食べ物辞典:ゴボウ
他の食材には例えにくい、ふんわりと大地を感じるような風味のあるゴボウ。日本で長く愛されてきた食材の一つでもあり、ほっこりする和食をはじめ、カリカリに焼くか揚げるかするとスナック感覚で、と様々な使い方が出来ますよ。食物繊維が豊富でポリフェノールも含まれているため、便秘対策やダイエット・血糖値が気になる方のお食事にも活用されています。そんなゴボウに含まれている成分や、期待される健康メリットについて詳しくご紹介します。
和名:ごぼう(牛蒡/牛旁)
英名:Burdock root / Gobo / Edible Burdoc
学名:Arctium lappa
ごぼう(牛蒡)とは
ゴボウプロフイール
少し土っぽいような、野性味ある香りが特徴的なごぼう。軽く火を通せばシャキシャキ、しっかり煮るとホクホクした食感になる、和食に欠かせない根菜の一つです。きんぴらごぼうや煮物の具材・かき揚げ・サラダ・漬物など、私達は様々な料理法でゴボウを食べています。
私達がゴボウと呼んで食べているのは、キク科ゴボウ属に分類される多年草(Arctium lappa)の根の部分。実は、この根部分を野菜感覚で使用するのは日本と台湾、朝鮮半島だけなのだとか。日本以外の国々でゴボウが食されているのも、戦時中の占領など、日本の食文化の影響が大きい[1]とされていますから、日本の野菜と言っても良いのかもしれません。。
では、それ以外の国でゴボウは全く利用されていないのか、と言えば、そんなこともありません。ユーラシア大陸の広い範囲でゴボウは伝統医療や民間療法の中で使われてきました。ヨーロッパでゴボウ(根部分)はハーブの一種のような感覚で飲料や、お酒のフレーバーに使われています。日本でも健康茶の1つにゴボウ茶がありますね。中国では種子が“牛蒡子”として生薬として利用されてきた歴史もあります。
ちなみに、ゴボウは中国でも牛蒡(niúbàng)。漢字の由来ははっきりしていませんが、牛の尾に似ていたことが由来とする説と、フキに似た「蒡」という植物に似ていたが大きいので「牛」を冠して牛蒡としたとする説があります。また、同じく“ごぼう”がつく食べ物として、山菜の“ヤマゴボウ”もあります。ヤマゴボウは自生しているゴボウ・ゴボウの野生種というわけではなく、アザミ類など別植物の根です[1]。
日本でゴボウは古くから食されてきた食材の1つ。東日本は細長い形状のもの、西日本は太く短い形状のものが好まれる、とネギなどと同じように東日本と西日本で好みの違いもあります。とは言え、現代に至るまで家庭の食卓の定番であり続けたわけでもなく、昭和中期前後には「ゴボウは繊維ばかりで栄養価がない」と低く評価されていたことも。しかし、20世紀末からは健康志向の高まりから、食物繊維やポリフェノールを豊富に含むことが再評価されています。
女性を中心に美容効果の高いヘルシー食材として注目されたこともあってか、ゴボウサラダやフリッターなど現代の食生活にマッチした食べ方も多く提案されました。ゴボウをそのまま利用したスナック菓子なども販売されていますよ。マクロビオティックダイエットや和食ブームの影響から、ゴボウ食に馴染みのなかった欧米でも「根菜として食べらるもの」「日本料理で使われる食材」と認知度が高まりました。英語でも、日本語名そのままGoboと呼ばれることもありますよ[2]。
ゴボウの選び方・保存方法
ゴボウを選ぶ時には、端から端まで太さに極端な差のないものを選びます。表面が萎びていたり、ぐんにゃりと曲がってしまうような柔らかいものは避けます。土付きのものは分かりにくいですが、皮が割れたり剥がれたりしておらず、全体にピンとハリがあると感じられるものが良いでしょう。ひげ根が少ないもののほうが、しっかりと栄養を蓄えていると言われています。
ゴボウは土付き、丸一本の状態が最も日持ちします。乾燥しないように新聞紙で包んでおけば、風通しの良い冷暗所に置いておくだけでOK。夏場や不安な場合は冷蔵庫の野菜室に入れて下さい。時間が経つと香りが抜けてしまい、食感も少しずつ落ちていきます。腐らないという意味では日持ちがしますが、早めに食べたほうが風味・食感ともに良い状態で味わうことが出来ます。
ゴボウの栄養成分・効果について
栄養成分含有量の参考元:日本食品標準成分表2020年版(八訂)
ゴボウの栄養価で特徴的なのは、野菜類でもトップクラスと言える食物繊維含有量の多さ。また、必須栄養素ではありませんが、ポリフェノールを含み抗酸化作用などの健康メリットが報じられたことからも注目されています。ビタミン・ミネラルも含んではいるものの、含有量は多くはありません。
ただし、食物繊維が豊富のイメージからか、ゴボウはカロリーも低い食材と思われがちですが、生ゴボウ100gあたりのカロリーは58kcalと、葉物野菜などのように低くありません。糖質量・カロリー共に根菜類の中では低い部類、と考えると無難です。
ゴボウの効果効能、その根拠・理由とは?
