食べ物辞典:大根
生のまま使えば瑞々しくシャキシャキ、煮込むと柔らかい食感と使い方によって様々な食感を出せる大根。日本では古くから食べられてきた野菜の一つで、消化酵素を含むことから「天然の消化剤」とも呼ばれています。近年はアリルイソチオシアネートによるダイエット効果や、β-カロテンやカルシウム・鉄分などが豊富な緑黄色野菜“大根の葉”も注目されています。そんな大根(根・葉)に含まれている成分や、栄養効果について詳しくご紹介します。
和名:大根(だいこん)
英名:Japanese radish/Daikon
学名:Raphanus sativus var.hortensis
大根(だいこん)とは
大根のプロフイール
大根はたくあんなどの漬物・ぶり大根などの煮物と伝統的な家庭料理から、カレーまで様々に活用されている食材。生の場合はやや辛味と独特の臭気がありますが、味自体は淡白でクセがないのも使いやすいですよね。柔らかいお出汁の味を活かしたおでんも定番です。日本原産ではありませんが大根は和食の代表的な食材の一つであり、春の七草に数えられる「すずしろ」も大根もしくは大根の葉のことです。
大根といえば食用とされる白い部分(肥大した根)の見た目が似ていることから、カブの仲間のようにも思われます。大根もカブもアブラナ科野菜ですので仲間と言えなくもありませんが、カブはアブラナ属、大根がダイコン属に分類されていますので、近縁種と言うほど近い植物でもありません。大根はカブではなくラディッシュ(二十日大根)の近縁種で、英語でも大根のことを日本語そのままの「Daikon」もしくは「Japanese radish」と表現します。
また、ダイコンは縦長・カブは球状の印象があるかもしれませんが、ダイコンにも聖護院大根や二十日大根など丸みの強い形の“丸大根”も存在しています。日本人からすると大根=白色のイメージが強いものの、ダイコン属の食用種には赤・緑・紫・黄・黒とカラフルな種もあります。国によって「大根(radish)」と言われた時にイメージする色が違うのだとか。ちなみに、ニンジンはセリ科なので全く別もの。
縦長から急に近い形のものまで、大根にはいくつもの品種がありますが、現在主に流通しているのは頭の部分が緑色の“青首大根(青首宮重群)”系統の種類です。その他に練馬大根や三浦大根など緑色の部分がない“白首大根”系、スプラウト野菜として利用される“カイワレ大根”などがあります。
古くから身近な野菜であったためか、日本にはダイコンに例える表現も多くあります。下手な役者を「大根役者」と呼ぶのは大根に胃腸を助け消化を良くする働きがあり“食べてもあたらない”ということと、役者として当たらないを引っ掛けた言葉遊びのようなもの[1]。また、“大根足”という言葉も、古くはは白くてスラリとした足を褒める言葉だったのだとか。言われた人にすれば貶しの言葉ですが、同時に大根に対する日本人の評価の高さがうかがえる言葉でもありますね。
大根の選び方・保存方法
大根を選ぶ時は全体的にハリと瑞々しさが感じられるものを選びます。収穫から時間が経つと表面がしんなりしてきますので、パンと張っている印象のものを選びましょう。葉が切られているものであれば、切り口が萎びていないかも新鮮さを確認できるポイントです。ひげ根が少なく、毛穴のようなブツブツが浅い美肌の大根を選ぶと良いようですよ。カット大根は断面のキメが細かく瑞々しい物を。
個体差もありますが、大根は基本的に頭(葉の付いている方)が甘みがあり、下の細い方が辛味が強いと言われています。葉に近い部分は大根サラダやお子さん用の大根おろしなど生食用に、真ん中あたりは煮物に、細い部分は薬味感覚で使う大根おろしや味付けの鯉料理に、と部位によって使い方を変えてみてください。
大根の栄養成分・効果について
栄養成分含有量の参考元:日本食品標準成分表2020年版(八訂)
大根(根部)の効果効能、その根拠・理由とは?
