食べ物辞典:桃
果汁が溢れてしまうほどのジューシーさと、上品な甘さが特徵の桃。ユーラシア大陸中で古くから親しまれている果物の一つですし、日本や中国では「縁起物」としても大切にしてきた歴史があります。果実は使いませんが、ひな祭りは“桃の節供”ですしね。栄養面では何かが際立って豊富ということはないものの、食物繊維やビタミン・ミネラルを少しずつ補給できます。甘さの割にカロリーが低めですし、フラボノイド・クマリン類などのポリフェノールを含むことから抗酸化サポートにも期待されています。そんな桃の歴史や栄養効果について詳しくご紹介します。
和名:桃(もも)
英語:Peach
学名:Prunus persica
桃(モモ)のプロフイール
桃とは
瑞々しくジューシーな食感と、優しい香り・甘味が魅力の桃。旬の時期がハッキリとしていることもあり、少し特別感がある存在ではないでしょうか。気軽にデイリーに食べるフルーツというよりは、少し贅沢をシたい時に食べるという方も少なくないように感じます。英語ではピーチ(Peach)という言葉もすぐに出てきますし、輸入品でも桃フレーバーの飲料・お酒類やお菓子があることからも分かるように、桃は世界中で親しまれている植物の一つ。栽培も世界各地で行われていますが、甘さ・ジューシーで滑らかな食感は日本の品種群が断トツなのだとか。
桃は植物分類ではバラ科モモ属。雛祭りの飾りなどでもお馴染みの桜に似た可愛らしい花を付けますが、分類としては桜よりもプラム/プルーン類やアーモンドに近いとされています。桃の種小名は「ペルシアの」を意味する“persica”が使われており、英名のピーチ(Peach)についても「ペルシアのリンゴ(persicum malum)」が語源とされています。とは言え原産地は中国と考えられており、ペルシアを通じて紀元前のうちにギリシアやローマに伝わったのだとか。現在はユーラシア大陸やアメリカ大陸など広い範囲で親しまれている果樹の一つで、桃の品種数も100以上あると言われています。
桃の品種は日本では果肉の色で白肉桃・黄肉桃の2つに大きく分けており、国内流通量の多い白肉桃は更に元となった品種から白桃系・白鳳系の2つに分かれます。日本での主流と言えるのが果皮がピンクがかった色・果肉が白色をしている“白鳳系”品種。白桃系は果肉だけではなく果皮も白みが強いのが特徴なので、欧米でポピュラーな桃の写真などを見ると桃ではない果物のように感じることもあります。
日本では桃というと雛祭り=桃の節句も知られていますが、これは中国から伝わった五節句の一つ“上巳の節句”が元となっています。元々は人形(ひとがた)を身代わりにして川などに流すことで厄払いをする行事で、男女共通で厄払いをしていました。これが後に貴族の女の子の遊び道具“ひいな”と混じり江戸時代には“雛人形”を飾る行事、女の子の健やかな成長を祈る行事へと変化していきました。中国では古くから桃は「長生の実」「不老長寿の仙果」と考えられ、体の中の悪いものを取り除く力がある・魔除けになるという民間信仰もあったのだとか。現在でも桃のデザインは吉祥図案とされており誕生日などのお祝い事では桃の実を象った“桃饅頭(壽桃)”を食べる習慣が残っているそうです。
ひな祭りの時に桃が使われているのも、中国と同様に桃の神聖な力に守ってもらって女の子が健やかに成長できるようにという願いが込められているんですね。また、女の子の行事とされている桃の節句をはじめ、桃子ちゃんなど女性の名前に使われたり、丸くハリのある(主に女性の)お尻を“桃尻”と言ったりと、桃は色や形の関係からか女性を連想させる言葉としてもよく使われています。美しく美味しいけれどデリケートで痛みやすいことから、英語でもpeachは「若く魅力的な女性」という意味で使われる事があるそう。風水では恋愛運を上げるフルーツとされることもあるようです。
桃の栄養成分・効果について
栄養成分含有量の参考元:日本食品標準成分表2015年版(七訂)
桃は全体の全体の90%近くが水分で、高カロリーと思われがちですが100gあたりのカロリーは40kcalと低めです。残り10%程度の大半をショ糖・果糖・ブドウ糖などの炭水化物が占めており、ビタミン・ミネラル類の含有量も全体的にさほど多くはありません。しかしクエン酸やリンゴ酸などの有機酸、カテキンやクマリンなどのポリフェノールが含まれており、健康や美容維持にも役立つと考えられています。
桃の効果効能、その根拠・理由とは?
