食べ物辞典:ウド
ウドは春を代表する山菜の一つで、青々しさく爽やかな芳香が特徴。独特な香りとから好き嫌いは別れますが、多く流通している「白ウド(軟白ウド)」は良くも悪くもまろやかな風味で食べやすくなっています。特に天ぷらは食べやすいですし、ぬた・酢味噌和えはお酒のお供にも嬉しい一品ですね。栄養面では何らかのビタミン・ミネラルを豊富に含む食材ではありませんが、香り成分の働きからストレス緩和や血行促進効果が期待されています。そんなウドの歴史や栄養効果について詳しくご紹介します。
和名:独活(うど)
英語:udo/Japanese Spikenard
独活(うど)のプロフイール
ウドとは
山菜を代表する一つでもあるウド。北海道から九州まで広い範囲に分布していますが、栽培も行われています。時期になるとスーパーなどでも見かけることが多くなりますので、山菜採りをしない方でも口にする機会の多い食材ではないでしょうか。茎部分は茎は酢味噌和えや味噌漬けに、葉は天ぷらやお味噌汁の具に、皮や茎の根本部分などはキンピラにと、様々な料理法で余すところなく食べられる食材ですよ。
食材として見かけるものは全体が白っぽい「白ウド」と、緑色の部分が多い「山ウド」の2つに大きくわけられています。この2つは種類が違うというわけではなく、白ウドの方は地下で盛り土などをすることで軟白栽培されたものです。このため「軟白ウド」とも呼ばれており、緑色のウドよりも皮が柔らかくアクが少ないことが特徴。食べやすいことと栽培がしやすいことから、流通量も多くなっています。
対して山ウドは本来は野生(自生している)のウドを指す言葉として用いられていましたが、現在では栽培ものであっても軟白栽培ではない栽培ウドを含む事が多くなっています。このため野生種の山ウド、栽培種の緑化ウド・軟白ウドの3種類があると考えた方が良いでしょう。山菜らしいクッキリとした風味が特徴とされていますが、軟白ウドの場合はそこまで相手を選びません。天然物は収穫時期も収穫量も少ないため、スーパーなどで「山ウド」として流通しているもの露地栽培されたものがほとんどと言われています。緑化栽培されたウドは軟白ウドよりも風味が強いですが、野生種はさらに香り・苦味が強くなっています。野性味のある濃厚な風味ですが、その分好き嫌いは分かれるでしょう。
植物としてはウコギ科タラノキ属に分類される多年草で、ウドの学名はAralia cordata。同じく山菜として“たらの芽”が食べられているタラノキと同属にあたります。ただし近縁種であるタラノキが落葉低木とされているのに対し、ウドは草本(多年草)の一種。身体は大きいけれど役に立たない人を指すことわざで“独活の大木”というものがありますが、この諺の由来は「ウドの茎は木のように長くなるが、柔らかくて材としては使えない」ことと言われています。ウドに関して言えば大木ではなく“大木もどき”なんですね。大きくなったウドは木材として使えないだけではなく、食材としても利用できなくなります。
野生種は暖かい地域では3月末頃・本州中部では4~5月・東北以北は5~6月と時期が限られています。ウドの旬とされる4~5月頃というのは、食材としてウドの若芽が丁度よい大きさになる時期を指しています。栽培ものの場合は晩秋から冬にかけて出荷される寒うど・春に出荷される春うどの2つがあるので、11月~5月頃までと一年の半分くらいの期間は入手できますよ。
ウドの歴史
ウドは朝鮮半島から中国・サハリンなどの東北アジアが原産。日本列島も原産地に含まれるためワサビやミョウガなどと合わせて日本原産の野菜として紹介されることもあります。英語でも日本語の音そのままの“udo(oudo)”もしくは”Japanese spikenard”と呼ばれています。日本人は非常に古い時代からウドを採取して食用としていたと考えられています。奈良時代の遺跡から出土した木簡には独活という記載がいくつも見つかっているそうですし、平安時代に記された『和名類聚抄』にもウドの古名である“つちたら”という記載が見られるそうです。
ただし中国の薬学書『神農本草経』では独活の別名は羌活とされており、セリ科のシシウドの根のこととされています。現在でも生薬として“独活(どっかつ)”という名前が使われた場合は、シシウドを指すのが一般的。しかし『本草和名』など日本の古い薬学書では独活=ウドとされているため、奈良~平安期に見られる記述が現在のウドと同じものかは定かでないという見解が多いようです。ウドという名前の由来については諸説ありますが、有名なところでは土の中に“うずくまっている”若い芽を食用に用いることから「埋(ウゾ)」が転じた説・茎が生育すると中空となることから「うつろ(空ろ/虚ろ)」が転じた説など有力視されています。
