食べ物辞典:ヘーゼルナッツ
ヘーゼルナッツは香ばしさと甘さを感じさせる独特の香りが特徴で、ワインやウィスキーの香りの表現にも使われています。そのまま食べると癖があるのでお菓子類の香り付けに利用されることが多く、高貴な印象と称される奥行きのある香りが加わると上質なイメージになります。栄養面では脂質の割合が高いですが、オレイン酸を多く含むことから適量であれば健康メリットが高いと考えられています。ビタミンEやビオチンが豊富な美肌ナッツとしても注目されていますよ。そんなヘーゼルナッツの歴史や栄養効果について詳しくご紹介します。
和名:ヘーゼルナッツ
英語:hazel nuts
ヘーゼルナッツのプロフイール
ヘーゼルナッツとは
風味としては知られているものの、そのままナッツとして食べられる機会は少ないヘーゼルナッツ。これは少し青臭いようなクセがあり、フレーバーもしくは製菓原料として使用したほうが万人受けすることが理由と言えます。ヘーゼルナッツはジャンドゥーヤをはじめチョコレートやココアとの相性が非常に良いことも知られていますし、コーヒーのフレーバーとしても見かけますね。好き嫌いは分かれるものの、スターバックスでヘーゼルナッツシロップをよく追加するという方も少なくないのではないでしょうか。
と言っても、諸説あるもののヘーゼルナッツはアーモンド・カシューナッツと合わせて“世界三大ナッツ”とも称される食材。風味付けも含めて、世界中で広く食されていることがうかがえますね。日本ではあまり流通していませんが、ヨーロッパではヘーゼルナッツペーストが主体のスプレッドも人気があるそう。イタリアではヘーゼルナッツのジェラートも名物に数えられます。
スーパーなど量販店で見かける機会は少ないですが、ナッツ系の品揃えが豊富なショップや専門店であれば殻付きのローストヘーゼルナッツも販売されています。シロップやヘーゼルナッツを使ったお菓子よりも更に好き嫌いは分かれますが、お酒との相性が良いのでハマる人はおつまみに欠かせないくらいハマるそう。お菓子類に使う印象が強いですが、サラダや肉調理のトッピング・和物などおかずレシピにも活用できます。大産地であるトルコでは健康維持に一日一掴みのヘーゼルナッツを食べると良いという言い伝えもあるそうですよ。
ちなみにヘーゼルナッツは植物分類ではカバノキ科ハシバミ属に分類され、現在食用としてもピュラーなものはコモンヘーゼルとも呼ばれるCorylus avellanaという種。ちなみに和名は“セイヨウハシバミ”と言います。フレーバーでは馴染みがあるけれど形状はイメージしにくいという方も少なくないかもしれませんが、ヘーゼルナッツと呼んで食用としている果実(堅果)は丸みの強いドングリのような形をしています。ヘーゼルナッツからは“ヘーゼルナッツオイル”も抽出されており、調理油としても広く利用されています。未精製のヘーゼルナッツオイルは化粧品油(キャリアオイル)としてスキンケア用としても多用されており、酸化しにくいオイルとしても支持されていますね。
ヘーゼルナッツの歴史
ヘーゼルナッツはおそらくヨーロッパ~地中海沿岸地域が原産と考えられており、氷河期の後に北ヨーロッパに最初に分布した低木だとも言われています。そのため食用の歴史も古く、ヨーロッパでは石器時代から既に食用とされていたと考えられています。また現在ヘーゼルナッツの主産地であるトルコ(黒海沿岸地域)では紀元前300年より以前に栽培も行われていたそう。
古代ギリシア・古代ローマでも食用として用いられていたと考えられていますし、生薬のような感覚でも多用されていたと考えられています。古代ギリシアでは風邪や咳のケアに砕いたヘーゼルナッツが良いとされていたそう。古代ではヘーゼルナッツもしくはヘーゼルの木は神秘的な力を持つ存在としても大切にされていたと言われています。ヘーゼルの木の枝から作った杖は地下泉や鉱石を探すのに使われていた・古代ローマでヘーゼルナッツは多産や繁栄をもたらすとしてヘーゼルの木で作った松明を初夜に灯す風習があったという説もありますよ。