エネルギー補給・疲労回復に
桃に含まれているクエン酸やリンゴ酸はクエン酸回路(TCAサイクル)に関与する成分。クエン酸回路と言うのはエネルギー代謝の呼び名で、クエン酸もこのクエン酸回路の中で生成される酸のため必須栄養素ではありません。しかしクエン酸回路の働きが鈍ってしまった時にクエン酸などを外側から補うようにすると、クエン酸回路の活発化=代謝を良くすることが出来ると考えられています。筋肉痛などの原因として疲労物質“乳酸”がよく挙げられていますが、この乳酸もクエン酸回路内で生成される物質です。クエン酸回路が潤滑に回ることは乳酸のもととなる物質(焦性ブドウ糖)の蓄積抑制・乳酸の代謝を高めることに繋がる可能性もあります。
また疲労がたまると体が酸性に傾くのもクエン酸回路の低下が原因とされていますから、クエン酸を摂取することで疲労予防や回復に役立つと考えられています。ただしクエン酸の疲労回復効果については信頼できる十分なデータがないこと・摂取しても疲労回復効果はないという報告も多くあることから、クエン酸に疲労回復効果は無いという見解も少なくありません。俗説の域を出ない話ではありますから、過度な期待は避けたほうが確実です。
とは言えクエン酸などの有機酸類だけではなく、桃には即効性のあるエネルギー源となる糖質も含まれていますから、疲労予防のためのエネルギーチャージ・栄養補給としては役立ってくれるでしょう。桃を食べるだけで十分に補給できるとは言い難いですが、三大栄養素(糖質・脂質・タンパク質)の代謝に不可欠とされるナイアシンやビタミンE・ビタミンCなど疲労と関わりの深い栄養素も含まれています。
夏バテ予防・軽減に
夏バテを起こす原因は色々ありますが、その一つとして汗などでカリウムが結合することも挙げられています。桃はミネラルの中で100gあたり180mgとカリウムを比較的多く含んでいます。グラムあたりの含有量で見ると果物類の中では中堅くらいのポジションですが、それでもリンゴやスイカの約1.5倍となります。桃はジューシーなことからも分かるように水分が多いので、カリウム以上に夏場に失われやすい水分補給も同時に出来ますね。
加えてクエン酸はキレート効果と呼ばれる働きでミネラルの吸収を高める働き、胃液の分泌を促ことで食欲を高める・消化を助ける働きもあります。桃を食べることでも糖質やビタミン・ミネラル類の補給に繋がりますし、柔らかく口当たりが良いので夏バテでぐったりしている時のレスキュー食としても役立ちます。アイスキャンデーやかき氷などと比べると、体を冷やしすぎる心配がないのも嬉しいですね。夏が旬な食べ物なだけに、夏場の健康管理にも役立ってくれるでしょう。
血行不良・むくみ対策に
桃にはポリフェノールの一種で香り成分のクマリンが含まれています。クマリンには抗酸化作用や抗血液凝固作用があり、血行を良くすることでむくみ改善やセルライト対策などに効果が期待されています。抗酸化作用や末梢血管拡張作用でスムーズな血液循環をサポートしてくれるビタミンEも100gあたり0.7mgと果物類の中では比較的多く含まれていますし、ナイアシンにも代謝をサポートする他に血行を促す働きがあるとされています。これらの栄養素が複合して働いてくれますから、血行不良や冷え性・末端冷え性の改善効果が期待できます。ちなみにフルーツの多くが体を冷やすと言われていますが、桃はリンゴ・イチジクなどと共に体を温める性質(温性)とされていますよ。
またカリウムは体内でナトリウムとバランス取りあっているミネラルで、ナトリウム量が多い場合には排出を促す働きがあります。味の濃いものを食べた後などにむくみやすくなるのは、血中ナトリウム濃度が濃くなりすぎないよう身体が水分を取り込み保持しようとするため。カリウムを摂取することでナトリウムが排出されると、ナトリウム過多によって身体に溜め込まれていた水分の排出に繋がります。このカリウムの働きと血液循環の改善によってむくみ改善にも効果が期待できるでしょう。
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整腸・便秘予防に
