食べ物辞典:昆布
昆布巻きや佃煮として食べられるだけではなく、出汁としても欠かせない昆布。和食を支えてくれる基盤でもありますし、昆布茶やおしゃぶり昆布など食事以外にも様々に活用されていますね。縁起物として大切にされてきた歴史もありますし、日本伝統食材と言えるかもしれません。親しんだ味であることは勿論のこと、昆布はミネラルやアルギン酸やフコイダンなどの水溶性食物繊維が豊富な食材でもあります。健康維持や美容サポートとしても注目されている昆布について、食用の歴史や栄養効果などを詳しくご紹介します。
和名:昆布(こんぶ)
英語:kombu/kelp
昆布(コンブ)のプロフイール
昆布とは
料理の味を決める「出汁」を取るために、また昆布巻きや佃煮などそのまま食用としてと、和食に欠かせない食材の一つである昆布。近年は便利な出汁パック・粉末などもあるため昆布から出汁をとって料理をする方は少なくなっていますが、それでも昆布が“日本の味覚のベース”であることに変わりはありませんね。食事以外でも昆布茶・おしゃぶり昆布のようなおやつまで様々な形で昆布を取り入れている事もあり、日本は「食用昆布大国」と表現されることもあるほど。
北海道から沖縄県まで日本全国で利用されている昆布ですが、国内漁獲量の約9割が北海道となっています。古い時代から現在に至るまで北海道は昆布の名産地とされており、昆布という名前についても北海道に古くから暮らしているアイヌの人々の呼び方「コンプ(konpu)」が中国に伝わり、外来語として日本に逆輸入されたという説もあります。ただし昆布の消費量で見ると主産地とされる北海道はさほど昆布を食べず、江戸時代などに昆布貿易の中継点であった富山県と沖縄県が消費トップ県となっています。
昆布と言う言葉はコンブ目コンブ科に属す数種の海藻の総称で、どれか特定の海藻を指す言葉ではありません。昆布の種類はいくつかありますが、主に昆布そのものを食用として利用するもの・出汁をとることを主用途とするものの2つに大まかに分けることが出来ます。昆布そのものを食用とするものにはおでんや昆布巻きなどに一般的に使われている長昆布、酢昆布などに利用されることの多い厚葉昆布、とろろ昆布やおぼろ昆布の原料となる細目昆布やカゴメ昆布などがあります。
日高昆布は柔らかく煮えやすい性質があるため出汁・加工品両方に利用されています。出汁用として利用されるものには、清澄な出汁がとれ最高級品とされている真昆布、濃厚でコクのある出汁がとれる羅臼昆布、透明感の高い出汁がとれる利尻昆布などがあります。同じ昆布出汁でも昆布の種類によって風味・色にかなりの差がありますから、煮物には濃厚な風味の羅臼昆布・鍋物には真昆布・湯豆腐には利尻豆腐など、それぞれの特性を活かすように使い分けてみてください。
昆布の歴史
昆布の歴史は非常に古いと考えられています。利用開始時期についてはハッキリしていませんが、縄文時代の末期に中国から日本に渡ってきた人々が食用としたり、交易品として利用したとする説が有力のようです。文献では『続日本紀』の中の「霊亀元年(715年)に蝦夷(現在の東北地方)の須賀君古麻比留は朝廷に先祖代々昆布を献上していた」というくだりが昆布最古の記録とされており、この記述から奈良時代には本州に昆布が伝わっていたと考えれます。
平安時代の『延喜式』で昆布は税の指定品目とされ、仏事や神事に欠かせない存在となっていきます。ちなみに当時昆布は大和言葉で「ひろめ(広布)」と呼ばれており、現在結婚披露宴などを“お披露目(おひろめ)”と呼ぶ語源ではないかとする説もあるそう。ただし昆布の音が“子生婦”に繋がるとして、子宝・子孫繁栄の縁起物として昆布が結納に利用されるようになったのは江戸時代以降。
鎌倉時代になると北海道(松前)-本州間を昆布の交易船が行き来するようになったことや、仏教文化の広まりによって精進料理が普及したことから昆布が武家・商家などにも広がっていきます。室町時代には乾燥機術が発達したことで日持ちの効く兵糧として、また打ちあわび・勝ち栗・昆布で「打ち勝ちよろこぶ」という語呂合わせから縁起物としても武士に求められる存在となります。江戸時代になると「こんぶロード」とも呼ばれる海上交通が盛んになり、国内では昆布が広く普及するようになります。