またキリスト教においても聖母マリアを守った「救済の木」という説があり、信仰こそ薄れてはいったもののルネサンス期の宗教画などにもヘーゼルの木もしくはヘーゼルナッツが描かれているものがあるそうです。大航海時代以降にはヨーロッパの移民によってヘーゼルの木がアメリカ大陸やオーストラリア大陸へも紹介されていきます。各地での栽培も行われているようですが、現在でも世界総生産量の7割以上をトルコが占めています。
ヘーゼルナッツの栄養成分・効果について
栄養成分含有量の参考元:日本食品標準成分表2015年版(七訂)
ヘーゼルナッツはビタミンEやビオチンの含有量が高く、ミネラルも幅広く含んでおり栄養豊富な食材でもあります。ただし全体重量の7割近くが脂質となっており、ナッツ類の中でもかなり高脂質の存在。カロリーは『日本食品標準成分表(七訂)』の“ヘーゼルナッツ/フライ、味付け”で100gあたり684kcalと、ナッツ類の中でも高め。
フライでないタイプであればもう少しカロリーは低めになると考えられますが、目安としては一粒は約1.5g程度=10kcal程度と思っておくと間違いありません。代謝に関わるビタミンB群や太りにくいと考えられているオレイン酸も含まれていますが、一日摂取の目安とされる20粒=30gを摂取した場合は200kcal程度となりますから食べ過ぎには注意が必要です。
ヘーゼルナッツの効果効能、その根拠・理由とは?
疲労回復・栄養補給に
ヘーゼルナッツは三大栄養素(糖質・脂質・タンパク質)の代謝に関わるビタミンB群をバランスよく含んでいます。ビタミン類ではビタミンEが多いナッツとして紹介されることの多い存在ですが、実はビオチン(ビタミンH)も100gあたり81.8μgと豊富に含まれています。ビオチンは各種酵素の働きに関与しており、特に糖代謝においてはピルビン酸からオキザロ酢酸へと変換される際に働く酵素の補酵素として働く存在。ビオチンを不足なく摂取することでスムーズな糖新生をサポートし、筋肉痛や疲労感を残りにくくしてくれるのではないかと考えられています。
代謝に関わるビオチン・ビタミンB群の補給に繋がることから、ヘーゼルナッツは疲労回復促進効果が期待できると考えられます。また高脂質・高カロリーな食材であり、栄養価も高いことから手っ取り早いエネルギー補給源としても役立ってくれるでしょう。ヘーゼルナッツそのものも栄養価が高く、三大栄養素を効果的にエネルギーへと転換するサポートにも役立つと考えられますので、夏バテ対策にもおすすめです。
抗酸化・老化予防に
ヘーゼルナッツはビタミンEを100gあたり17.8mgと多く含んでいます。アーモンドには及ばないもののナッツ類で見るとトップクラスに入る含有量で、一日の摂取上限目安とされる20粒(30g)でも5.34mgと一日のビタミンE摂取目安量(成人女性6.0mg/男性6.5mg)に近い量を補給することが出来ます。ビタミンEは「若返りのビタミン」と称されることもあるように、抗酸化作用を持つことが認められている脂溶性ビタミン。ヘーゼルナッツにはポリフェノールも含まれていると言われていますから、相乗して活性酸素の抑制効果が期待できるでしょう。
またビタミンEほど際立って多くはありませんが、活性酸素除去酵素であるSOD(スーパー・オキサイド・ディスムターゼ)の材料として利用される亜鉛やマンガンなどのミネラルもカシューナッツには含まれています。こうした成分が活性酸素を抑制する、もしくは活性酸素に対する身体の抵抗力を高めることで体内の脂質・タンパク質をはじめDNAなどを守り、老化や様々な病気の発症リスクを低減してくれると考えられています。
生活習慣病予防のサポート
抗酸化作用は活性酸素によって血中脂質(コレステロール)が酸化されることで出来る“過酸化脂質”の生成を抑制し、過酸化脂質が血管に付着することで起こる血栓・動脈硬化の予防にも繋がります。加えてカシューナッツに含まれている一価不飽和脂肪酸(オメガ9/n-9系)のオレイン酸は善玉(HDL)コレステロールを減少させることなく、悪玉(LDL)コレステロールを減らす働きがあることが報告されています。オレイン酸は不飽和脂肪酸の中で酸化されにくく過酸化脂質を作りにくい性質でもありますから、抗酸化作用と合わせて高血圧や動脈硬化予防に役立つと考えられています。
