栗(クリ/和栗)とその栄養成分・効果効能
|優れた栄養源? 中国栗(甘栗)との違いとは?

食べ物辞典:栗

秋の味覚の一つである栗。栗ご飯をはじめ栗羊羹などの和菓子にも使われているほか、上品な風味の和栗を使ったモンブランやケーキなどの洋菓子類も人気を集めています。昆布や鰹節と共に武士が愛した縁起物としても知られており、現在でも栗きんとんはお正月料理の縁起物として使われていますね。栄養面としては、古代は主食として食べられていたように炭水化物量が多め。ビタミンB群や熱に強いビタミンC、食物繊維が多く含まれていることが特徴です。そんな栗について、歴史や栄養効果を詳しくご紹介します。

栗のイメージ画像:食べ物辞典トップ用

和名:栗(クリ)
英語:chestnut

栗(和栗)のプロフイール

栗とは

日本の食材として、甘味として欠かせない栗。地域によっては重陽の節句(9月9日)を“栗の節句”として栗餅や栗飯を食べるという方もいらっしゃるのではないでしょうか。日本では栗ご飯や一部の郷土料理以外では菓子類に使われることが多い栗ですが、中華では炒め物や見込み料理などにも使われています。さほど自己主張が強い食材でもありませんで、お醤油味からクリームソースまで様々な味付けの料理に加えることも出来ますよ。

植物としてみると栗はブナ科クリ属に分類される樹木で、ドングリと比較的近い種とされています。また広義でのドングリはブナ科植物の果実の総称を指すことから、栗もドングリの一種という見方をする場合もあります。クリ属の樹木にも幾つか種類があり、日本で「栗」として食べられているものは日本栗・中国栗・ヨーロッパ栗(西洋栗)・アメリカ栗の4つに分けられます。

このうち一般的に栗と呼ばれているものは日本栗で、シバグリ(ヤマグリ)と呼ばれる原種を栽培品種化したものがほとんど。栗ご飯に入っているような甘味が少ないもので、大粒ですが外皮が固く渋皮も剥がれにくいことが特徴とされています。栽培品種である日本栗はさらに早生栗・中生栗・晩生栗と3種類に分けられており、早生栗には森早生と丹沢などを交配して作られた「ぽろたん」中生栗にはブランド栗として知られる「丹波栗(銀寄)」晩生栗には山口県の「岸根栗」などの品種があります。

中国栗は天津甘栗などに使われている小粒のもので、身がが締まってコリッした触感があること・皮が向きやすいことが特徴。甘栗と呼ばれる事もあります。ヨーロッパ栗も中国栗に近く小粒で皮が剥きやすいと言われていますが、マロングラッセなど加工品で見かける程度です。アメリカ栗はクリ胴枯病によって数が激減しているため、日本で口にする機会はほとんどありません。このため栗の種類をは4つではなく、3つとする見解もあります。

ちなみに栗は英語で“チェスナッツ(Chestnut)”と言います。よく日本でも使われている“マロン(marron)”というのはフランス語由来。より厳密にはマロン=ヨーロッパ栗(シャテニエ)などイガの中に1つの大きな種子が入っているものを指し、日本の栗のようなイガの中に2~3個の小さな種子が入っているものはシャテーニュ(châtaigne)と言うのが正式なようです。

栗の歴史

日本の栗に限らず、クリ属の樹木になる果実は世界中で古くから食用とされてきました。日本では縄文人の主食であったと考えられており、1万年くらい前から栗を採取して食べていたのではないかとも言われています。また青森県の三内丸山遺跡の研究によって、縄文中期頃には栗の木を植林して栽培が行われていたことも分かっています。食料としてはもちろんのこと、建物を作る際の建材・日を焚く時の燃料材としても栗の木が使われています。

