食べ物辞典:ヒラメ
ヒラメは鯛と並んで白身魚の代表とも言えるお魚で、特に刺し身などの生食用として人気のある魚。古くはヒラメとカレイは区分されていませんでしたが、共に日本人との付き合いが長い魚でもあります。淡白な白身魚なので様々な料理に使え、高タンパクのため成長盛りのお子さん・病後のケア食などにも使われていますよ。栄養価的にはビタミンB群やアミノ酸が豊富なので、健康維持やトレーニング中の方のサポートにも適していると考えられています。そんなヒラメの歴史や栄養効果について詳しくご紹介します。
和名:ヒラメ(平目/鮃)
英語:(left-eyed)flounder/Japanese halibut
ヒラメ(平目/鮃)のプロフイール
ヒラメとは
ヒラメは高級魚にも数えられ、童謡『浦島太郎』で豪華な接待を表した「鯛やヒラメの舞い踊り」という節を連想される方もいらっしゃるのではないでしょうか。お寿司や刺し身にもよく使われるお魚ですし、身(魚肉)だけではなく、脂が乗っていてコリコリした食感のエンガワが好きという方も多いのではないでしょうか。生食用として目にする機会も多いですが、水分を抜いて焼いた皮も塩を少し振るだけで立派な一品になりますよ。加熱すると身が硬くなりやすいので火加減が難しいですが、フライや塩焼き・ソテーなど加熱用としても広く使える食材でもあります。
ヒラメはカレイ目ヒラメ科に分類される魚で、日本では主に学名Paralichthys olivaceus、英語で“Bastard halibut”と呼ばれている魚を指します。同じヒラメ科の魚としてはガンゾウビラメ・タマガンゾウビラメなどのほか、メガレイなど名前に“カレイ”が付けられているものもあります。ヒラメ以外は生食用としてよりも焼き物・干物として利用されることが多いようです。そのほかダルマガレイ科・ウシノシタ科などを合わせて「ヒラメ類」と呼びます。ムニエルによく使われる“舌平目(シタベラメ)”はカレイ目ウシノシタ科なので、厳密に言うとヒラメではなくヒラメ類になりますね。
時期になると「寒平目」の旗を出すお店もあるよう、旬の時期は一般に冬(晩秋~初春)とされています。これは産卵期よりも前という意味合いですが、北海道では産卵期がズレますし、最近は養殖物や輸入物も多くなってきていることから、冬でない時期でも極端に身が痩せているということは少ないようです。ちなみに30cm前後の小さいヒラメ(ソゲ)もまだ産卵をしないので、天然物であっても時期を気にせず美味しく頂けます。
ヒラメとカレイの違いとは?
平べったい形状で、身も淡白な白身であることから区別のつきにくいカレイとヒラメ。生物分類上ではカレイはカレイ目カレイ科、ヒラメはカレイ目ヒラメ科と“科”が異なっています。販売されているものの簡単な見分け方としては「左ヒラメ、右カレイ」と言われるように、背(砂色がついている方)を上にした時に左に目が来るのがヒラメ・右側に目が来るのがカレイと見分けるのが一般的です。ただしカレイでも「ぬまがれい」などは目が左側にあるので、向きがすべてというわけではありません。英語ではカレイやヒラメを総称して “flounder”と呼びますが、カレイなど右に目がある魚を“righteye flounder”・ヒラメなど左側に目のある魚を“lefteye flounder”と呼び分けるそうです。
