食べ物辞典:いちじく
ドライフルーツとしてもお馴染みのイチジク。古代には“不老不死の果物”とも称され生薬としても使用されてきた歴史のある果物で、人が栽培した最も古い果樹という説もあります。現在の研究でもボリフェノールやカロテノイドなど抗酸化物質を多く含み優れた抗酸化作用を持つ事が報告されており、アンチエイジングフルーツの一つとして注目されています。青果・ジャムやドライフルーツとして使う以外に、前菜やピザ・トーストに乗せるなどお食事メニューでも活用できますよ。そんなイチジクの歴史や栄養価・期待される健康メリットについて詳しくご紹介します。
和名:いちじく(無花果)
英語:fig/common fig
学名:Ficus carica
いちじく(無花果)のプロフイール
イチジクとは
独特の甘酸っぱい風味と、ツブツブの食感が特徴的なイチジク。ドライフルーツもしくはフィリングなどの加工品の方が馴染みがある方が多いのではないでしょうか。ドライいちじくのシャリッとした食感と柔らかい甘みから、ハード系のパンでは“いちじく&くるみ”を混ぜ込んだものも定番ですね。スーパーなどで生のイチジクを見かける機会は少ないですが、インターネットなどで新鮮な国産イチジクを販売している店舗・農家さんも増えています。皮を剥いてそのまま食べるか、コンポートやジャムに加工するのがポピュラー…ではありますが、海外では皮付きのままナスのような感じで切って、サラダに入れたり、上にチーズやベーコンを乗せて食べる方も多いようです。チーズとの相性が良く、前菜・おつまみレシピにも会う果物です。
また、イチジクというと薬膳料理系のイメージががある方もいらっしゃるのではないでしょうか。これは昔イチジクが“不老不死の果物”と信じられ、乾燥したイチジクの実は“無花果(むかか)”、葉は“無花果葉(むかかよう/唐柿葉とも)”と呼ばれ生薬としても利用されてきた流れ。乾燥イチジクの“無花果”は便秘改善や肺を潤わせ喉の痛みや咳を抑える働きがあると考えられていたことから、薬膳料理にも使われているというわけです。近年は食材としてもイチジクの栄養価やポリフェノールなどが注目され、健康維持や女性のサポーターとして役立つ可能性が報じられたことでも再び人気を集めています。長く人間が食べ続けてきた食材、日本でも数百年単位で親しまれてきた果物という安心感もありますしね。ちなみにイチジクの葉は健康茶や入浴剤などに使われています。
イチジクはユーラシア大陸や北米で栽培されている果樹で、学名はFicus carica。植物分類ではクワ科イチジク属に分類されており、同じイチジク属には愛玉子(オーギョーチ)の材料となるカンテンイタビなどがあります。イチジク属に含まれる種は800種以上、イチジクの品種としても世界規模で見ると100種類以上あると言われています。日本で栽培されているイチジクは明治末に導入された“桝井ドーフィン”系統が主流で、江戸時代から栽培されていたことから在来種とも呼ばれる“蓬莱柿”や、21世紀になってから福岡県で誕生した“とよみつひめ”などもあります。国産イチジクの大半は果皮の色が茶と紫と混ぜたような色をしていますが、品種によっては白・黄色・緑色・ほぼ黒に見える暗紫色の果皮のものもありますよ。
ところで、イチジクは漢字で“無花果”と書き、この由来は花を咲かせずに実をつけるように見えたためと言われています。しかしイチジクに花がないというわけではなく、実の中に入っている種のように見えるツブツブが花なのです。なので果実(果肉)と呼んでいる部分は厳密には食用とする部分は果肉ではなく小果と花托になるそう。実の中で花がつく、実を食べているようで花も食べているという不思議な果物ですね。イチジクだけではなくイチジク属の植物には同じような生態のものがあります。ちなみにイチジクの中には受粉に関わったイチジクコバチが入っているという話もありますが、日本にはイチジクコバチがいないので、国内生産されているものは受粉を必要としない単為結果性品種。虫が出てくる心配はありません。
いちじくの栄養成分・効果について
栄養成分含有量の参考元:日本食品標準成分表2015年版(七訂)
イチジクは生状態であれば全体重量の約84%が水分で、三大栄養素では14%強を占める糖質が主成分となっています。ペクチンなどの食物繊維のほか、多くはありませんがビタミンB1・B2・B6・ビタミンCなどのビタミン類をバランスよく含んでいます。100gのカロリーは54kcalと野菜・果物の中では比較的高め。しかし、消化を助ける消化酵素類や糖の吸収を抑え血糖値変動を緩やかにするペクチンなども含まれていますから、大量に食べなければ特に問題はありません。ヘルシーな間食としても役立ってくれるでしょう。
イチジクの効果効能、その根拠・理由とは?
