食べ物辞典:ヒジキ
和風のお惣菜・お弁当や、ふりかけなどに使われるヒジキ。海藻ですがぬめりがなく、小ぶりなサイズなのでサラダや和え物に使ったり、ひき肉などに混ぜ込みやすい点がメリット。古くは「ひじきを食べると長生きする」という言い伝えがあり、現代でも健康食材として親しまれている食材でもありますね。栄養面ではカルシウムが多く含まれていることが特徴。貧血に良い・鉄分が豊富というイメージを持たれがちですが、スレンレス釜製のものについては期待できません。そのほかヒジキの栄養成分や働き、歴史などをご紹介します。
和名:ヒジキ(鹿尾菜/羊栖菜)
英語:hijiki (hijiki seaweed)
ひじきのプロフイール
ヒジキ(鹿尾菜)とは
ヒジキは主役になることこそ少ないものの、煮物や和え物など和食・家庭料理に欠かせない存在。切り干し大根とひじきの煮物やひじきご飯などを食べると、なんとなくほっこりした気分になる方もいらっしゃるのではないでしょうか。和の食材という印象もあってか若い世代のヒジキ離れが取り上げられることもありますが、サラダ・パスタ・ハンバーグなど洋食系レシピへのアレンジも多く考案されています。近年の健康ブームの影響もあり、食物繊維やミネラルが豊富な海藻として紹介されたことで健康を意識して取り入れる方も増えています。
ヒジキはホンダワラ科ホンダワラ属の海藻の1種で、大きなくくりだとコンブやワカメなどと同じ“褐藻類”に属しています。ヒジキは黒いという印象を持たれている方も多いかもしれませんが、生の状態であれば黄褐色をしており全長20~100cm程度と意外と大きめ。ヒジキの採取は冬から春にかけて行われますが、生状態だと渋みが強く食べにくいため蒸乾法もしくは煮乾法のどちらかで加工されます。この加工によってヒジキは黄褐色から、私達に見覚えのある黒色に変化します。
商品として販売されているものは細長い紐状もしくは米粒よりも少し長いくらいの形状をしていることが多いでが、これはヒジキの茎部分と葉(芽)と呼ばれている部分が分けられているため。通常採取された後に分離して加工され、茎の部分は長ひじき・茎ひじき・糸ひじきなど、芽の部分は芽ひじき・米ひじき・姫ひじきなどと呼ばれています。ちなみにヒジキは漢字で“鹿尾菜”と書き、この表記の由来は江戸中期の本草書である『本朝食鑑』によると形状が黒くて短い鹿のしっぽに似ているためだそう。ヒジキという音については隙透藻(スキマヒモ)が転じた・ヒズキモと呼ばれていたものが転訛したなどの説があります。江戸~現在の呼び名は加工済ヒジキ、古語は海で生きていたヒジキの姿に由来しているのかもしれませんね。
健康食材として支持されているヒジキですが、実は古くから「ひじきを食べると長生きする」という言い伝えがあるそう。敬老の日にちなんで昭和59年に三重県ひじき協同組合が9月15日をヒジキの日と定めています。2003年以降は敬老の日は15日ではなく9月第3月曜日となっていますが、敬老の日にヒジキを使ったヘルシーメニューを作ってみても良いかもしれません。勿論高齢の方だけではなく、若い方・特に女性に不足しやすい栄養補給としても役立ってくれますよ。
ヒジキの歴史
約1万年前の縄文時代の貝塚からも出土していることから、日本人は古くからヒジキを食用としていたのではないかと考えられています。狩猟・採取から農耕へと生活スタイルの変遷が起こった弥生時代においても、ヒジキは塩分補給源として利用されました。奈良時代~平安時代になるとヒジキは神饌(しんせん:神様への供物)として供えられるようになります。ちなみに現在でも伊勢神宮では毎朝・夕に行われている“日別朝夕大御饌祭(ひごとあさゆうおおみけさい)”で、かなり高頻度でヒジキが供されているそうです。
平安初期に書かれた『伊勢物語』では主人公(在原業平とみられる)が後の二条后に「思ひあらば むぐらの宿に 寝もしなん ひじきものには 袖をしつつも」という歌と共に“ひじき藻”を贈って誘うシーンも知られています。逢引の誘いにヒジキを贈るというのは現在の感覚だと相当シュールですが、ヒジキが高級食材だったこと・ひじき藻と引敷物をかけた言葉のセンスなどがこの逸話のポイントのようです。また平安時代中期に編纂された『延喜式』にもヒジキは昆布・ワカメ・海苔などとともに朝廷への供物として利用されたことや、料理法などが記されています。
奈良~平安時代にかけてヒジキは貴族や祭事などに用いられていた高級食材でしたが、武士が台頭し戦国時代になると保存食として重宝されるようになります。そして戦が落ち着いた江戸時代に入るとヒジキは一般庶民にも広く食べられ、飢饉のときの救荒食としても利用されるような親しみのある食材へと変化していきます。江戸時代初期に記された代表的な料理書『寛永料理物語』でひじきの調理法は「にもの、あへもの(煮物・和え物)」となっていますから、現在と同じような感覚で利用されていたことがわかりますね。
また、本草書『庖厨備用倭名本草』にはお米に混ぜてカサ増しに利用されていた事が書かれており、凶作時でなくとも貧しい家庭の人々は日常的にヒジキ飯を食べていたようです。1000年以上昔には神饌・朝廷への献上品として使われていたことを考えると、ものすごく身近な食材になったと言えるかもしれませんね。現在でもブランドひじきでなければお手頃価格で購入することが出来ます。
ひじきの栄養成分・効果について
栄養成分含有量の参考元:日本食品標準成分表2015年版(七訂)
ヒジキは鉄分を始めとしたミネラルや食物繊維が豊富に含まれています。同グラムで比較すると食物繊維がごぼうの7倍・カルシウムが牛乳の12倍・鉄分は鶏レバーの6倍などと紹介されることもありますが、これらの数値は乾燥ひじき100gあたりとの比較値。ヒジキは乾燥した状態のままでは食べられませんので、実際に食べる場合はそこまで含有量が多いという訳ではありません。ただしカロリーも乾燥100gあたり149kcalに対し、戻して茹でた状態であれば100gで10kcalと低いので、カロリーあたりで考えると栄養補給源としては優秀な存在と言えますね。
ヒジキの効果効能、その根拠・理由とは?