また同じように海底で擬態して獲物を狙いますが、ヒラメは自身の色を変化させて擬態するのが得意・カレイは砂に潜って擬態する傾向が強いなどの違いがあります。またカレイはゴカイやイソメなどを主に食べるため歯が小さく口が小さいのに対し、ヒラメは成魚となってからの主食はほとんどが小魚類のため歯が大きく鋭いのが特徴。ちなみに食材としてカレイは加熱用に・ヒラメは生食用という印象がありますが、これも小魚を追って捕らえるヒラメの方が身が引き締まっているためです。目の位置よりも口元で判断したほうが間違いはないでしょう。そのほかヒラメは“平目”とも書くように目がぺったりと平べったいですが、カレイは目の部分がぷっくりと飛び出たような出目タイプであることも特徴とされています。
ヒラメの歴史
カレイやヒラメなどの魚(カレイ類)も他の近海で穫れる魚類と同様に貝塚から骨が出土しており、縄文以前には食用とされていたようです。カレイという呼び名が用いられ始めたのは平安時代頃と考えられており、平安時代中期に編纂された辞書『倭名類聚抄』に“からえひ”という表記が見られます。これは唐(からえい)の転訛したものではないかという説が有力で、文字としては中国の故事からそのまま取り入れた“王餘魚”や比目魚・鰈などが用いられていたようです。比目魚という文字も使われていましたが、当時カレイとヒラメは区分されていなかったようです。
ヒラメという呼び名は室町時代ころから登場し、呼び名の由来としては平たい魚である・目が並んでいることから比目魚と書いた説などがあります。ただし江戸時代後期に書かれた方言辞書『物類称呼』では「西日本ではヒラメもカレイと呼ぶ、江戸では大きいものをヒラメ・小さいものをカレイと呼ぶ」という旨が記されているそうですから、現代ほどハッキリと区別されていたかは不明です。また江戸時代の料理書で魚介類の格付けが記載されている『黒白精味集』でもカレイは鯛とともに“上”に格付けされていますが、ヒラメはカツオやイカと共に“中”に分類されています。カレイのほうが昔は高級魚という認識が強かったと言えるでしょう。
余談ですが仙台の名物として知られる“笹かまぼこ”も現在はタラなどを原材料としていますが、元はヒラメのすり身を使って作ったのだそうです。明治時代初期に仙台でヒラメの大漁が続き、余ってしまったヒラメを腐らせないようにとすり身にして蒲鉾を作り、さらにそれを焼いたのものが発祥と言われています。当時は木の葉かまぼこやベロかまぼこなどと呼ばれていたそうですが、旧仙台藩主伊達家の家紋に因んで『阿部蒲鉾』さんが“笹かまぼこ”と命名し浸透していったそうです。当時はたたき売りをしても持て余すほどの大量だったとも言われていますから、現代の感覚としては羨ましい話でもありますね。
ヒラメ(平目/鮃)の栄養成分・効果について
栄養成分含有量の参考元:日本食品標準成分表2015年版(七訂)
ヒラメは糖質をほとんど含まず、高タンパク低脂肪のヘルシーな白身魚と言われています。ただし脂質含有量は100gあたり3.7gとなっていますから、カレイの約2倍程度となり(天然ヒラメの場合は2.0gとされています)、カロリーも100gあたり103~124kcalと少し高めになっています。栄養価については種類・食べる部位によっても違いがありますが、下記では“ひらめ/養殖/皮付き、生”として記載されている数値を参考にご紹介します。
ヒラメの効果効能、その根拠・理由とは?
