概要紫蘇は人によって単にシソと言ったり、赤しそ・青しそと言い分けたり、大葉と言ったりと紛らわしい存在。大葉はシソのことを意味しているでほぼ正解ですが、シソには様々な種類があります。食用とされるのは主にアカジソ・アオジソですが、この2つの違いや青じそのことを“大葉”と呼ぶようになった理由、しその栄養価や含まれているポリフェノールなどについてもご紹介します。
紫蘇と大葉の違いとは
紫蘇(しそ)とは
梅干しの色・風味付けから、ジュース・お菓子まで幅広く使われているシソ。何気なく呼んでいますが“紫蘇(しそ)”という言葉は一つの植物を指す言葉ではなく、wikipedia先生によりますとシソ科シソ属の植物の総称なのだとか。感覚としてはオレンジとかネギとかそういう感じですね。
ただし同じくシソ属に含まれていて外見も似ているもの、通常エゴマ(荏胡麻)をシソと呼ぶ人はいないので、学名Perilla frutescens var. crispaとされる一連の品種の総称と考えたほうが無難な気もします。ちなみに植物分類上はエゴマがPerilla frutescensであるのに対し、シソがPerilla frutescens var. crispaと【var.】が付けられているので、エゴマの変種がシソだよという扱いになっています。
しそには食用とされる赤しそ・青じそ以外に、主に観賞用として栽培されることの多い葉が縮れているチリメンジソやチリメンアオジソ・葉の表面が緑色で裏面が赤色のカタメンジソなども含まれています。このうち狭義で“紫蘇(しそ)”と呼ぶ場合であれば基本変種とされるチリメンジソ、もしくはシソ類の中でも代表的な品種であるアカジソ(学名:P. frutescens var. crispa f. purpurea)のみを指す場合もあるのだか。園芸をされている方・植物に造形の深い方はさておき、紫蘇という言葉を聞くと梅干しや紅しょうがの色付け・ジュースなどに使われる機会の多い“赤しそ”をイメージする方が多いのではないでしょうか。
ちなみに狭義のシソとして挙げられているチリメンシソも赤しそも、葉は裏表ともに赤紫色をしていますよ。
大葉(おおば)とは
紫蘇(しそ)という言葉はシソ科シソ属の植物全般、稀にチリメンジソや食材として利用される“赤しそ”のみを指すと上でご紹介しました。対して「大葉」と言った場合はピンポイントで“青紫蘇(アオジソ)”を指すのが一般的です。シソと言われた場合は赤いシソ・青いシソ両方をイメージする方がいらっしゃると思いますが、大葉と言われて赤いシソをイメージする人は居ないハズ。
つまりしそ=大葉というのは正確ではなく、青じそ=大葉となります。青じそですが学名はPerilla frutescens var. crispa f. viridisとされており、ルールに則って訳すと「エゴマ(Perilla frutescens)の変種であるシソ(var. crispa)のうち、アオジソという品種(f. viridis)」という事になります。このため大葉としそは同じであるとも言えますが、同じと言うよりは「しそというジャンルの中に大葉も含まれている」と考えたほうが妥当でしょう。
感覚的な説明にはなりますが、バレンシアオレンジとオレンジは違うか、的な感じですね。オレンジではあるけれど、他にネーブルオレンジとか色々あるからイコールではないよという所。
何故青じそを大葉と呼ぶ?