貧血予防・血行サポートに
ヒジキは鉄分が豊富だとして、鉄欠乏性貧血の改善によく推奨されている海藻です。しかし2015年に発表された『日本食品標準成分表(七訂)』に記載されている乾燥ヒジキ100gあたりの鉄分含有量は、鉄釜製58.2mgに対して、ステンレス釜製は6.2mgと約1/9となっています(※鉄分以外の栄養成分含有量はほぼ同じ)。
そして現在流通しているヒジキのほとんどがステンレス釜製。実際に摂取する量として考えると、ステンレス釜製は茹で100gの場合の鉄分含有量が0.3mgとなっていますから鉄分補給源として役立つかは微妙なところです。この結果については様々な意見がありますが、鉄分補給にヒジキを食べる場合は鉄釜製法で利用されたものを選ぶようにした方が無難でしょう。非ヘム鉄(植物性鉄分)ですので、吸収率を高めるビタミンCを含む食材と組み合わせて食べると効果的です。
鉄分についてはあまり期待できないものの、ヒジキには筋肉の収縮をスムーズにして血流改善に役立つカルシウム、血液・リンパなど体液循環を正常に保持するマグネシウムも含まれています。また海藻類に多く含まれているヨウ素は甲状腺ホルモンの原料となり、三大栄養素(炭水化物・たんぱく質・脂質)の代謝を高める働きも期待されていますから、血行サポートと合わせて冷え性改善に繋がる可能性もあると考えられています。
カルシウム補給・骨粗鬆症予防に
ヒジキは乾燥100gあたり1000mg、茹で100gあたり96mgのカルシウムが含まれています。カルシウムは骨や歯に存在しており、不足すると骨密度低下による骨粗鬆症リスクが高まる・歯がもろくなることが知られています。カルシウムの適切な補充は骨や歯の丈夫さを保つために必要ですし、ヒジキには骨や歯の発育を促すマグネシウムとマンガン、骨の結成(カルシウム沈着)に必要とされるビタミンKも含まれています。
またカルシウムは神経の興奮を鎮める働きがあり、不足することでストレス耐性低下やイライラなどの原因になるという説もあります。カルシウムとバランスを取り合う・神経伝達物質の合成などに利用されるマグネシウムも含まれていますのでイライラ・ストレス対策にもヒジキは役立つと考えられています。精神安定・骨粗鬆症予防や歯の維持、どちらにせよカルシウムの吸収・沈着を助けたり、血中カルシウム濃度を一定に保つ働きを持つビタミンDを合わせて摂取するとより効果的です。ビタミンDが豊富なしらす干しなどの魚類や乾燥きくらげなどと組み合わせると良いでしょう。シイタケも食べる前に日光に数時間当てるとビタミンD源として利用できます。
便秘予防・腸内環境サポート
ヒジキは乾燥100gあたりの食物繊維総量が51.8gと全体の約半分を食物繊維が占めています。実際に食べる茹で状態であれば100gあたりの食物繊維量は3.7gとなりますが、野菜類などと比較すると豊富な部類。加えてヒジキは便通改善に理想的とされる食物繊維のバランス不溶性2:水溶性1を上回るほど水溶性食物繊維が多く含まれているとも言われています。水溶性食物繊維は腸内善玉菌のエサとなり、善玉菌の活性化・増加をサポートしてくれる働きがありますから、便秘改善だけではなく腸内環境を整える働きも期待できますね。
むくみ・高血圧・動脈硬化予防
ヒジキには乾燥100gあたり6400mg、茹で100gあたり160mgのカリウムが含まれています。茹でた状態で野菜類と比較するとカリウムが際立って多いという訳ではありませんが、ご飯やサラダに加えることで不足分のサポートとして役立つでしょう。カリウムの働きをサポートしたり血液・リンパ液の循環を助けるマグネシウムが比較的多く含まれていますので、カリウムと相乗してむくみの改善や高血圧予防効果が期待されています。
またカリウムは血管への負担を軽減することで動脈硬化の予防にも役立つと考えられています。動脈硬化は血管の中にコレステロールが付着することで血管が狭くなる・柔軟性が失われた状態を指します。カリウムの他、ヒジキには血中のコレステロールの増加抑制・胆汁酸の排出促進によるコレステロール代謝促進効果が期待される食物繊維も含まれています。このためヒジキは血管ダメージの抑制・コレステロール低下と二つの方面から動脈硬化予防のサポートが期待されています。
ダイエット・糖尿病予防に