栄養補給・体力作りに
ヒラメはタンパク質が全体重量の20%以上を占める高タンパクな魚です。タンパク質が多いことに加えてアミノ酸スコアも100と最高値になっていますから、バランスの良いタンパク質補給源と言えるでしょう。豊富に含まれているアミノ酸には筋肉増強・回復促進に有効とされているBCAA(バリン、ロイシン、イソロイシン)や、クエン酸回路を活発化し疲労物質の分解をサポートしてくれるアスパラギン酸などが含まれていますから、トレーニングのお供にも適した食材と言えます。
またヒラメは淡白ながら旨味の強い白身魚で、好き嫌いが少なく消化・吸収にも優れていることから離乳食や子ども・お年寄り向けのお食事、病中病後の療養食としても適しています。ビタミンDの含有量が100gあたり18μgと多く、カルシウムも含まれていますのでお子さんの成長サポートや骨粗鬆症予防に繋がりますね。ビタミンDは免疫力を調整することで風邪・インフルエンザ予防や花粉症などの軽減にも効果が期待されていますし、皮膚粘膜を健康に保つビオチンなどのビタミンB群も含まれていますので、健康サポートとしても役立ってくれるでしょう。
疲労回復・二日酔い対策に
アスパラギン酸はクエン酸回路を活発化することで疲労物質の分解をサポートしてくれとる考えられることから、疲労回復に役立つアミノ酸とも言われています。加えてアンモニアの無害化・排出をサポートすることで、アンモニア蓄積によって起こる経伝達物質の働きを阻害する・代謝低下による疲労物質蓄積や免疫力低下など様々な悪影響を軽減する働きも期待されています。このため疲労回復や不調改善をサポートし、またアンモニア無毒化を行う肝臓への負担も軽減してくれると考えられています。疲労臭と呼ばれるアンモニアのツンとした体臭の予防や改善にも役立ってくれるでしょう。
ヒラメにはこのアスパラギン酸のほか三大栄養素(糖質・脂質・タンパク質)の代謝をサポートするビタミンB群も含まれていますし、ビタミンBの一種であるナイアシンはアルコール脱水素酵素やアセトアルデヒド脱水素酵素の働きを助ける働きもあります。ナイアシンはアルコールを摂取するほど消費量が増え、不足することアルコールの分解途中で生じるアセトアルデヒドの分解が滞って二日酔いの不快症状を引き起こしやすくなると考えられています。カリウムやナトリウムなどのミネラルもアルコール摂取に伴って不足しやすく、不足は二日酔いの悪化や疲労感などの原因にもなると言われています。このため肴としてヒラメを食べることは二日酔い対策・軽減に役立つと考えられます。
むくみ・血行不良にも
アミノ酸一種であるアスパラギン酸は尿の合成を促進することでアンモニア排出を促す働きがあり、利尿効果も持ち合わせていると考えられています。ヒラメは100gあたり2200mgとアスパラギン酸が豊富ですし、ナトリウム排出を促すことで水分バランスを正常に保つカリウムや、カリウムの働きを助けたり体液循環全般をサポートするマグネシウムも含んでいます。アスパラギン酸にはカリウムやマグネシウムを細胞に取り込みやすくする働きもあります。
加えてヒラメはビタミン類の中で100gあたり6mgとナイアシンを多く含んでいます。ナイアシンは血管拡張作用を持つことで血液循環の促進にも役立つとされていますいるほか、代謝にも不可欠な栄養素。ヒラメには同じく血行を促す働きを持つビタミンEや、代謝に関わるビオチンやビタミンB2,B6なども比較的多く含まれていますから、相乗して血流改善や代謝向上にも効果が期待できます。血行が良くなることからもむくみの予防・軽減に繋がりますし、血行促進+代謝促進により冷え性の軽減にも役立ってくれるでしょう。
肥満・生活習慣病予防に
カレイよりも脂質・カロリーが多いとは言え、ヒラメも低脂質・低糖質でヘルシーな食材。カロリーも100gあたり126kcal(※天然物は103kcal)と魚類の中では低い部類に属しますし、GI値も40と低いので、カロリーや糖質量を控えていらっしゃる方でも取り入れやすい食材と言えるでしょう。体を作るのに必要なタンパク質(アミノ酸)や代謝に関わるビタミンB群が多く含まれていますので、ダイエット中の栄養補給源としても適しています。特に運動を取り入れている方には心強い存在といえますね。