こうしたビタミンEを筆頭とする抗酸化物質とオレイン酸の働きから、ヘーゼルナッツは米国食品医薬品局(FDA)において心疾患予防効果がある食材として認可されています。また抗糖化作用が期待できること・善玉コレステロールの低下を抑制する働きなども報告されており、糖尿病予防に対しても効果が期待されているそう。
ちなみに『五訂増補日本食品標準成分表』によるとヘーゼルナッツ100gあたりのオレイン酸含有量は54,000mgで、同グラムで比較した場合はマカダミアナッツの約1.3倍・アーモンドの約1.6倍の含有量となっています。
貧血予防・血流改善にも
ナッツ類の中で際立って多いというわけではありませんが、ヘーゼルナッツも100gあたり3.0gと比較的多くの鉄分を含む食材です。鉄分は赤血球中のヘモグロビンを合成するために必要な成分であり、日本人の貧血、特に女性の貧血は鉄分不足による鉄欠乏性貧血が大半と言われています。ヘーゼルナッツには鉄分とともに赤血球の生成に必要とされる亜鉛や葉酸、ヘモグロビンを作るために必要とされる銅なども含まれていますので、貧血予防にも役立ってくれるでしょう。
またヘーゼルナッツは抗酸化作用によって血管の健康を保つほか、毛細血管を拡張させることで末端への血流をうながるビタミンEも含まれています。オレイン酸も悪玉コレステロール(LDLコレステロール)を減少させることでスムーズな血液循環のサポートが期待されていますから、血行不良に起因する冷え性や肩こり・頭痛などの軽減にも効果が期待できるでしょう。ビタミンEをより多く含む食材としてはアーモンドがありますが、こちらは鉄分や葉酸含有量が少なくなります。
便秘・肥満予防のサポート
ヘーゼルナッツは100gあたり7.4g、一日の摂取上限目安とされる20粒(30g)あたり2.22gの食物繊維を含んでいます。食物繊維の中でも不溶性食物繊維が多く含まれていますから便通促進に役立つと考えられますし、不飽和脂肪酸のオレイン酸も腸に刺激を与えることで蠕動運動を活発化させる働きが期待されています。そのほかオレイン酸は便の表面をコーティングして潤滑油の役割を果たす・界面活性(乳化)作用によって便を柔らかく排泄しやすい状態にするという説もありますから、食物繊維と合わせて便通促進に効果が期待できるでしょう。
便通の改善で老廃物の促進に繋がるほか、カシューナッツは代謝に関わるビタミンB群が含まれていること・血流改善効果が期待できることから代謝アップにも効果が期待されています。またオレイン酸は「太らない油」と紹介されることもあるように、インスリンの分泌量を調整することで体に余分な糖質を取り込まないようにする働きが期待されていますし、ヘーゼルナッツそのものも糖質量が少ない食材。このため高脂質・高カロリーな食材ではありますが適量であればカシューナッツは太りにくい食材と考えられています。特に糖質制限・低インシュリンダイエットを行う方には支持されています。
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アンチエイジング・美肌作りに
抗酸化作用を持つビタミンEが豊富で、抗酸化作用酵素(SODなど)の材料となるミネラル類を含むことから、ヘーゼルナッツは酸化によって起こるシミやシワ・たるみなど肌老化の予防にも役立つと考えられます。オレイン酸も「美肌を作る特効薬」と称される肌の皮脂を構成している脂肪酸の一つですし、ヘーゼルナッツには同じく不飽和脂肪酸でマカダミアナッツの美肌成分とも言われる“パルミトレイン酸(PDA)”も含まれています。どちらも不足すると皮膚や角質の乾燥・小じわなどの原因となると考えられていますから、抗酸化と合わせて肌のアンチエイジングに役立ってくれるでしょう。