低カロリーで食物繊維やミネラルが豊富なヒジキはダイエット食材としてもよく利用されています。単にカロリーが低い・便通改善に良いというだけではなく、水溶性食物繊維が水分を含んでゲル化し、糖質の消化・吸収スピートをゆっくりにすることで食後血糖値の急激な上昇を抑える働きも期待できます。三大栄養素の比率で見ると炭水化物が56%前後と非常に多くなっていますが、全体の約50%は食物繊維が占めていますから糖質過多の心配も少ないと言えます。そのためGI値も19と非常に低いので、糖尿病の方のお食事・低インシュリンダイエットにも適しています。
そのほかにミネラルの一種であるヨウ素(ヨード)も適量であれば代謝を司る甲状腺ホルモンの分泌を促すことで基礎代謝・脂肪燃焼を高める働きが期待できますし、タンニンも体の引き締める・脂肪分解酵素の働きをサポートする効果があると考えられています。カルシウムや鉄分などダイエット中に不足しやすいミネラルの補給現としても役立ってくれるでしょう。便秘やむくみ・貧血などを起こしやすい方はひじきご飯にするなどして取り入れると、ダイエット中の不調予防にもなりますね。
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肌・髪・爪の健康維持に
ヒジキに含まれているヨウ素(ヨード)は甲状腺ホルモンの一種であるチロキシンとトリヨードチロニンの材料として利用され、新陳代謝を高める働きがあります。肌細胞の代謝を高めることにもなりますから、ターンオーバーの促進・正常化が期待できます。加えてポリフェノールの一種であるタンニンにも収斂作用(肌を引き締める働き)や紫外線からお肌を守る働きがあると言われていますから、相乗して肌荒れや紫外線による肌老化予防に役立ってくれるでしょう。
そのほか際立って多くはないもののヒジキには大人ニキビの原因となる過酸化脂質を分解してくれるビタミンB2が含まれていますし、豊富な食物繊維による便通改善、特に水溶性食物繊維によって腸内フローラが整うことで、腸の老廃物や有害物質によって起こるニキビや肌荒れ緩和にも繋がります。貧血改善と合わせて肌のくすみを改善し、肌の透明感アップも期待できます。
また甲状腺ホルモンは不足すると毛髪の傷み・抜け毛、爪が割れるなどの症状が表れます。ヒジキには甲状腺ホルモンの原料となるヨウ素(ヨード)に加え、皮膚・髪・爪の再生や脂質代謝に関わるビタミンB2も含まれていますから、髪・爪を健康な状態に保ってくれると考えられています。美肌やアンチエイジングに高い効果が期待されているというわけではありませんが、肌・髪・爪のコンディションを整えてくれる存在と言えるでしょう。
目的別、ヒジキのおすすめ食べ合わせ
ひじきの選び方・食べ方・注意点
ヒジキは乾燥状態のものを購入して水で戻して使用するか、すでに味付けられているものを購入することが多いと思います。乾燥ひじきを水戻しする場合には、ヒジキの量の10~15倍程度の量の水に30分程度浸します。戻し水ごと使うわけではありませんのでお水は多めに入れると確実。水温が低いと戻りにくいので、常温(20℃程度)の水を使いましょう。ひじきが十分に水を吸ったら、ザルに移し替えて流水で洗い、水気を切れば下準備は完了。お急ぎのときにはお湯で短時間で戻すことも出来ますが、個人的には常温のお水でゆっくり戻したほうが美味しいように感じます。
ヒジキの注意点
過去カナダやイギリスなどの食品安全関係当局がヒジキの無機ヒ素の含有率が高いことを発表・消費を控える勧告を出した事があります。しかし日本の厚生労働省調査では日本で使われているヒジキは無機ヒ素の量が少ないこと・乾燥ひじきを水で戻した後に下茹でをすると無縁ヒ素量は半分以下になることが報告されています。東京都福祉保健局によると体重50kgの人であれば週3回以上・乾燥重量で5g以上の量を食べ続けない限り限度量を超える心配は無いそう。
食べ過ぎには注意が必要ですが、煮物を何日に一回くらい食べたり・サラダや炊き込みご飯に使う程度であればさほど心配する必要はありません。ただしサラダに使う場合であっても下処理として水戻し→軽く洗う→水気を絞る→加熱するという工程を踏んで利用するようにしましょう。生ひじきとして売られているものは乾物を水で戻したものですから、よく洗って利用する用にしましょう。
参考元:日本ひじき協議会