大根(根部)は全体の94.6%と水分の割合が多く、100gあたり15kcalと低カロリーな食材です。特出して多い必須栄養素はありませんが、ビタミンB群やビタミンC、カリウムなどのミネラルを幅広く含んでいます。
加えて、大根にはアブラナ科野菜に多く見られるグルコシノレート(カラシ油配糖体)類が含まれています。グルコシノレートから生成される“イソチオシアネート”は、健康メリットを持つ可能性がある成分として注目されている存在。イソチオシアネートによる抗酸化作用などからも、体を整える働きが期待されています。
胃腸機能のサポートに
大根には消化酵素が含まれ、一緒に食べたものの消化をよくする働きがあると考えられてきました。脂肪、タンパク質、炭水化物の吸収を助け、胃腸機能の働きを整える効果が期待されています[2]。加えて、大根に含まれているリゾホスファチジン酸(LPA)も胃腸機能の予防・回復に役立つことが示されています。
胃腸の働きを助けてくれる成分をまとめて摂取することが食材として、大根は「天然の消化剤」とも呼ばれ、伝統的に胃もたれや胸焼けの緩和・胃炎や胃潰瘍の予防に使われてきました。大根の辛味成分でありワサビなどアブラナ科野菜に多く見られるイソチオシアネートにも、優れた抗菌性があります。このため、大根おろしを薬味として使うことは消化促進+食中毒予防と、風味だけではなく健康維持にも有益だと考えられます。
免疫力保持・風邪予防に
大根に含まれているイソチオシアネートは抗菌作用があることに加え、抗酸化作用を有することも報告されています[4]。このため、酸化ストレスによる耐機能低下を抑え、免疫力を正常に保持することにも繋がると考えられます。
大根には抗酸化作用や免疫機能向上など、健康サポートに関わる栄養素であるビタミンCも100gあたり11mg含まれています。消化をサポートし栄養吸収を助けてくれる働きもあるので、様々な方面から免疫力向上や風邪予防のサポートにも役立ってくれるでしょう。風邪予防やケアの民間療法に大根がよく用いられるのも、こうした働きがあったためという見解もありますよ。
ちなみに、アブラナ科野菜の機能性成分として注目されているイソチオシアネートは、大根にそのまま含まれているわけではありません。大根にはグルコシノレート(カラシ油配糖体)のシニグリンという形で含まれており、細胞が破壊されると酵素と反応してイソチオシアネートが生成されます。
この酵素(ミロシナーゼ)は熱に弱いため、しっかりと補給したい場合には生状態で補給する必要があります。ビタミンCも熱に弱い性質がありますから、風邪予防としては大根おろしやサラダにして食べたほうが効果的です。
便秘・むくみ対策として
大根に含まれている食物繊維は生100gあたり1.3gとさほど多くはありません。しかし大根は100gあたり18kcalとカロリーが低い食材でもあり、サラダやお味噌汁・煮物など様々な料理に使える野菜。食物繊維の補給源としても役立つと考えられます。大根には豊富な消化酵素・腸内善玉菌の活発化を促す働きが期待されるビタミンCも含まれていますから、複合して便秘改善やお腹の不調を軽減するサポートが期待できるでしょう。
ナトリウム排出を促すことで高血圧予防やむくみ軽減効果が期待されるカリウムも、大根は100gあたり230mgと比較的多め。アリルイソチオシアネートやビタミンCなどの抗酸化物質も含まれているので、血流の保持・促進からもむくみ改善に繋がると言われています。カリウムもビタミンCも水溶性の栄養成分ですし、アリルイソチオシアネートや消化酵素類も熱に弱いので、やはりこちらも生のまま食べるのがオススメです。
肥満予防や血糖値対策にも注目
大根に含まれているイソチオシアネートは、様々な健康メリットを持つ可能性が報告されている成分。健康番組などで代謝を活発にする働きを持つと報じられたこともあり、イソチオシアネートを含む大根もダイエット食材として注目されました。
2018年『Molecular Nutrition & Food Research』にマウスを使った研究では、アリルイソチオシアネートの投与で“体重、肝臓での脂肪滴の蓄積、および白色脂肪細胞のサイズが減少した”ことが報告されています[5]。アリルイソチオシアネートは大根の細胞が破壊されシニグリンとミロシナーゼが混ざることで生成されるため、生成を促すために細かく切る・大根おろしにすると効果的との説も納得ですね。