またパルミトレイン酸は血行を良くする働きも期待されていますし、ビタミンEにも末梢血管の血流促進作用があります。血流が良くなると酸素や栄養素がお肌に行き渡り新陳代謝の促進にも繋がりますから、肌のくすみ改善や肌荒れの予防・改善促進にも効果が期待できるでしょう。タンパク質の代謝に関わり皮膚粘膜の健康を守ってくれるビタミンB6や、皮膚炎症予防効果が期待されるビオチンの含有量も多いので乾燥や肌荒れが気になる方にも適しています。カシューナッツにはほとんど含まれていないβ-カロテンやビタミンCを含む緑黄色野菜などと組み合わせると、より美肌サポートに高い効果が期待できますよ。
女性のバランスサポート
ビタミンEは抗酸化作用や血流改善効果などを目的に摂取されることの多い栄養素ですが、元々は不妊治療の研究の中で発見されたビタミンで化学名の“トコフェロール”も「子どもを生ませる」という意味なのだとか。こうした関係からビタミンEは性ホルモンとの関わりが深いビタミンであることが認められており、男性であれば精子運動量の向上に、女性の場合は脳下垂体に働きかけることでホルモンバランスを整える働きがあることが報告されています。
ヘーゼルナッツはビタミンEを豊富に含んでいますし、女性ホルモン(エストロゲン)の代謝に関わるビタミンB6の含有量も比較的高い食材です。性機能保持に関わる亜鉛や、ホルモンの原料として使用される不飽和脂肪酸なども含まれています。植物性エストロゲンなど直接的にホルモンに作用する成分は含まれていませんから強い働きかけはありませんが、必要な栄養素を補給することで月経不順や生理痛・月経前症候群(PMS)・更年期障害など、女性特有の不調の予防や軽減に繋がると考えられます。
骨粗鬆症や認知症予防にも…
ヘーゼルナッツには骨や歯の形成に必要なマグネシウム、丈夫な骨の形成をサポートする銅などのミネラルが豊富に含まれています。このため歯や骨を丈夫に保つ働きが期待されており、骨粗鬆症予防に良いとも言われています。ただし骨や歯の材料となるカルシウムの含有量は100gあたり130mgと、少なくはないものの十分に補給できると言うほど多くもありません。骨粗鬆症予防としてであれば牛乳などカルシウムの多いものと組み合わせたほうが効果的であると考えられます。牛乳と一緒に食べるとタンパク質吸収が高まり、アンチエイジングにも効果的という説もありますよ。
そのほかオレイン酸やビタミンEなどの抗酸化物質が血管を綺麗に保ってくれることから、ヘーゼルナッツは認知症予防にも効果が期待されています。ラットを使った実験ではアルツハイマー病の記憶障害の改善が見られたことが報告されており、不安行動や神経炎症などの改善にも有効性が示唆されているようです。
目的別、ヘーゼルナッツのおすすめ食べ合わせ
ヘーゼルナッツの選び方・食べ方・注意点
オレイン酸は酸化しにくい油と言われていますが酸化しないわけではありませんし、オレイン酸以外の脂質もヘーゼルナッツには含まれています。そのため保存する際は密閉容器に入れて冷蔵庫で保存し、早めに食べきるのがオススメ。可能であれば食べきりサイズに個包装されたもの・殻付きのものを選ぶようにすると良いでしょう。
ヘーゼルナッツはクルミと同様にローストすることでポリフェノールが約2倍に増加するという報告もなされていますから、生ヘーゼルナッツを買って食べる前に軽くオーブンやフライパンでローストして食べるのもオススメ。ローストしたほうが風味としても食べやすくなると言われています。
ヘーゼルナッツの摂取量について
ヘーゼルナッツの摂取量については諸説ありますが、片手で掴める量もしくは20粒程度を上限と見做しているものが多くなっています。20粒として計算した場合の摂取カロリーは約200kcalとやや高めになりますが、ヘーゼルナッツそのものは一日10~20粒程度の摂取であれば肥満や生活習慣病などの原因となる可能性は低いとされています。20粒というのは摂取上限量の目安ですから、継続して食べる場合は少なめの10粒程度がおすすめです。
ただし濃い目に塩を振られたものや、チョコレートでコーティングされたものなどは、塩分や糖分・油分の摂り過ぎで高血圧を引き起こすなどの可能性もありますので注意が必要です。無添加のヘーゼルナッツを選ぶようにしましょう。