消化サポート・胃もたれ予防に
イチジクにはタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)の一種である“フィシン(Ficin)”が含まれています。フィシンはタンパク質を分解する働きがあるためお肉の下処理などに使用すると、肉を均一で柔らかい状態に整えてくれます。ヨーロッパでイチジクがデザートや菓子類だけではなく、前菜や肉料理などに使われることがあるのもパイナップルなどと同じく肉のタンパク質を分解して柔らかくしてくれるためなのだとか。人体内でのフィチンの作用については分かっていませんが、タンパク質の消化を高め胃の負担を軽減する働きも期待されています。プリニウスが“病に苦しんでいる人が摂取できる最高の食べ物”と称したのもこうした働きからなのかもしれませんね。
便秘・むくみ対策に
イチジクは100g中の食物繊維量が1.9gと全体で見ると果物類の中では「中の上」程度の位置ですが、そのうちの0.7gがペクチンなどの水溶性食物繊維となっています。水溶性食物繊維の含有量で見た場合は同グラムのリンゴやオレンジの2倍以上でドライフルーツを抜きにすると果物トップクラス。水溶性食物繊維は便の水分状態を整え排便させやすい状態にしてくれるため、便秘の解消だけではなく下痢止めにも利用させる成分です。加えて水溶性食物繊維は腸の善玉菌を活性化して腸内環境を整える働きも持っていますから、腸内フローラのバランスを整える働きも期待できるでしょう。
またミネラル類の中では100gあたりの生のイチジクで170mg・乾燥イチジクであれば840mgとカリウムが比較的多く含まれています。カリウムはナトリウムとバランスを取り合うことで、体内の余分な水分を排出する働きがあるのでむくみ対策にも繋がると考えられます。カリウムの運搬を助けるマグネシウムも生イチジクで14mg・乾燥状態であれば67mgとバランスよく含まれていますよ。青果であれば一日の推奨量から考えると決して多いわけではありませんし、ドライフルーツを100g食べるというのも現実的ではありませんが、不足しがちな分を補うことでむくみ予防にも役立つと考えられています。
ミネラル補給の手助けにも
イチジクは生100gあたり26mg、乾燥いちじくの場合は100gあたり190mgと果物の中ではカルシウムを多く含んでいます。同グラムで比べると生状態であってもイチジクのカルシウム含有量は干し柿に匹敵するレベル。このためイチジクは手軽なカルシウム補給源として、骨粗鬆症の予防にも一役買ってくれるでしょう。カルシウム以外に鉄分も生100gあたり0.3g、乾燥いちじくであれば1.7gとプルーンよりも多く含まれています。鉄欠乏性貧血予防のサポートにも役立ってくれる可能性があります。カリウムも豊富ですから、間食に干しいちじくなどを食べると肥満予防だけではなくミネラル補給にも繋がります。
抗酸化・生活習慣病予防に
イチジクはクロロゲン酸やクマリン、アントシアニン・エピカテキンなどのフラボノイド系ポリフェノール、ルテインなどのカロテノイドを豊富に含む果物としても注目されています。2005年『Journal of the American College of Nutrition』に掲載されたスクラントン大学の研究はドライフィグ(乾燥イチジク)は優れたフェノール系抗酸化物質を持っていること、実験では摂取後4時間で血漿抗酸化能の有意な増加をもたらしたことが報告されています。このためイチジクは加齢やストレス等によって過剰に増加する活性酸素を抑制し、細胞をフリーラジカルから保護する働きが期待されています。抗酸化は細胞の劣化・老化予防に繋がると考えられていることから、アンチエイジングフルーツの一つとしても評価されている果物の1つとなっています。古代に不老長寿の果物と言われていたのも迷信と言い切れませんね。