ちなみに現在私達がウドとして認識している植物も、根茎は和独活(ワドッカツ)もしくは九眼独活(キュウガンドッカツ)、側根や若根は和羌活(ワキョウカツ)と呼ばれ、生薬として利用されています。腰痛・関節痛・神経痛・筋肉痛などの緩和が主ですが、体を温め発汗を促す働きから風邪に、利尿効果から頭痛やむくみ・めまいなどに使われることもあります。民間療法でも解熱や強壮剤として使われていますから、山間部に住む人達は食材兼薬代わりとして利用していたと考えられますね。
ウドが栽培され始めた時期ははっきりと分かっていません。10世紀ころには既に栽培が行われていたのではという説もあるそうですが、文献等の記録から確実に栽培が行われていたと言えるのは江戸時代以降とされています。『料理物語』などの料理本にもウドのレシピが見られることから、広く知られた食材であったと考えられています。江戸末期には江戸でも栽培が行われるようになり、土をかけ軟白栽培した「もやしうど」は江戸っ子にも人気だったのだとか。明治に入るとウド栽培は全国へと広がりますが、世界大戦中の食糧難などでウド栽培は一時期途絶えてしまいます。しかし戦時中に武蔵野市の高橋米太郎氏が人目を避けてウドの軟化栽培を試み、穴蔵を用いたことで新たな栽培法を確立したとも言われています。
戦後になると高橋氏は穴蔵での軟白栽培法を研究し、昭和35年には「軟白野菜促成穴蔵」の認可を取得します。この栽培法で作られたウドは日本料理向けの高級食材として注目されるようになり、高度経済成長期には「ウドで蔵が建つ」と言われたほど高値で取引されたそう。昭和後期には都市化による栽培面積減少や生産力低下などから東京でのウド生産量は減少しましたが、近年は“東京うど”が江戸東京野菜の一つとして登録され、伝統野菜として再注目されています。東京以外にも「なにわの伝統野菜」に認定されている大阪の“三島独活”や、栃木県の“那須の春香うど”などがブランド化されていますよ。
独活(うど)の栄養成分・効果について
栄養成分含有量の参考元:日本食品標準成分表2015年版(七訂)
ウドは全体重量のうち約94%が水分で、100gあたり18~19kcalと低カロリー。その反面ビタミン・ミネラルを幅広く含むものの各々の含有量は少なめで、栄養価はさほど高くありません。健康維持に役立つと考えられる栄養素も広く含んでいますが、ウド単体で必要分を補えるとは考えないほうが良いでしょう。
下記では一般家庭で用いられる機会が多い“軟白ウド(茎/生)”の栄養価を元に作成しています。ただし緑化栽培されている山ウドの場合であっても若干軟白ウドよりも多い程度で、ほとんど栄養価に違いはありません。
ウドの効果効能、その根拠・理由とは?
疲労・疲労感の軽減サポート
ウドは特に何らかの栄養成分が多いという食材ではありませんが、アミノ酸の一つであるアスパラギン酸を含むことから疲労回復に役立つと考えられています。アスパラギン酸はエネルギー源として最も利用されやすいアミノ酸の一つとされる存在で、糖代謝を行うクエン酸回路(TCAサイクル)に関わりエネルギー代謝を促す働き・ミネラルを全身へスムーズに供給する働きなども担っています。このためアスパラギン酸の摂取は疲労回復に繋がると考えられています。
またアスパラギン酸はアンモニアの無害化・排出をサポートする働きもあると考えられています。疲労により肝臓機能が低下するとアンモニアの蓄積・血液とともに全身へと循環し、神経伝達物質の働きを阻害する・代謝低下による疲労物質蓄積・免疫力低下など様々な悪影響を及ぼす可能性が指摘されていますから、アンモニア排出を助けることからも疲労もしくは疲労感の軽減に繋がる可能性があるでしょう。
ウドは水分が多くタンパク質量の少ない食材ですから、全食品類の中で見ればアスパラギン酸の含有量はそこまで高くありません。しかしビタミンB群を含んでいること・血液循環を促すことで疲労回復を促す働きが期待される香り成分「ジテルペンアルデヒド」が含まれていることと合わせて、疲労回復をサポートしてくれる食材の一つに数えられています。
ストレス対策に
好き嫌いが分かれる、ウドの独特の芳香。この香りの中には上記で紹介したジテルペン以外に、リモネン・サビネン・a-ピネン・ミルセンなどモノテルペン炭化水素類に分類される成分も含まれています。こうした成分はアロマテラピーにおいて鎮静作用があるとされている成分であるため、ウドの香りにもストレス軽減やリラックス効果が期待されています。リモネンやジテルペンには自律神経を整える働きがあるとする説もありますよ。
むくみ予防・血流改善に
ウドはあまりミネラルの多い食材ではありませんが、100gあたり220mgとカリウムを比較的多く含んでいます。私達の身体はナトリウム摂取量が多くなると、血中ナトリウム濃度を保つため血液に水分を取り込もうとします。この結果として体内の水分バランスが多くなり、むくみの原因になります。カリウムは体内でナトリウムとバランスを取り合う性質があり、ナトリウム排出を促すことで体内の水分量を調節する・利尿効果を持つとされる成分。ウドにはカリウム以外に尿の合成を促進・利尿効果を持つとされるアスパラギン酸も含まれているため、合わせてむくみ予防に役立つと考えられています。