青紫蘇という呼び名は単純明快、葉が青い色をしているシソだからということが分かります。対して「大葉」という呼び名は“葉”ってアバウトな…と思ったことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。筆者はずーっと思っていました。もっと大きい葉色々あるじゃないの、と。
青じそを大葉と呼ぶようになったのは、昭和30年代半ばと比較的最近の事だとか。しそ自体は今から2500年位前と推測される縄文時代の遺跡からも出土しているように古くから食されてきましたし、奈良時代頃には栽培も行なわれていたと言われています。しかし栽培しやすく、一度植えると勝手に種を落として次の年にも生えてくる性質から、一般家庭では買って食べるものではなく“庭に植えて採ってくる”ものだったのだとか。
しかし1950年台後半から1960年代に入る頃になると、住環境などの変化により野菜・香味野菜として出荷されるようになります。青じそは若葉・花穂のつぼみの開き初めに摘んだもの(穂じそ/しその実)、タイミング・部位がことなる2つが食用として利用されています。この2つを出荷する際“葉”と“穂”の区別がわかりやすくなるように、静岡のつま物生産組合さんが若葉を束ねたものを「大葉(おおば)」として大阪市場に出荷したと言われています。大葉というのは消費者が分かりやすいようにと考えられた、商品名だったんですね。
こうして出荷された大葉は売れ行きも良く、東京市場にも進出し流通量を伸ばしていきます。その過程で商品名であった大葉も広く知られ浸透する事となり、今では植物名のような扱いになっているのだとか。現在卸売市場では青じそはを“大葉(おおば)”で、それ以外のシソ(主に赤しそ)を“しそ”と呼ぶように統一されており、この区分で統計も出されているそうですよ。青しそは大葉以外にも、ベビーリーフであれば「ペリーラ」として販売されていることもあります。
用途によって使い分けられることも
しそと大葉の呼び分けは上記の通りですが、青紫蘇であっても大葉でなく“しそ”という名称が使われることもあります。それは加工品・製品になっている場合。例えば梅しそ・紫蘇ジュース・しそドレッシングなどが当てはまります。これらは赤しその方が着色料を兼ねて使われる機会が多いというのも勿論ですが、青しそが使われているドレッシングも大葉ドレッシングではなく「青じそドレッシング」と言いますよね。
このため大葉という呼び名は“青しそをそのまま生かして香味野菜として使う”場合に適用される呼び方である、という見解も多いようです。大葉は元々“青じその若葉を束ねたもの”の商品名ですから、加工品の名称としては使いにくかったのではないかなと邪推したりもします…。
また葉をそのまま香味野菜として利用する場合でも、地域によっては大葉ではなく青じそという所もあります。このあたりの呼び分けは地域・家庭環境などによるところも大きいのかもしれません。関東以北ではしそ・関西では大葉と呼ぶ人が多いという見解もあります。人によって言い方が違うので全国の情報が一気に集約されている料理レシピなどでは“しそ”“青じそ”“大葉”の表記が乱立しているので戸惑うことがあるかもしれませんね。
とりあえずシソは総称、大葉=青じそと覚えておけば間違いないと思います。
こんな違いもあります
赤しそも大葉(青じそ)も本来の旬は初夏から夏にかけての時期で、6月頃から露地物の出荷が多くなります。しかし大葉は香味野菜としての需要が高く、通年使われる食材のため温室栽培されており通年流通しています。時期による価格変動もあまり大きくないので取り入れやすいですね。
対して赤しそは梅干しなどを浸ける際に利用されるのが主で、今晩のレシピに使おうと買われることはあまりありません。このため露地栽培の旬であり、かつ梅干しを漬けるシーズンである6月~7月の出荷がほとんど。時期を逃すとスーパーなどでは見かけなくなってしまいます。お漬物や手作りゆかりを作りたい・紫蘇ジュースやシソ酢を作りたい、など赤紫蘇を手に入れたい方は7月半ば位までに購入しておくと確実。
紫蘇と大葉の栄養価・含有成分の違いについて
紫蘇(赤しそ)と大葉(青じそ)は色や用途が異なるだけではなく、含有している栄養成分についても違いがあると考えられています。成分量として信頼できるデータベースの『日本食品成分表』の記載には赤じそ・青じその区分がないため、厳密な部分については不明瞭でメディアなどによって誇張されている部分もあるかもしれませんが…そのあたりはご了承下さいm(_ _)m
シソには
- β-カロテン
- ビタミンE
- ビタミンK
- ビタミンB群
- ビタミンC
- カリウム
- カルシウム