この運送技術の向上から昆布が伝わった各地では独自の料理も作られるようになり、“とろろ昆布”などへの加工技術も発達しました。また薩摩藩は交易品として昆布に注目し、航路を琉球・清(中国)まで大きく広げます。中国内陸部では慢性的なヨウ素不足による甲状腺疾患の発症率が高かったことから、昆布は「薬」として高く売れ、この収入が明治維新の資金として利用されたとする説もあります。
1908年には東京帝国大学の池田教授がグルタミン酸を発見し、その味を「うま味」と言い表しました。その後同じく旨味成分であるかつお節のイノシン酸、キノコのグアニル酸などが発見されます。池田氏のグルタミン酸(うま味)の発見は世界に先駆けたもので、この概念を示す言葉が存在しなかった欧米諸国では日本語の「UMAMI」が現在でもそのまま利用されています。
昆布の栄養成分・効果について
栄養成分含有量の参考元:日本食品標準成分表2015年版(七訂)
昆布は豊富なミネラルを筆頭に、ビタミンKやビタミンB群、ぬめり成分で水溶性食物繊維のアルギン酸やフコイダンなどを含んでいます。健康に良い食材ではありますが、海藻類の中でもずば抜けてヨウ素の含有量が高いため食べ過ぎには注意が必要です。
※昆布の種類によって成分含有量に差が生じます。下記は昆布そのものを食べる用途において最も一般的とされている「長昆布(乾燥)」の栄養成分含有量をベースとして紹介させていただいています。
昆布の効果効能、その根拠・理由とは?
ミネラル補給に
昆布にはカルシウム、鉄、マグネシウム、カリウムなどのミネラルが豊富に含まれおり、ミネラルバランス・吸収率が高いことも特徴とされています。ミネラルの一つであるヨウ素は甲状腺ホルモンの原料となり、三大栄養素(炭水化物・たんぱく質・脂質)の代謝を高める働きがあります。健康な骨や歯の生成に関わるカルシウムも多く含まれていますから、育ち盛りのお子さんは勿論のこと骨粗鬆症が気になる高齢者の方にも適した食材と考えられます。マグネシムと合わせてイライラ緩和や精神安定にも役立つと言われています。
また“子生婦”として昆布を結納に利用するのは「子どもに恵まれますように」という願掛けのような意味合いとされていますが、一説では食物繊維やカルシウムなどが多く、妊娠前~妊娠中に必要とされる栄養の補給に優れた食材だったからではないかという見解もあるそう。デリケートな時期の栄養補給として利用する場合は、ヨウ素の過剰摂取にならないよう出汁に使う・フリカケにするなどして少量ずつ摂取するようにしましょう。
消化吸収・疲労回復のサポートに
昆布のヌメリ気の元であり、水溶性食物繊維に含まれるフコイダンには胃腸の保護作用が認められています。胃潰瘍や十二指腸潰瘍の要因の一つにピロリ菌の存在が挙げられますが、ピロリ菌は胃の硫酸基に付着することで胃壁を傷つけます。フコイダンは厳密には硫酸多糖の一種であるため胃の硫酸基の代わりとなり、ピロリ菌を吸着して体外へと排出する働きがあります。
加えて昆布には代謝を助けるビタミンB群やマグネシウムなどのミネラルも含まれています。これらの栄養成分が代謝を高めて疲労物質の分解(代謝)を促進してくれますし、食物繊維を多く含む昆布を食べ続けることで腸・大腸・すい臓の細胞が増え、タンパク質・糖質分解酵素の働きを高める働きも期待されています。胃を守り消化吸収・代謝までの一連の流れをサポートすることで疲労回復にも役立ってくれるでしょう。
二日酔い予防・肝臓サポート
昆布にはアルコール分解を助けるビタミンB1やナイアシンなどのビタミンB群、アルコールの利尿作用によって失われているカリウムやマグネシウムなどのミネラルが豊富に含まれています。加えて昆布のぬめり成分で水溶性食物繊維に分類される多糖類のフコイダンも、アルコールの分解過程で発生する“アセトアルデヒド”の生成を抑制する働きがあることが報告されています。このため昆布は二日酔いの予防・軽減両方の効果が期待されています。
またガゴメ昆布に含まれているフコイダン(F-フコイダン)をつかった実験では、肝細胞増殖因子(HGF)の産生を促す作用があることも報告されています。肝細胞増殖因子は肝細胞に対する強い増殖促進作用を持つタンパク質の一種で、肝臓細胞の再生をはじめ内蔵・血管・皮膚など様々な細胞の再生因子と考えられています。この働きから昆布などの海藻類は二日酔い対策としただけではなく、肝機能向上・傷ついてしまった肝臓細胞の修復などにも役立つと考えられています。