加えて抗酸化物質の補給は生活習慣病、特に血流系トラブルの予防にも役立つと考えられています。悪玉(LDL)コレステロールが酸化して出来た“酸化LDL”が蓄積し、血管を狭めたり柔軟性を損なわせることで起こる動脈硬化が代表的ですね。また、イチジクに含まれているポリフェノール類は抗酸化作用以外に、アントシアニンには悪玉コレステロールの低減作用や血管保護作用を持つ可能性が、クマリンには抗血液凝固作用を持つ可能性が示唆されています。ペクチンなどの水溶性食物繊維類にも悪玉コレステロールの低減作用や血糖値上昇抑制効果が期待されていますから、合わせて生活習慣病予防に役立つと考えられます。カリウムが豊富なので塩辛い食事が好き・血圧が気になる方のデザートにも適しています。
疲れ目対策・視力低下予防にも
イチジクに含まれているポリフェノールの一種アントシアニンは、目の網膜に存在するロドプシンの再合成を促す働きが報告されています。私達の目はロドプシンが分解される際に生じる電気信号が脳に伝わることで、目に写ったものを認識することが出来ます。ロドプシンは分解された後に再合成され、再び分解を繰り返していますが、加齢や目の酷使によってこの再合成能力が低下すると目の疲れやかすみなどの原因となるため、アントシアニンの摂取は目の疲れの軽減・視力低下予防に役立つと考えられています。また、カロテノイド系色素のルテインも目の健康維持に関わる成分です。ルテインは人の黄斑部や網膜に存在しており、紫外線やブルーライトなどの有害な光を吸収する・抗酸化作用によって活性酸素の発生を抑えることで目の疲労や老化・眼病予防効果が期待されています。
イチジクのアントシアニン・ルテイン量はさほど多くはありませんし、疲れ目や視力低下の原因はアントシアニン不足・ロドプシン再合成低下によるものだけではありません。このため医薬品やサプリメントなどのように有効性が示されているわけではなく、軽減に繋がる可能性があるという程度に考えましょう。ただしアントシアニンやルテインは抗酸化作用によって白内障・緑内障の予防にも役立つと考えられていますから、抗酸化の方面からも目の健康を維持するサポートしてくれる可能性はあるでしょう。
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血糖値対策・ダイエットサポートに
イチジクは食物繊維を豊富に含んでいることから、肥満予防にも役立つのではないかと期待されています。欧米では“地中海式ダイエット”などで朝食のシリアルに刻んだイチジクを加えたり、砂糖の代わりにイチジクを使う方もいらっしゃるようです。食物繊維の補給は満腹感を高めて空腹感や食欲を抑えることに繋がりますから、お菓子を食べるよりは適しているという感じですね。イチジクには抗酸化物質が豊富に含まれいるので代謝低下の予防に役立つ可能性もあるでしょう。ドライフィグの場合は水分がなくなって、糖質量が多くなっているので食べすぎには注意が必要ですが。
また、イチジクの含有成分には抗肥満作用を持つ可能性が示唆されているものがあります。例えばアントシアニンは実験の中で内臓脂肪量の減少や、血清中アディポネクチン濃度が見られたことが報告されている成分。アディポネクチンは脂肪細胞から分泌される生理活性物質(アディポサイトカイン)の一種であり、血管修復やインスリン感受性を高める働きを持つことから“善玉ホルモン”と称されている存在です。アントシアニンはこのアディポネクチンの分泌を亢進する働きを持つ可能性があるため、血糖値の上昇抑制や肥満予防としての有効性が研究されています。そのほかクロロゲン酸も血糖値上昇抑制・脂肪燃焼促進効果を持つという見解がありますから、食物繊維補給源プラスαのダイエットサポートにも期待できます。
肌荒れ予防・美肌保持
イチジクはアントシアニン・エピカテキン・クロロゲン酸・没食子酸・ルテインなどの抗酸化物質を豊富に含む果物。フリーラジカルによる損傷を防ぐことで、肌細胞の酸化によって促進されるシワやくすみ・小じわなどの予防に役立つ可能性もあります。外見的な若さを維持するためのアンチエイジングフルーツとして女性に人気なのも納得ですね。そのほかイチジクには含有量こそ多くはないものの皮膚を健康に保つビタミンB群も含まれていますし、便秘による肌荒れの改善・腸内フローラの改善から善玉菌によるビタミン合成促進などにも繋がります。老化だけではなく肌トラブル全般のサポートに効果が期待できるでしょう。
ドライフィグ(干しイチジク)について