奈良時代になると『古事記』や『日本書紀』などの文献が残っており、重要な食材として国家が栗の栽培を推奨していたことも読み取れます。平安時代の『延喜式』の「諸国貢進菓子」の項目には栗を乾燥させて皮をむいた“搗栗子(かちぐり)”・蒸して粉にした“平栗子(ひらぐり)”・焼いた栗に甘みをつけた“甘栗(あまぐり)”などの記述がみられるそう。特に丹波地方では平安時代初期から本格的な栗栽培が行われていたこともあり、これらの栗加工品を納めていた国の代表とも言われています。

戦国時代になると搗栗子(かちぐり)が「勝ち栗」に通じるとして、武士たちが縁起物として好むようになります。打鮑昆布・勝栗の3つは出陣の際の“三献の儀式”に欠かせないものとしてもよく知られていますね。栗が武士に重宝されたのは縁起だけではなく保存食としても優秀だったという側面もあり、領土での栽培も推奨されていたそうです。江戸に入っても年貢栗・ご献上栗と呼ばれるものがあったそうですし、丹波と小布施の栗林は天領とされていたのだとか。庶民にも中山道馬籠宿の名物“栗おこわ”が人気だったと言われていますし、江戸で焼き芋が「栗(九里)より(四里)うまい十三里」と言って売り出されていることもありますから、多くの人に愛された食材だったのでしょう。

ちなみに現在おせち料理に使われている、栗を黄色の甘い餡で和えた“栗きんとん(栗金団)”が作られるようになったのは明治時代頃と言われています。それ以前の文献にも「栗金団」という表記はあるそうですが、これは栗を潰してペースト状にしたものを成型した菓子だったと考えられています。現在潰して裏ごしされた栗を茶巾絞りにした菓子は“栗金飩”と漢字が分けられており、西側では栗金飩が、東側では栗金団が好まれる傾向にあるそうです。

栗の栄養成分・効果について

栄養成分含有量の参考元:日本食品標準成分表2015年版(七訂)

栗は主食(穀物)の代わりに食べられてきたとされる通り、木の実類には珍しく脂質が少なく炭水化物量の多い食材です。カロリーは生100gあたり164kcalと高めになっています。ビタミンやミネラルも特出して多いものこそ無いもののバランス良く含まれており、食物繊維量も多くなっています。中国栗(甘栗)については後記の日本栗・中国栗の違いを御覧ください。

栗ご飯イメージ

栗の効果効能、その根拠・理由とは?

エネルギー補給・疲労回復に

栗は木の実類の中ではトップクラスと言えるほど炭水化物含有率の高い食べ物。近年では炭水化物摂取を抑えるダイエットが主流になっていますので炭水化物が多いと聞くと悪いイメージを持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、脳や筋肉が活動するためのエネルギー源として適量は必要な物質です。加えて糖代謝に関わるビタミンB1を筆頭とした代謝に関わるビタミンB群やビタミンC、ミネラルなども含まれていることからエネルギー補給源として優れていると言えるでしょう。

またビタミンB1は糖代謝をサポートすることで、筋肉痛などの原因になると考えられる乳酸の元となる物質(焦性ブドウ糖)の蓄積抑制・乳酸の代謝を高めることに繋がると考えられます。糖代謝は疲労物質の蓄積を予防するだけではなく体を動かすためのエネルギーを生み出すにも必要不可欠ですから、疲労や疲労感・筋肉痛などの軽減にも栗は役立つと考えられてますよ。

ストレス耐性アップに

栗は生100gあたり33mgと比較的ビタミンCを多く含んでおり、かつジャガイモなどと同じようにでんぷん質に守られているため加熱料理によるビタミンCの減少が少ないという特徴があります。ビタミンCは神経伝達物質や副腎皮質ホルモンなどの合成にも関わる栄養素でもあります。特にストレス下で分泌されることが多いアドレナリン・ノルアドレナリン・コルチゾールなどの副腎皮質ホルモン、別名「抗ストレスホルモン」との関係が深いこともあり、ビタミンCはストレス緩和・ストレス耐性を高めるためにも必要な栄養素とされています。栗は同じく副腎皮質ホルモンの分泌に関わるパントテン酸も含んでいるため、ストレス対策として役立つ可能性があります。