加えてウドの香り成分であるジテルペンアルデヒドや、リモネン・a-ピネンなどのモノテルペン類には血行を促す働きが期待されています。むくみは血行不良から引き起こされるケースもありますし、血流が良くなることで冷え性の軽減にも繋がるでしょう。日本の民間療法の中で関節リウマチや神経痛の軽減にウドが用いられてきたのも、カリウムによって水分代謝が整うこと・ジテルペンアルデヒド他精油成分による血流改善が痛みの軽減に繋がったためではないかと言われています。
抗酸化・美肌サポート
ウドの苦味やエグみにはポリフェノールの一種「クロロゲン酸」が含まれています。クロロゲン酸はコーヒーに多く含まれているポリフェノールとして紹介されることが多い成分で、強い抗酸化作用を持つためアンチエイジング(老化予防)効果が高いと考えられています。このため肌の老化予防効果が期待されていますし、メラニン色素生成を抑制する働き=美白効果があるのではないかとする説もあります。ただしクロロゲン酸はアク成分でもあるので、下ごしらえ(アク抜き)の段階で大半は無くなってしまうと考えられます。
抗酸化作用を持つビタミンとしては生100gあたりビタミンEが0.2mg・ビタミンCが4mgと多くはありません。クロロゲン酸以外にフラボノイドが含まれているとも言われていますから、ある程度の抗酸化物質の補給としては役立つと考えられますが、抗酸化作用が非常に高い食材とは言い難いでしょう。そのほか含有量は多くありませんが皮膚の健康維持に関わるビタミンB6を含むこと・芳香成分による血行促進から肌の新陳代謝促進に繋がる可能性はあります。突出した栄養成分はありませんが、肌を健康に若々しく保つために必要な成分を広く含む食材ではあります。
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便秘対策・肥満予防に
ウドは100gあたり1.4gと、カロリーを考えると食物繊維を多く含む食材。食物繊維の割合としては不溶性食物繊維が多いため蠕動運動を促す働きが期待できますし、香り成分の働きによって血液循環が整うこと・自律神経のバランスが整うことも便通促進に繋がるでしょう。
また血液循環が整うことで代謝向上にも繋がりますし、ウドは多くはないもののアスパラギン酸やビタミンB群など代謝に関わる栄養素を広く含んでいます。クロロゲン酸にも血糖値の上昇を抑える働きが豊屋されており、肥満予防に役立つ可能性が注目されている成分。クロロゲン酸もビタミンB群などもウドから摂取できる量は多くありませんが、100gあたり18~19kcalというカロリーの低さもあり肥満予防やダイエットのサポートとして役立つと考えられています。
貧血予防効果について
上記でご紹介した以外に「ウドは葉酸や鉄分を含むため貧血に良い」という説もありますが、『日本食品標準成分表』に記載されているウド(生)100gあたりの含有量としては葉酸19μg・鉄分0.2mgと微量です。同じ山菜でもタラの芽の場合であれば生100gあたり葉酸160μg・鉄分0.9mgの含有量がありますから、ウドを食べて葉酸や鉄分を補給しようというのは現実的では無いでしょう。
目的別、ウドのおすすめ食べ合わせ
独活(うど)の選び方・食べ方・注意点
ウドは大きくなると美味しくないと言われていますが、白ウドの場合は軟白栽培によって柔らかく育てられています。そのため茎が太めでハリがあり、まっすぐと伸びているものを選ぶと良いと言われています。白い産毛が密に生えているものが良品とされています。基本的には茹でる・水にさらすどちらかでアク抜きを行ってから料理に使います。水にさらす場合は色止めも兼ねて酢水を使うのがオススメ。
山ウドの場合は大きくなりすぎたものは茎が固く筋張ってくるので、茎が短めで緑色が鮮やかなもの・全体的に細かい産毛がみっしり生えているものを選びます。白ウドよりも香りが強いことが山ウドの魅力の一つですから、香りも確かめるようにすると良いでしょう。アク抜きをしなくても食べられるとは言われていますが、アクが苦手な方・お腹が弱い方はアク抜きをした方が確実です。
保存時は乾燥を避けるように湿らせた新聞紙などで包み、冷暗所に置いておきます。白ウドの場合は日光に当ててしまうと固くなるので、特に陽に当たらないよう注意しましょう。生のままではあまり日持ちが良くなく風味が低下していくので、2~3日以内に食べない場合は固めに下茹でして冷凍する・浸けておくなどした方が良いでしょう。
ウドの注意点
ウドは食物アレルギーを起こす可能性がある食材のため、アレルギー体質の方・体力が落ちていると感じている場合は注意が必要です。また胃腸が弱い方の場合はアレルギーとは別に、刺激によってお腹を壊す可能性もあります。