食物繊維補給・便秘予防に
ごぼうは食物繊維が豊富な食材。ゴボウ(生)100gあたりの食物繊維総量は5.7gと、同グラムで比較するとアボカドを上回ります。また、食物繊維の内訳も不溶性食物繊維3.4g、水溶性食物繊維2.3gと、水溶性食物繊維の含有率が高いという特徴があります。
食物繊維は大きく、水に溶ける水溶性食物繊維・水に溶けない(水を吸って膨らむ)不溶性食物繊維の二種類に分類されています。不溶性食物繊維は、水を吸って膨らむことで便のかさを増やしたり、腸の蠕動運動を促すことで、便通を整える働きがあります。しかし、水を吸うという性質から水分が足りないと便を固くしすぎてしまったり、腹部膨満感や下痢の原因になる可能性もある成分。水溶性食物繊維は水に溶けてゲル状になることで便の硬さを整えたり、腸内細菌のエサになることで腸内環境を整える働きがあります[3]。
食感的に“繊維質”と感じる野菜や果物に多く含まれているのは、実は不溶性食物繊維。食物繊維の摂取を意思していても、水溶性食物繊維の方が補給できていないこともあります。水溶性食物繊維が多く含まれているゴボウは、水溶性と不溶性食物繊維のバランスが良い食材でもあるのです。
血糖値サポート・肥満予防に
不溶性食物繊維は、水を吸って膨張することで胃や腸の空間を満たし満腹感を感じやすくするメリットもあります。硬い食感は噛む回数を増やして、満腹中枢を刺激して早めに「お腹がいっぱい」という信号が送られるので、合わせて食べ過ぎ予防に役立ちます。
水溶性食物繊維はゲル状に溶けて食べ物を包み込む性質があり、食物が消化器官を通過するスピードをゆっくりにする[3]ことで血糖値の上昇を緩やかにするというメリットもあります。急激な血糖値上昇を抑える=インスリンの分泌を抑えることにも繋がります。すると、インスリンによって糖が脂肪として蓄えられにくくなるので、肥満予防やダイエットサポートに繋がるでしょう。腸内環境の改善からも、代謝向上による肥満予防効果が期待できます。
また、ゴボウには生100gあたり320mgとカリウムも比較的多く含まれています。カリウムは体内でナトリウムとバランスを取り合う性質があり、ナトリウム排出を促すことで体内の水分量を調節する・利尿効果を持つと考えられているミネラル。カリウム不足や味の濃い食事をした後などのむくみ緩和に役立ってくれます。食物繊維類やカリウムの働きによって便秘やむくみが軽減されれば、見た目をスッキリと整えてくれるでしょう。
抗酸化物質の補給に
ゴボウは食物繊維が豊富な以外に、ケルセチンやクロロゲン酸などのポリフェノ―<ルを含んでおり、活性酸素を除去する抗酸化作用が高い食材としても注目されています[4]。これらのポリフェ―ノルは、体内で過剰になった活性酸素・フリーラジカルによる酸化ストレスを抑制もしくは軽減する働きを持つ抗酸化物質。酸化ストレスが高まると、細胞が傷つき、老化促進や体の機能低下の原因となる恐れがあります。
このため、抗酸化物質の補給は健康や若々しさの維持に繋がると考えられています。また、抗酸化物質の補給は血中の悪玉(LDL)コレステロールの酸化を抑制し、動脈硬化や血栓などの予防に役立つ可能性もあります。2019年『Antioxidants』に発表されたゴボウの根抽出物を使った研究では、酸化ストレスと炎症を軽減したことが報告され、肝障害予防に対する有用性も示唆されています[4]。
ゴボウに含まれている水溶性食物繊維には、食物が消化器官を通過するスピードをゆっくりにすることで血糖値の上昇を緩やかにするというメリットもあります[3]。抗酸化作用と合わせて糖尿病や糖尿病合併症予防をサポートしてくれる可能性もあるでしょう。こうした成分や研究発表から、ゴボウは生活習慣病が気になる方のお食事にも適した食材と考えられます。