加えて栗には糖代謝に関わり脳へのエネルギー供給をサポートすることで脳神経の働きを正常に保つビタミンB1も含まれています。ビタミンB1の不足は脳機能低下による情緒不安定さや集中力・記憶力の低下などの原因となる可能性がありますから、適切に補給することで予防に役立ってくれるでしょう。ビタミンCの働きと合わせてストレス耐性を高めたり、気持ちを保つことにも役立つと考えられます。

便秘対策・肥満予防に

栗は生100gあたり4.2gと食物繊維を多く含んでいます。実際に食べる量には差があるためどちらが優れているとは言い難いですが、同グラムあたりの含有量で比較した場合はサツマイモの約2倍、カボチャをも上回る食物繊維が含まれています。栗に含まれている食物繊維の大半は不溶性食物繊維ですが、栗にはタンニンも含まれていることから腸内環境を整え善玉菌を増やす働きも期待されています。動物実験では栗タンニン投与による悪玉菌生成物質の減少や、けいれん性下痢の予防などに対する有効性も報告されています。

ちなみに栗はダイエットに良いと言われることもありますが、これは食物繊維を豊富に含み腸内環境改善効果が期待できる食材ということが大きいようです。食物繊維は腸の老廃物の排出を促す働きがありますし、また腸内環境改善やビタミンB1を含むことから代謝向上にも繋がるのではないかと期待されています。ただし栗は炭水化物量が多く、カロリーも生100gあたり164kcalと決して少なくありません。食べ方・摂取量によっては逆に肥満の原因となってしまう可能性もありますし、不溶性食物繊維が多い=大量に食べると便秘が悪化したりお腹を壊してしまう危険性もあります。食べ過ぎには注意しましょう。

むくみ・高血圧予防に

むくみが起こる原因として考えられることはいくつもありますが、そのうちの一つに濃い味付けの食事などによりナトリウム摂取過多があります。ナトリウム摂取量が増えると、身体は血中ナトリウム濃度を保つため血液に水分を取り込む=簡単に言うと水で薄めようとする性質があります。高血圧の方が塩分を控えるよう勧められるのも、身体が水分を多く取り込むことで血液量が増え、心臓に負担がかかることで血圧が高くなるためです。

ナトリウムとバランスを取り合っているミネラルであるカリウムは、体内の過剰なナトリウムの排泄を促すことで高血圧予防に有効とされています。またナトリウム排泄と共に水分の排泄も促進することから、むくみ改善に役立つと考えられています。栗にはカリウムが生100gあたり420mgと多く含まれていますし、カリウムの運搬をサポートしたり体液循環をスムーズに保つ働きのあるマグネシウムも比較的多く含まれています。

免疫力向上・風邪予防に

栗に多く含まれているビタミンCは白血球の働きを活発化したり、抗ウイルス作用を持つインターフェロンの分泌促進作を持つと考えられています。また自らが病原菌を攻撃する働きもあることから、免疫力の保持・強化にも役立つビタミンの一つとされています。間接的ではありますがコラーゲン生成促進によるウイルス侵入抑制・腸内フローラ改善による免疫力向上・抗酸化作用による免疫力低下予防なども期待できますから、風邪予防にもしっかりと摂取しておきたい栄養素と言えるでしょう。

貧血予防・妊娠中の栄養補給にも

栗は鉄・亜鉛・銅・ビタミンC・葉酸と造血に関わる栄養成分を含んでいることから、貧血予防に良い食材とも言われています。貧血の方の中で最も多いとされる鉄欠乏性貧血の方に必要な鉄分は100gあたり0.8mgとさほど多いわけではありませんが、造血に関わる栄養素の補給源としては役立ってくれるでしょう。ちなみに中国栗(甘栗)の鉄分含有量は2.0gと日本栗の2倍以上ですから、なるべく鉄分を摂りたいという場合は甘栗の方がおすすめです。