- マグネシウム
などビタミン・ミネラルが多く含まれています。
薬味・香味野菜としての用途を考えるとキャベツや白菜のようにまとまった量を食べることは少ないでしょうが、仮に100g食べるとするとビタミンAやEなどは紫蘇だけで一食分の必要量をカバーできるほど。なので香味野菜として取り入れることでも、様々な栄養素の補給源として栄養の偏りや不足を軽減してくれると考えられます。またシソの香り(ペリルアルデヒド)にも殺菌作用による食中毒予防や風邪予防、気持ちを落ち着けるリラックス効果などが期待されていますよ。
加えてシソには
- ロズマリン酸
- ルテオリン
- シソニン(アントシアニン系色素)
などのポリフェノール類が含まれていることから、高い抗酸化作用も期待されています。
ロズマリン酸とルテオリンには免疫系の過剰作用・アレルギー症状の発生を抑制する働きが期待されていることから、花粉症などのアレルギー症状軽減にも効果が期待されています。そのほかロズマリン酸には糖吸収を抑制する作用がある可能性も報告されていることから肥満予防に、他ポリフェノール類の抗酸化作用と合わせて糖尿病・糖尿病合併症の予防にも注目されているそうですよ。
こうした栄養素・ポリフェノールなどのうち、赤しそはアレルギー抑制・抗酸化作用など繋がる可能性が高いポリフェノールが多いと考えられています。花粉症対策やアンチエイジングなどに取り入れられているのは赤しそ系が多いですね。対して青紫蘇はβ-カロテンなど栄養含有量が多いと言われていますから、香味野菜として食べる用途には適していると考えられます。
上手く出来てますね^^
しその実も栄養豊富
青しその販売部位をわかりやすくするために「大葉」という商品名が考えられたと言われているように、シソは葉だけではなく“芽(芽紫蘇 )”や”穂(穂紫蘇)”も食用とされています。芽紫蘇はしそが生え始めて本葉が1~2枚生えた頃・穂紫蘇は薹立ちしてすぐに収穫されたもので、天ぷらや刺し身のツマなどに使われています。この2つは赤しそ・青しそ両方が使われています。また、ご飯のお供になる“しその実”も十分に成長した穂紫蘇から実をバラして料理したものです。
しその実は100gあたり11000μgとβ-カロテンを非常に多く含んでいます。全食品類の中でもトップクラスと言えるβ-カロテン量ですし、しその葉と比較した場合も4倍以上となります。そのほかのビタミン量は大差なくミネラルはしその葉よりも若干劣りますが、少量の使用であっても薬味や嗜好品としてだけではなくカロテン補給源として役立ってくれそうです。
β-カロテンは抗酸化作用を持つ成分なのでアンチエイジングに繋がりますし、は体内でビタミンAに変換されることで皮膚や粘膜を守るために働くので風邪予防や乾燥肌・ドライアイ予防にも効果が期待できます。芽・若穂の栄養成分量については記載がないので不明瞭ですが、しその葉や実の栄養価を考えるとこちらもカロテンなどの栄養補給に役立つと考えられます。冬場の栄養補給に良いかも。
紫蘇と大葉の違いまとめ
「紫蘇と大葉は同じものです」と言えばそれまでですが、同じシソであっても“赤しそ”と“大葉(青じそ)”は結構ニュアンスの違う食材だと言えると思います。通常赤しそは生のまま料理に使われることがないですし、青しそは漬物の色付けなどに使われることはないので使い分けで困ることも無さそうです。料理のレシピなどを聞いた際に単に「シソ」と言われて戸惑った場合は、その使い方・用途から考えて赤しそか、青しそかを考えれば大体どちらか想像出来ると思います。大葉と言われたら青しそ一択ですね。
しそ小話
紫蘇という呼び名について。
紫は狭義でのシソが“赤色の葉”のしそを指すので納得できます。着色料代わりに使うとキレイな赤色になりますが、葉の色そのものとしては暗めの紫ですよね。しかし蘇るとは何事なのだろう…と思って調べた所、紫蘇という表記は中国から伝わったもの。中国の伝説には食中毒で死にかけた若者に華佗(伝説的な名医と言われる、曹操の典医)が、薬草を煎じた紫色の汁を飲ませることで治療した⇒蘇らせたという話があるのだとか。この紫色の薬湯の元になった草がシソではないかということで「紫蘇」と呼ばれるようになったと言われています。
この伝説からも想像がつく通り、漢方ではしそを乾燥させたものを蘇葉(ソヨウ)もしくは紫蘇葉(シソヨウ)と呼び、生薬としても利用されています。日本漢方ではチシメンジソを「蘇葉」としていますが、本葉ではアカジソを使うのだそう。青しそが生薬として使われることはありません。上記の栄養価の項目で「赤しそは薬効成分が多いと言われている」と紹介しましたが、これも含有成分というよりも伝統的・経験的な使用に基づいた見解かもしれません。