そのほか、大根には食物繊維やカリウムに補給による便秘・むくみ改善、抗酸化作用による代謝低下予防などからもダイエットをサポートしてくれる可能性があります。また、大根は水分含有量が高く、100gあたり15kcalと低カロリーな食材。ダイエット中の食事のカサ増し・食べ過ぎ予防にも役立ってくれるでしょう。ただし、消化を促す大根には食欲増進作用があるという説もあるので、ダイエット用の場合はご自身に合った取り入れ方を探してみて下さい。
抗酸化・美肌維持にも
大根に含まれているアリルイソチオシアネートは、抗酸化作用を持つことが認められている成分[4]。生活習慣病予防から免疫力向上、がん予防まで、様々な働きが期待されているのは、高い抗酸化作用による部分もあります。抗酸化作用は体内で増えすぎた活性酸素・フリーラジカルを抑制してくれる働きのため、酸化によって進行が早まるシミ・シワ・たるみ・くすみなどの、肌の老化現象予防にも繋がるでしょう。
大根にはアリルイソチオシアネート以外にもビタミンCなどの抗酸化物質が含まれていますし、ビタミンCはコラーゲン生成やメラニン色素の生成抑制など抗酸化以外にも美肌作りをサポートしてくれる成分。デトックス効果から肌荒れ予防や改善効果も期待できますから、大根は美肌サポートにも一役買ってくれるでしょう。
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大根の葉(大根菜)の栄養価、期待できるメリットは?
少し前までは捨てられてしまうことも多かったものの、近年は栄養豊富な食材として評価されつつある大根の葉。根は淡色野菜ですが、葉は緑黄色野菜に分類されるようにβ-カロテンが多く含まれています。ビタミン・ミネラル類も豊富なので、葉つきの大根を手に入れた場合は活用したいところ。定番の味噌汁の具として以外にも、炒めてふりかけを作ったり和風パスタにするなど案外食材としての使い勝手も良いですよ。
抗酸化・生活習慣病予防に
大根の葉部分は根には含まれていないβ-カロテンが100gあたり3900μgと、かぼちゃやほうれん草を上回るほど豊富に含まれています。このため大根菜は緑黄色野菜に分類されていますし、β-カロテン含有量は緑黄色野菜の中でも含有量トップクラスと呼べる位置です。また同様に根部にはないビタミンEも100g中3.8gと豊富に含まれていますし、ビタミンC含有量も53mgと4~5倍の数値になります。
β-カロテンや抗酸化作用を持つビタミン類の補給から、酸化によって起こる身体の様々な機能の低下・老化を防ぐサポートが期待されています。血液中の悪玉(LDL)コレステロールの酸化を抑制することで、血管を健康に保って動脈硬化や高血圧の予防にも役立つと考えられていますよ。大根の葉にはナトリウムの排出を促すことで高血圧予防に役立つカリウム、傷ついた毛細血管の修復を助ける働きが期待されるビタミンKなども多く含まれています。
ミネラル補給源として
大根菜のカルシウム含有量は、生100gあたり260mgと根部の10倍以上。同グラムでのカルシウム量を比較すれば牛乳の2倍以上となり、生野菜・果物類の中ではトップクラスです。大根の葉はカルシウム補給源として優れた食材と言えますし、骨の形成や維持に役立つビタミンKやビタミンCも豊富。このため骨や歯を丈夫に保つ手助けをしてくれる、育ち盛りのお子様や骨粗鬆症が気になる女性に適した食材と考えられます。
また、大根の葉はカルシウムだけではなく、100gあたり3.1mgと鉄分も豊富。ミネラルの中でも特にカルシウムと鉄分の含有量は根部と大きな差があります。また根と比べて多いと言うだけではなく、大根菜の鉄分量は同グラムで比較するとホウレンソウや小松菜、カブの葉などよりも上。
日本人のカルシウム摂取量は長期間にわたり、年代にかかわらず慢性的な不足傾していることが指摘されています[6]。女性の場合は鉄分も不足しがちなミネラルのため、カルシウム・鉄分と意識的に摂取したいミネラルが両方しっかり補給できるのは嬉しいところです。大根の葉には造血に関わる葉酸・ビタミンCも多く含まれていますから、鉄欠乏性貧血の予防に役立つと考えられます。
便秘対策に
大根(根)は消化にかかわる酵素を含むことから、消化促進や便通を整える働きが期待されている食材。大根菜の場合、消化酵素含有量は根部ほど多くありません。