葉酸含有量も100gあたり74μgと少なくはないものの、目立つほど多いというわけではありません。ただ葉酸は神経細胞の代謝・成長の補助・赤血球合成を助ける作用があり、妊娠・授乳中は赤ちゃんの正常な発育に不可欠な栄養素でもあります。このため妊娠中や授乳中は一日の推奨摂取量が多く設定されています。栗だけで必要な葉酸をカバーできるものではありませんが、栗ご飯などを取り入れると無理なく葉酸補給が出来るのではないでしょうか。また妊娠中に起こりやすい便秘予防や、食が進まないときの栄養源としても適した食材と言えます。

美肌・アンチエイジングサポート

栗に含まれているビタミンCは抗酸化作用を持つビタミンでもあります。加えて栗にはポリフェノールの一種であるタンニンも含まれていることから、相乗して増えすぎた活性酸素が体内の脂質・タンパク質・DNAなどに悪影響を及ぼすことで起こる老化や様々な病気を防ぐ働きが期待できます。

またビタミンCは抗酸化作用だけではなくコラーゲン生成の促進・メラニン色素を合成するチロシナーゼ酵素の活性阻害作用による美白(色素沈着予防)効果など、より直接的な肌に対しての働きも認められています。抗酸化作用と合わせてシワやシミなどの肌老化予防としても役立ってくれるでしょう。栗は皮膚の健康維持・新陳代謝に関わるビタミンB群の含有も比較的豊富ですから、肌荒れ予防にも効果が期待できます。

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日本栗・中国栗(甘栗)の違い

そのまま食べられるレトルトパウチものなどが流通するようになり、日本栗以上に身近な存在となった甘栗。製造メーカにより差はありますが、日本食品標準成分表で見ると中国栗(甘栗)は日本栗よりもさらに炭水化物含有率が高く、100gあたりのカロリーも222kcalと高めになっています。

ビタミン・ミネラル類の全体的なバランスはさほど変わりませんが、ビタミンCが2mgとかなり少なくなっていますので、ビタミンC補給を考えている場合は避けたほうが無難です。鉄分・カリウム・マグネシウムなどのミネラル類、葉酸は甘栗のほうが多くなっていますので栄養補給としては役立つでしょう。食物繊維量も100gあたり8.5gと日本栗の約2倍の量ありますから、便秘気味の方や栄養バランスが気になる方がおやつ代わりに数粒食べるには適していると考えられます。

目的別、栗のおすすめ食べ合わせ

栗(和栗)の選び方・食べ方・注意点

栗を選ぶ場合は皮がツヤツヤとした光沢のある色をしているもの、粒が大きめでずっしりとしたものを選ぶと良いと言われています。丸み・厚みがないものは養分が十分に行き渡っておらず美味しくありません。小さな穴が開いているものは虫食いなので避けましょう。また傷や黒ずみがあるものも避けると良いでしょう。

栗の実は頑丈そうな外見をしていますが、鮮度が落ちるのが早く長期保存には向いていません。水分が抜けてカサカサとした食感になるだけではなく、虫がわいてしまう可能性もあるので放置はしないようにしましょう。新聞紙に包むかビニール袋に入れ、冷蔵庫に入れて保存します。皮付きのものであれば1週間くらい、むき栗であればが2~3日程度が美味しく食べられる目安と言われています。ただし採れたてすぐよりも2~3日置いたほうがデンプンが糖に変わって甘くなるとも言われています。自身で栗拾いをした場合であれば、皮付きのままビニール袋などに入れて2日位冷蔵庫に入れておいてみても良いかもしれません。

栗の渋皮にはポリフェノール(タンニン)や食物繊維が多く含まれています。名前の通り苦味があり食べにくい部位ですが、渋皮煮などにして食べると老化予防や美肌などにはより効果が期待できると考えられています。