便秘予防・腸内フローラサポート
昆布などの海藻にはフコダインの他にアルギン酸という多糖類が含まれています。アルギン酸そのものは不溶性ですが、昆布やワカメなどには「アルギン酸カリウム」という水溶性の形で含まれています。昆布の食物繊維量は乾燥状態であれば全体重量のおよそ3割程度、長昆布であれば10gで3.68g=レタスやキュウリ約300g相当分と非常に多く含まれています。
食物繊維が多いだけではなく、昆布の全体重量のうち約10%は水溶性食物繊維とも言われています。昆布は不溶性食物繊維と水溶性食物繊維のバランスが理想(不溶性2:水溶性1)に近い食材。豊富かつバランスの良い食物繊維は便の内容量を増加させ蠕動運動を促進させる、便の水分量を調整するなどして便通を整えてくれます。水溶性食物繊維は腸内善玉菌のエサとなり、善玉菌の活性化・増加をサポートしてくれる働きがありますから、便秘改善だけではなく腸内フローラのバランスを整える働きも期待できますね。
免疫力向上・アレルギー軽減
人の体内で免疫細胞が最も多く集まっているのが腸管免疫系であることから、腸内フローラを整えることが免疫力向上にも繋がると考えられています。また水溶性食物繊維の一つであるフコダインには腸内環境を整えることで免疫力を高めることに貢献するだけではなく、より直接的にNK細胞(ナチュラルキラー細胞)やマクロファージなどの免疫細胞活性化作用があることも報告されています。加えて昆布には甲状腺ホルモンの原料となるヨウ素(ヨード)が含まれていますので、新陳代謝を高めることで免疫力を高める働きもあると考えられています。
そのほかフコイダンには免疫抗体グロブリンE(IgE)の産生を抑制する働きも期待されています。IgEは本来異物と結合して体を守る働きがありますが、免疫過剰(アレルギー)の場合は過剰に生成されたIgEが過反応を起こしヒスタミンなどの物質を放出し炎症を起こします。フコダインなどの働きによって腸内環境が整うことで、免疫機能が正常化しIgE生成を適正にする=アレルギー反応を抑制するのではないかと考えられています。
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むくみ・高血圧予防に
昆布はミネラルが豊富な食材で、特にヨウ素・カリウム・マグネシウムが多く含まれています。長昆布(乾燥)10gであってもカリウム含有量は520mgとなり、ゴーヤーや人参200g分に相当します。カリウムは余分なナトリウムを排出させる働きがありますので塩分過剰によるむくみや高血圧の予防に役立ってくれますし、マグネシウムもまたカリウムの働きをサポートしたり血液・リンパ液の循環を助けることでむくみの改善に役立ちます。
ヨウ素(ヨード)は甲状腺ホルモンの生成に必要とされる物質で、不足症状の一つに「むくみ」があります。過剰摂取は危険ですが、不足なくヨウ素を補う事でむくみや体のだるさ・重さなどの予防や緩和に繋がる場合もあるでしょう。
ダイエット・糖尿病予防に
昆布は血糖値が上がりにくい低GI食材でもあります。また食物繊維の中でも水溶性食物繊維のアルギン酸やフコイダンは水分を含んでゲル化し、糖質の消化・吸収スピートをゆっくりにすることで食後血糖値の急激な上昇を抑える働きがあります。この働きから食前や食事とともに昆布を摂取することで血糖値を抑制して糖尿病の予防に役立つと考えられています。
血糖値を急激に上昇させないことでインスリン分泌が抑えられますから、余剰な糖質を脂肪として蓄積されるのを防ぐことにも繋がります。低炭水化物ダイエットの助っ人として役立ってくれますし、腸内フローラのバランスを改善することからも代謝アップが期待できます。ヨウ素(ヨード)も適量であれば代謝を司る甲状腺ホルモンの分泌を促すことで基礎代謝・脂肪燃焼を高める働きが期待できます。また昆布などの褐藻類に含まれる、カロテノイドの一種でキサントフィル類に分類される「フコキサンチン」も余剰エネルギーを脂肪として溜め込む白色脂肪の減少作用や体脂肪燃焼促進(タンパク質UCP-1の活性化)効果があることが報告されています。