干して乾燥させたドライフィグ(乾燥イチジク)は水分が減った分、鉄分やカリウムなどのミネラル類、ビタミンB群、ポリフェノール類の含有量が増えます。生と乾燥とで特に差が顕著なものは食物繊維量で、生100gあたりでは1.9gですが、乾燥イチジクであれば10.7gと非常に多くなります。便秘が気になる方・食物繊維を補給したい方には乾燥したものの方が効率的であるとも言われています。また同グラムで比較した場合はカリウム量も5倍近くに増えますし、一般的にビタミンEとして記載されるα-トコフェロールこそ大差ありませんがγ-トコフェロール量も75倍とかなり多くなります。抗酸化力はα-トコフェロールに劣ると言われていますがγ-トコフェロールは水分バランスを調整することでむくみ軽減効果が注目されているビタミンですから、むくみが気になる方もカリウム量以上の効果が期待できるかもしれません。
乾燥イチジクを1日3個食べることで1日に必要な鉄分やカルシウムが摂取できるという声もありますが、計算してみると1日の推奨摂取量には足りません。1日の不足分を補える程度と考えておくと良いでしょう。ドライフィグ(乾燥イチジク)のデメリットとしては、水分が減ったことで糖質量とカロリーも高くなっていることが挙げられます。全体重量のうち約75%が炭水化物、100gあたりのカロリーは291ckalとされていますから、食べ過ぎると肥満や糖尿病のリクスを高めてしまう危険性もあるでしょう。一日3個、多くても5個以内程度の量にしておくと無難でしょう。
目的別、イチジクのおすすめ食べ合わせ
いちじくの選び方・食べ方・注意点
イチジクは表面を水で洗い、皮を剥いて食べるのがポピュラー。包丁で皮を剥くだけではなく、熟したものであればヘタの部分からバナナのように指で向くことも出来ます。とは言え、SNSや海外のレシピサイトなどを見ると皮ごと輪切りしにしてピザやトーストなどに載せている写真も出てきます。実はイチジクの皮は食用できるので、剥かなくても食べることが出来ます。個人的には美味しいとは言えませんが。
ただし、生のイチジクを大量に摂取する・皮ごと摂取すると、舌の痛みや痒みを覚える方、人によっては火傷をした状態になってしまうこともあります。これはタンパク質分解酵素フィチンの働きによるもの。フィチンは大部分が果皮に含まれているため、唇と舌に違和感を感じた場合は中身だけをくり抜いて食べた方が良いでしょう。また、果実に付いている茎(頭の先っぽのような部分)は必ず取り除いて下さい。
美味しいイチジクの選び方・保存方法
青果のいちじくを買う際は全体的にふっくらと丸みが強く、果皮がきれいなもの・良い香りがするものを選ぶようにしましょう。ヘタの切り口に白っぽい液が付いているものは鮮度が高く、干からびたようになっているものは鮮度が低い可能性が高いので避けましょう。ポピュラーな赤褐色~紫色のイチジクであればしっかりとヘタまで色がついているもの・お尻が割れかかっているものが完熟した証。未熟ないちじくの実を食べる胃を痛めたり食欲を失うことがありますので、しっかりと熟したものを食べましょう。ただしお尻の部分がくっきり割れ過ぎているものは熟れすぎなので避けてください。
イチジクは傷みやすいので買ったものは乾燥しないように袋に入れて冷蔵庫で保存し、数日中に食べきりましょう。食感には若干の変化があるので一晩置いたほうが食べやすい、エチレンの発生量が多いリンゴなどと一緒に置くと追熟するという説もありますが、基本的に追熟しない果物とされていますので長々置いておくのは避けたほうが確実です。長期間保存したい場合はジャムやコンポートに加工するか、冷凍しておきます。
イチジクの注意点
イチジクを食べすぎると食物繊維や酵素などの働きによって下痢をする可能性があります。胃腸が弱い方の場合は消化管にダメージを受けてしまう可能性もありますから、弱っている時は摂取を避け、疾患のある方の場合は医師に相談の上で食べることをお勧めします。イチジクにはシュウ酸塩が含まれており、乾燥イチジクはシュウ酸塩を多く含む食べ物としてリストアップされていますから、尿道結石の経験がある方なども食べすぎには注意したほうが良いかも知れません。
【参考元】