またヒラメの脂質には血液サラサラ効果などが期待されるオメガ3系と呼ばれる不飽和脂肪酸類も含んでいます。オメガ3脂肪酸の中でもEPA(エイコサペンタエン酸)もしくはIPA(イコサペンタエン酸)と呼ばれている成分は、血小板の凝集を抑制する働きや悪玉コレステロール・中性脂肪の低下、血圧降下作用などがあるとされています。ヒラメ100gあたりのEPAは170mg・DHAは520mgと際立って多い数値ではありませんが、抗酸化に必要な酵素(グルタチオン・ペルオキシダーゼ)の構成物質であるセレン・抗酸化作用を持つビタミンEなども含まれていますから相乗して高血圧や動脈硬化予防にも効果が期待されています。
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ストレス・目の疲れ対策にも
ヒラメに多く含まれている較的多く含まれているビタミンB群は神経系とも関わりがあり、現代人が気になる目のケアにも役立ってくれると考えられています。ビタミンB1やB12には視神経の機能向上や目の疲労軽減効果が、ビタミンB2には視機能をサポートし目の充血を防ぐ働きが期待されています。ビタミンB群以外ではビタミンEも血行を促すことで目の疲れ・コリを緩和に繋がると言われていますから、相乗して目の疲れを和らげる働きが期待できるでしょう。
また神経機能を正常に保つ働きを担っていることから、精神面の健康維持にもビタミンB群は欠かせない存在です。ナイアシンにも毛細血管を広げることで脳神経の正常な機能を助ける働きがあると考えられていますし、不足することで同じくトリプトファンを原料として合成されるセロトニンの減少を引き起こし情緒不安定さや不眠の原因になるという説もあります。ビタミンB6はこのセロトニンなどの神経伝達物質の合成にも利用されますし、ヒラメにはセロトニンの合成に必要なトリプトファン・マグネシウム・亜鉛なども含まれています。これらの成分を不足なく補うことでストレス耐性を高めたり、精神面を健やかに保つサポートにも役立つと考えられます。
美肌・美髪サポートに
ヒラメに豊富に含まれているアミノ酸の中には肌の潤いを保つ働きが期待されるアスパラギン酸・MF(天然保湿因子)の原料となるグルタミン酸などが含まれています。加えて特にエンガワ(ヒレの付け根部分)や皮にはコラーゲンが豊富に含まれていますから、相乗して肌のハリ・潤いなどのアップが期待できるでしょう。ヒラメには抗酸化ビタミンの一つであるビタミンEや抗酸化酵素の原料となるセレンなども含まれていますので、シワやたるみなどの肌老化予防にも繋がります。抗酸化作用を持ち、コラーゲンの生成を助ける働きもあるビタミンCが豊富な野菜と合わせて食べるとより効果的です。
またヒラメに多く含まれているビタミンB2やB6は皮膚や髪の健康維持に関わる成分ですし、ビタミンB2は過酸化脂質の分解にも使われる栄養素。こうしたビタミンB群の補給からも、肌荒れやニキビ予防に繋がる可能性があります。同じくビタミンBの一種であるビオチンも皮膚炎を起こす原因になるヒスタミン抑制・新陳代謝を高めることで皮膚や面膜を健康に保つ働きがあると考えられていますから、肌を健やかに保つサポートにも役立ってくれるでしょう。
そのほかビオチンにはアミノ酸代謝やコラーゲン生成に関与することから育毛効果、色素細胞を活性化することで白髪予防効果なども期待されています。ビタミンB2の過酸化脂質の分解・ビタミンEの抗酸化作用などと合わせて、相乗して頭皮や髪の維持にも効果が期待できます。
目的別、ヒラメのおすすめ食べ合わせ
ヒラメ(平目/鮃)の選び方・食べ方・注意点
ヒラメを選ぶ時は表皮に艶があり程よいヌメり感があるもの・肉厚で固く締まっているものを選ぶようにします。切り身の場合は透明感があり、同じく弾力があり身が硬めのものが良いでしょう。一匹で買う場合はあまり大きすぎるもの(3kg以上)は筋張っていたり大味になりやすいので、小さめのものを選んだほうが外れにくいと言われています。ちなみに天然物は腹が真っ白・養殖物は通称“パンダヒラメ”と呼ばれるように腹に暗褐色化した斑紋があると言われています。
ヒラメの注意点
ヒラメには寄生虫(クドア・セプテンプンクタータ)がいる場合があり、食べると食中毒症状を引き起こすことがあります。自治体などでも安全対策を行っていますので国産養殖のものであれば心配はいらないと言われていますが、まれに産地偽装などが行なわれたこと食中毒事件が起こってしまっています。マイナス20℃で4時間以上の冷凍もしくは75℃以上5分以上の加熱で防ぐことが出来ると言われていますから、加熱用のものを購入した場合はしっかりと熱を通すようにしましょう。ただしカレイよりも身が硬くなりやすいので、調理はやや難しい部類と言えるかもしれません。