。
またビタミンCはシミやソバカスの原因となるメラニン色素を作るチロシナーゼの働きを防ぐ美白効果・コラーゲン生成を促す働きなども持ち合わせています。抗酸化作用と合わせて紫外線対策としても心強いのは、まさに夏の野菜と言ったところですね。タンパク質代謝に関わるビタミンB6・皮膚や粘膜を丈夫に保つβ-カロテン(ビタミンA)と合わせて肌のハリ向上や乾燥肌・肌荒れ予防などにも効果が期待できるでしょう。血流をサポートしてくれる成分も多いので新陳代謝向上やくすみ対策にも繋がります。
目的別、シシトウのおすすめ食べ合わせ
獅子唐辛子(ししとうがらし)の選び方・食べ方・注意点
シシトウは全体的にハリとツヤがあり、柔らかいものを選びます。ヘタがシャッキリとして切り口が青々しいものが新鮮です。部分的にオレンジ色っぽく変化しているものは問題ありませんが、茶色い箇所・傷があるものは避けましょう。シシトウは乾燥に弱いので新聞紙やポリ袋に入れて野菜室で保存します。長時間の保存は低温障害を起こす可能性もあるので、生のままであれば4~5日以内には使い切るようにすると確実です。
辛いシシトウは水不足や気温などの環境的な問題・受粉不良によって出来ると言われています。近年は品種改良が進み、かつて言われていた“10個に1個”よりも辛いものに当たる可能性はかなり下がっています。シシトウが辛いかどうかを見分けるポイントとしては皮の色が黒っぽい緑・形が歪・先端が細く尖っている・皮が固いことなどが挙げられています。外見からはわかりにくいですが極端に種が少ないものも辛いことが多いそうですし、気温の関係から夏場のものは辛いものが出来る確立が上がるようです。
調理時にはβ-カロテンやビタミンEなどの吸収率が高まるよう油と合わせると良いでしょう。シシトウのビタミンCは熱による減少が少ないとは言われていますが、減少するわけではないので焼場合は強火でサッと炒めるなど手早く料理をしたほうが良いでしょう。加熱しすぎるよりも食感や風味も良いです。
シシトウのワタ・種について
シシトウの種はそのまま食べることができ、また種子を支えているワタ(胎座)の部分がカプサイシンの含有量が多いとも言われています。ピーマンの場合はワタ部分にピラジンやカリウムも多く含まれていることが分かっていますから、ほぼ同じ種であるシシトウも同様と考えられます。肥満予防や血行促進効果などを期待する場合は種子ごと食べるようにしてみてください。
ただし丸ごと使う場合は加熱時に中の空気が膨張して破裂することがあります。特に素揚げ・天ぷらなど“揚げる”場合には破裂しやすいので竹串で皮に穴を開けたり、包丁で切れ込みを入れておくようにしましょう。切って使用する場合は種子がバラバラになってしまい料理全体の食感が悪くなる可能性もありますので、気になる時は種を取り除いて使って下さい。