意外なことに桃は果物(青果類)の中では食物繊維量が比較的多な部類に属しています。生100gあたりの食物繊維総量は1.3gと、同グラム同士で比較すればグレープフルーツの約2倍でありバナナよりも上。便の硬さを保つためにひるような水分補給にも良いためか、民間療法・お婆ちゃんの知恵袋には「便秘解消には桃をジュースにして飲む」という方法もあるそうです。桃は極端に不溶性食物繊維が多いわけでもなく、水分補給にもなるため便が硬くなってしまうタイプの便秘にも適しています。
ちなみに桃100gに含まれる食物繊維1.3gの内訳は、不溶性食物繊維0.7g・水溶性食物繊維0.6gと、水溶性食物繊維が多いことも桃の特徴です。不溶性食物繊維は“腸の掃除屋さん”と称される存在で、腸内の老廃物を掻き出す・便の量を増やすことで腸を刺激して蠕動運動を促す働きなどがあります。対して水溶性食物繊維は便の水分量を調節したり、腸内善玉菌のエサとなることで腸内フローラを整えてくれる存在です。便秘解消に理想的な食物繊維摂取バランスは不溶性2:水溶性1とされていますが、野菜や豆類などに多く含まれているのは不溶性食物繊維の方。水溶性食物繊維は含有率が低いため、便秘の解消や腸内環境改善などのためには意識的に摂取したい成分。桃は水溶性食物繊維の割合が高い食材ですから、食物繊維のバランスを取るという面でも役立ってくれるでしょう。
ダイエットサポートにも
はっきりとした甘さを感じられる桃はカロリーが高そうと思われがちですが、100gあたりのカロリーは40kcalと低め。これは果物類でも低い部類でオレンジやグレープフルーツとほぼ変わらず、バナナの半分以下のカロリー数になります。一個食べたとしても80~90kcal程度ですし、酸味や爽やかさが強い柑橘類よりは“甘み”を感じやすいのでダイエット中に甘いものが食べたい時にも重宝します。甘いものを食べると満足感もありますしね。
カロリーがさほど高くないことに加え、桃に含まれている糖アルコールの一種でビタミン様物質であるイノシトールには血管や肝臓への脂肪蓄積を抑制する働きが報告されています。そのためメタボリックシンドローム予防やダイエットサポートにも効果が期待されていますし、血行を良くすることで代謝を高めるクマリン・腸内フローラを整える水溶性食物繊維なども含まれています。クエン酸などの有機酸類やナイアシンも代謝を活発化する働きが期待できますから、適量であればダイエット中の代謝低下予防にも役立ってくれるでしょう。
生活習慣病予防に
塩辛いものを食べすぎたりすると、ナトリウム濃度を保つために水分が取り込まれます。これはむくみの原因になるだけではなく、心臓や血管にも負担がかかります。桃は比較的多くカリウムを含んでいることから、塩辛い食事などで多く摂りすぎたナトリウムの排出を促すことで高血圧予防に役立つと考えられています。
桃は緑茶の成分として知られるカテキンやクマリンなどのポリフェノール類、ビタミンEなどの抗酸化作用を持つ成分も含んでいます。このため過酸化脂質が血管に付着・蓄積して起こる動脈硬化の予防にも役立つと考えられます。また水溶性食物繊維にはコレステロール低下、イノシトールには血管や肝臓に滞っている脂肪・コレステロールの流れを良くするなどの働きも期待されており、抗酸化物質と協力して働くことで動脈硬化の予防にも役立つと考えられてます。血流が良くなることは血圧を正常に保ちやすくなることにも繋がりますね。
そのほか桃にはインスリンの働きを高めることで糖尿病予防に役立つのではという説もありますが、桃は糖質の含有量が多く主成分は果糖ではなく“ショ糖”になりますから、食べ過ぎには注意が必要です。デザートとして食べるよりも食事の前に食べたほうが良いと言われています。
美肌作り・老化予防に
桃は血液循環をサポートしてくれるクマリンやビタミンEを含んでいます。血行が良くなることで肌のくすみやクマを改善し透明感アップに繋がり、しっかりと酸素や栄養が行き渡ることで肌の新陳代謝を高めてターンオーバーを整えることにも繋がります。またビタミンBの一種であるナイアシンにも皮膚や粘膜を健やかに保つ働きがありますし、食物繊維の働きで腸内環境が良くなることなどから肌荒れ予防にも効果が期待できます。