昆布の摂取はダイエット中に多い便秘やむくみ、ミネラル不足など栄養の偏りを予防する働きも期待できます。食物繊維は体内での消化吸収スピートを遅らせるだけではなく満腹感の維持にも役立ち、うま味成分のグルタミン酸も満足感を与えることで過食を防ぐ働きがあると考えられています。乾燥10gあたり15kcal以下と低カロリー食材でもありますし、これらの理由から昆布は様々な方面から働きかけてダイエットをサポートしてくれる存在と言えるでしょう。
生活習慣病予防のサポート
昆布に含まれているアルギン酸やフコイダンなどの水溶性食物繊維はコレステロールの吸収を抑制する・コレステロールから精製される胆汁酸の排出を促進する働きがあります。コレステロールが過剰になると血液循環が滞り、動脈硬化、悪化すると心筋梗塞や脳梗塞などの原因となります。また胆のう中のコレステロールが結晶化することで出来る胆石予防など役立ってくれるでしょう。同じく水溶性食物繊維による血糖値上昇抑制作用からは糖尿病予防、カリウムなどの働きからは高血圧予防効果が期待できます。このため生活習慣病と言われる多くの病気の予防に対し、昆布は有効と考えられています。
美肌作り・肌荒れ予防に
昆布に含まれているフコキサンチンにはメラニン色素生成抑制(チロシナーゼ活性阻害)作用やコラーゲン分解酵素(コラゲナーゼ)・ヒアルロン酸分解酵素(ヒアルロニダーゼ)・エラスチン分解酵素(エラスターゼ)の働きを抑制することで肌のハリや潤いを守る働きが期待されています。フコイダンが生成を促すと考えられている肝細胞増殖因子(HGF)は皮膚の修復や再生にも関わっていますから、傷跡やシミ・シワなど既に顕在している肌ダメージの緩和にも効果が期待できるかもしれません。
またヨウ素から合成される甲状腺ホルモンは体内のタンパク質合成や新陳代謝に関係していますし、フコダインやアルギン酸にも肌の潤いを保持する働きがあると考えられていますから、複合して肌のハリや潤いの保持に効果が期待できます。ビタミンB2には過酸化脂質を分解する働きがあるためニキビ予防にも役立ってくれるでしょう。二次的な働きにはなりますが、食物繊維(特に水溶性食物繊維)の働きで腸内フローラが活性化することからも肌荒れ予防に繋がりますし、善玉菌が活発にビタミンを合成してくれることからも美肌効果が期待できるでしょう。
髪・爪の健康維持にも
甲状腺ホルモンは不足すると毛髪の傷み・抜け毛、爪が割れるなどの症状が表れます。昆布には甲状腺ホルモンの原料となるヨウ素(ヨード)をはじめ、皮膚・髪・爪の再生や脂質代謝に関わるビタミンB2、髪の艶を維持するミネラルなどが含まれています。このため昆布は髪・爪を丈夫にして艶やかに保つ手助けをしてくれる食材として紹介されることもありますね。
ちなみに昔から「昆布やワカメなどの海藻は白髪に良い」と言われてきましたが、現在はメラニン色素を増やすものは含まれていないため「食べて白髪が黒くなる」働きはないとする考え方が主流です。昆布・ワカメ=黒髪というのは若いうちから習慣的に食べていると白髪や薄毛の予防になること・過去髪を整えるのに海藻を用いた“ふのり液”が利用されたことなども関係しているのではないかと考えられていますよ。
目的別、昆布のおすすめ食べ合わせ
昆布の食べ方・注意点
昆布を戻す時にはいきなり水につけず、水でさっと洗うか、固く絞った布巾で表面を拭いてから利用します。昆布水などを作りたい場合はさておき、食材として昆布を使いたい場合は水を入れすぎず“ひたひた”くらいのお水で十分。途中で裏表を返すようにすると均等に戻りますよ。切って使いたい場合でも、サイズが変わってしまうので戻してから切るのがおすすめ。戻し汁は捨ててしまわず、出汁として活用して下さい。
昆布の注意点
昆布に含まれているヨウ素は不足すると様々な不調や病気の原因となりますが、過剰に摂取することで甲状腺肥大・甲状腺機能亢進症などを引き起こす危険性があります。単発的な摂取であれば健康な方の場合排出機能が働きますのでさほど影響はありませんが、長期間過剰摂取することで排泄が追いつかなくなります。
昆布(乾燥)は1g当たり1000μg~4000μg(1~4mg)と言われるほど非常にヨウ素含有量が高く、昆布の佃煮などでも12g(大さじ1杯)で1320μgのヨウ素が含まれています。成人1日のヨウ素上限量は3000μgとなっていますから「体に良い」「痩せる」「美容に良い」などの理由で毎日大量に食べ続けることは避けましょう。食べる場合は週に1~2回取り入れるくらいで十分のようです。甲状腺系の疾患がある方はかかりつけの医師に相談してください。