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免疫機能サポートにも期待
人の免疫器官の多くは腸に集中して存在しており、近年は腸内細菌と免疫機能に密接な関わりがあるとの説も提唱されています。ゴボウは食物繊維が多く、善玉菌の増加を助ける水溶性食物繊維の補給に役立つ食材。腸を整えることで、間接的に免疫機能を整えるサポートが期待できます。酸化ストレスも免疫機能の低下を引き起こす原因となる可能性がありますから、抗酸化物質の補給からも正常な免疫機能維持を手助けしてくれるでしょう。
また、ゴボウ抽出物を投与したラットの免疫細胞では、炎症関連酵素や炎症関連物質の抑制が見られたという報告[5]もあります。こうした研究から、ゴボウは炎症物質を抑制して抗炎症・抗アレルギーにも役立つのではないか、という記載もされています。
ただし、有用性が認められる段階ではありませんし、私達が摂取するのは抽出物ではなく野菜としてのゴボウです。医薬品のような効果効能はありません。健康維持のサポート・体質改善の一環として取り入れてみる程度にしましょう。
美肌作りのサポートにも
ゴボウはポリフェノール類を含み、抗酸化力を持つ食材。酸化を軽減し、肌荒れ予防やアンチエイジング(老化予防)にも役立つと考えられます。肌細胞が酸化ストレスを受けることで起こる、皮膚のシワ・シミ・たるみなどの予防にも一役買ってくれるでしょう。
食物繊維の補給による便秘改善・腸内環境改善からも、肌荒れやくすみなどの改善が期待できます。
目的別、ゴボウのおすすめ食べ合わせ
ゴボウの注意点、その他
ごぼうに含まれる食物繊維やポリフェノールはは皮付近に多く存在しています。ごぼうの風味が多く含まれている部分も皮のため、皮は剥かずに利用したほうが風味としても栄養補給としても◎。表面をたわしなどで洗い、汚れが気になる部分があればそこだけを薄く剥いで使用することもできます。
クロロゲン酸などのポリフェノール類やカリウムなどは水に晒してしまうと流れてしまうため、栄養補給を考えると下処理(アク抜き)を長時間するのは避けたほうがよいでしょう。ただし、短時間ならば流出する成分は少なくて済みますから、気になる場合は短時間だけ水や酢水に晒すと良いです・
ゴボウの注意点
食物繊維を多く含むゴボウは、高FODMAP食品に分類されています。過敏性腸症候群の方や、お腹が弱い方は、食べ過ぎるとお腹の不調を起こす可能性があります。一度に大量に食べるのは控えましょう。
ごぼう茶について
手軽に食物繊維が摂れる・抗酸化作用(アンチエイジング効果)のあるお茶として人気のある「ごぼう茶」。水溶性食物繊維補給による腸内環境の改善や排便促進作用は期待できるでしょう。また、ポリフェノールも摂取できますので、抗酸化やアンチエイジングを心がけている方には手軽な補給源として役立ってくれるでしょう。
ただし、お茶には溶け込んでいるのは、水溶性食物繊維だけです。茶殻まで食べないと不溶性食物繊維は摂取できません。
【参考元】
- [1]ゴボウの種類、ゴボウの料理
- [2]Question: What Is Gobo In Japanese Food?
- [3]Soluble vs. Insoluble Fiber: What’s the Difference?
- [4]Arctium lappa Root Extract Prevents Lead-Induced Liver Injury by Attenuating Oxidative Stress and Inflammation, and Activating Akt/GSK-3β Signaling
- [5]Anti-allergic and anti-inflammatory effects of butanol extract from Arctium Lappa L.