クマリンやビタミンEは抗酸化物質でもあります。加えて桃にはカテキンやケンフェロール、薬効成分と言われるアントシアニン系色素(クリサンテミン)などのポリフェノール類も含まれています。特にクリサンテミンは肌や内蔵の老化に対して強力な予防効果があると言われ、他抗酸化物質類と相乗することで身体の内側・肌などの外見面両方で老化予防に役立ってくれると考えられています。古代中国で長寿の果物と言われていたのもこのあたりの働きを感じていたのかもしれませんね。
目的別、桃のおすすめ食べ合わせ
桃の選び方・食べ方・注意点
桃は皮を向いたりカットした状態でおいておくと、酸化して黒ずんでしまうことがあります。他の果物類と同じく、変色を抑えるには塩水・砂糖水・レモン汁などで表面をコーティングします。塩や砂糖を使う場合は、桃のデリケートな味を壊してしまわないように注意。好みにもよりますが。ほんのりした塩水につけるとレモン汁よりも桃の味が分かりやすく、甘味が際立って美味しいと思います。
桃が鉄分補給に良い・貧血に良いとする説もありますが、鉄分含有量は100gあたり0.1gと微量ですので鉄分を補給したい場合は別の食材を選んだほうが確実でしょう。また黄肉種の桃にはβ-カロテンやゼアキサンチンなどのカロテノイド類が多く含まれていますが、白肉種にはほとんど含まれていません。また桃は身体を冷やさない果物とは言われていますが、冷蔵庫にキンキンに冷やして食べた場合は別です。桃自体も冷やしすぎると味が落ちると言われていますので、食べる1~3時間前に冷蔵庫に入れておくのがベスト。
美味しい桃の選び方・保存方法
桃を選ぶ場合は全体的にふっくらと丸みがあり、縫合線(お尻のように見える縦の割れ目)を挟んで左右均等なものを選びましょう。色については種類により差がありますが、一般的な果皮が桃色をした桃を選ぶ場合は色が鮮やかなものを選ぶようにすると良いです。色付いている部分に小さな白い斑点が出ているものが美味しいと言われています。
未熟なものは常温で追熟させ、熟したものは冷暗所もしくは冷蔵庫に入れてください。桃はエチレンガスを発生させてしまうため、冷蔵庫に入れてもそこまで追熟が遅れて保存期間が伸びるわけではないそう。あまり日持ちはしませんので早めに食べるようにしましょう。また、近くにエチレンガスによって影響を受ける食材がある場合には注意が必要です。
数日中に食べられない場合であれば、一旦冷凍。完全に解凍してしまうと味も食感も残念なことになってしまうので、半解凍でシャーベットのように食べるのがお勧めです。そのほかに一度煮てコンポートにしてから冷凍するという方法も、極端な味・食感の変化を避けられますよ。
桃の種の毒性・注意点
桃の種は官房では生薬としても利用されており、民間療法の中でも薬酒作りなどに利用される方がいます、しかし桃の種には青酸配糖体「アミグダリン」が含まれていることが指摘されており、摂取量によっては毒性を発揮してしまうので自己判断での使用は危険です。身近なところでは桃の種をホワイトリカーに漬け込んで常飲すると肩こりの解消や美肌に良いという民間療法などもありますが、扱いには注意が必要なので専門家に相談したほうが良いでしょう。
桃の葉について
桃の葉は入浴剤や化粧品成分として利用される素材の一つ。夏の土用の「桃湯(桃葉湯)」をはじめ、あせも対策のお風呂やローションとして紹介されることも多いですね。桃の葉はタンニンなど収斂・消炎作用のある成分を多く含んでいますので、あせもだけではなく肌荒れやニキビ予防にも良いと言われています。ちなみに桃の葉は桃葉(トウヨウ)と呼ばれ解熱・鎮咳・去痰・利尿などの効能を持つ生薬として紹介されることもありますし、健康茶としても販売されています。鎮痛解熱などに役立つと言われており、風邪や気管支炎など呼吸器系の不調に対する民間療法として桃の葉茶を飲む方もいらっしゃいますね。
そのほか桃の利用と言えば、桃の種子から抽出された“ピーチカーネルオイル”もあります。エモリエント効果が期待できるキャリアオイルとして、スキンケアやマッサージ用として販売されていますね。
【参考元】