しかし、食物繊維含有量は100gあたり4gと、根部の3倍以上。消化が良くない時・胃もたれしそうな食材との取り合わせとしては大根(根)の方が適していますが、食物繊維補給源としては葉に軍配が上がります。また、食物繊維だけではなく、大根の葉に豊富に含まれているビタミンCにも、乳酸菌などの善玉菌のエサとなることで腸内環境を整える働きが期待されています。このため葉も便通を整える手助けをしてくれる食材と言えるでしょう。
免疫力アップ・風邪予防に
大根の葉に豊富に含まれているβ-カロテンは抗酸化作用を持つカロテノイドであると同時に、必要に応じて体内でビタミンAに変換されるプロビタミンAの一つでもあります。ビタミンAは喉や鼻などの粘膜を丈夫にする働きがありますから、β-カロテンの補給は呼吸器粘膜の強化によってウィルスの侵入を防ぐことに繋がると考えられます。ビタミンCも免疫機能への働きかけを持つ可能性が報告されている成分ですから、合わせて風邪やインフルエンザに罹りにくい身体を作る手助けが期待できるでしょう。
またβ-カロテン(ビタミンA)・ビタミンE・ビタミンCはそれぞれが抗酸化作用を持つだけではなく、合わせて摂取することでお互いを助け合うようにして相乗効果を発揮すると考えられています。このため活性酸素過多=酸化によって起こる免疫機能低下にも繋がりますし、鉄分などのミネラルも丈夫な身体を作るために必要な栄養素。様々なビタミンやミネラルを補給できるという点からも、免疫力の乱れを防いで健康な体の維持をサポートが期待できます。
美肌維持・肌老化予防
大根の葉は100gあたり3900μgとβ-カロテンが豊富で、ビタミンCやビタミンEもしっかりと含まれています。ビタミンACE(※ビタミンAはβ-カロテン)を合わせて摂取すると、抗酸化力の向上・各ビタミンの持続時間を長くするなどのメリットも。このため、酸化ストレスを抑えることで、シミ・シワ・たるみなど肌の老化予防をサポートする働きが期待できます。
大根の葉は生100gあたり53mgとビタミンCも豊富なため、美白サポートにも期待できます。ビタミンCはシミやソバカスの原因となるメラニン色素を作る酵素(チロシナーゼ)の働きを阻害することによる美白効果が報告されていますし、コラーゲンの生成を促してくれる働きもあります。ビタミンEも血行を促すことで肌代謝の向上やくすみ予防に役立ちますから、肌年齢が気になる方だけではなく、紫外線対策や美肌保持を心がけている方にも嬉しい食材と言えます。
目的別、大根のおすすめ食べ合わせ
大根の注意点、その他
大根は細かく切る・すりおろして少し時間が経つとオナラのような悪臭が発生しますが、これはアリルイソチオシアネートだけではなくメチルメルカプタン(メタンチオール )と呼ばれる成分などが合わさって出来るもの。この臭いから家で大根を使いたくないという方も少なくありませんが、メチルメルカプタンにも血液サラサラ効果などが期待されているようです。悪臭と言える臭気ですが、身体に悪いものではありません。
切り干し大根の栄養価について
大根を干して切干大根にすることでカルシウム、カリウム、食物繊維、ビタミンB群などの含有量が増え高栄養食品になります。ただしビタミンCやイソチオシアネートなどは期待できませんし、影響成分含有量が高まるのは同グラムあたりで比較すると水分が抜けた事も大きく関係しています。このため、カロリーも生大根よりは高くなくなります。風味の問題ではなく栄養価的な面で利用する場合、切り干し大根は効率よくミネラルを補給したいときに適しています。
【参考元】
- [1]大根役者/だいこんやくしゃ – 語源由来辞典
- [2]Japanese daikon radish – description. Health benefits and harms.
- [3]Quantification of phosphatidic acid in foodstuffs using a thin-layer-chromatography-imaging technique
- [4]Isothiocyanates | Linus Pauling Institute
- [5]Allyl Isothiocyanate Ameliorates Obesity by Inhibiting Galectin-12
- [6]日本人は慢性的なカルシウム不足!摂取量の現状は