【大麦】押し麦/もち麦の栄養・効果

大麦(押し麦)イメージ

大麦(押し麦/もち麦)とは

大麦はビール・ウイスキー・麦焼酎や麦茶など飲み物をはじめ味噌や醤油の原料や、麦とろご飯(麦飯)や麦チョコなど、何らかの形で多くの人が口にしたことのある食材です。大麦そのものや麦飯については「貧乏人の食べ物」「刑務所の臭い飯」など、ネガティブな印象を持たれている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし近年は健康維持や生活習慣病予防に役立つ食材としてメディアに取り上げられ、健康食材として大麦は注目されています。食べてみると食感がよく美味しいことや、β-グルカンなどの食物繊維が豊富で便通改善・腸内環境改善・ダイエットに役立つことから特に女性人気が急上昇しています。

大麦はイネ科オオムギ属に属す、中央アジア原産の穀物です。同じイネ科植物で「麦」と付く名前の食材でも、パンや麺の原料として主に利用される小麦はコムギ属(Triticum)、漢方薬や健康茶・化粧品原料として利用されるハトムギはジュズダマ属(Coix)、ドイツパン・黒パンの原料として知られるライ麦はライムギ属(Secale)、オートムギやオーツ麦と呼ばれオートミールやシリアルの原料などに使われる燕麦はカラスムギ属(Avena)と同科異属となっています。

大麦は実のつき方から6列の穂の2列のみに大粒の実がつく「二条大麦(大粒大麦)」と、6列全てに小粒の実が付く「六条大麦(小粒大麦)」の2種類に分かれます。主に二条大麦はビール・麦焼酎の原料に、六条大麦は麦茶・ 麦ごはんに利用されています。また実と皮の剥がれやすさによって、揉むだけで皮が剥ける品種群を裸麦(ハダカムギ)、揉んでも皮が剥がれない品種群を皮麦(カワムギ)にさらに分けられます。

大麦・小麦の違い

栄養成分的に見ると、小麦のたんぱく質はグルテンが主体で粘り気があることに対し、大麦のたんぱく質はホルデインが主体であることが大きく違います(※大麦にもグルテンは微量含まれてます)。そのため大麦でパンを作ると膨らまずに堅くなり、麺にすると切れてしまします。逆に大麦は吸水性が良いので麦ご飯として美味しく食べられますが、小麦の場合はパサパサになります。また植物的に見ると、小麦は1年草であるのに対し大麦は越年草です。

ちなみに名前については麦の大きさで大麦・小麦と区別していると思っている方も多いそうですが、実(粒)のサイズはさほど差がありません。名前の由来には幾つか説がありますが、比較的簡単に殻・フスマを取り除きそのまま食べられることから、本物・高品質・用途が広いことを表す“大”を付けたとする説が有力です。伝来当初の漢字圏では、脱殻・製粉する小麦よりも、利用が容易な大麦の方が優れているとされていたと考えられています。

日本をはじめ東アジアでは小麦・大麦・燕麦(オーツ麦)・鳩麦など○○麦という共通性のある名前を付け、総称して「ムギ」と呼びますが、欧米ではそういった呼び方はしないそう。小麦を“wheat”、大麦は“barley”と全く違う名称で呼ばれています。

大麦の歴史

大麦は小麦と並び、世界で最も古い作物の1つとされています。食用だけの歴史はさらに古く、100万年前の原人にまで遡るという説もあるほどです。約1万年前の新石器時代には既に西アジアから中央アジア(メソポタミア文明圏)で栽培が行われていました。人との関わりが古い存在であるとともに、大麦や小麦などは生産性が高いため農耕以外に専念する人々ができ、文明が発達したとも考えられています。

シュメール人の移動や交易などの関わりから麦の栽培法は世界中へと拡散され、古代エジプトでも紀元前5000年ことから栽培が行われるようになったと考えられています。大麦が主食のパンの原料として使われていたことがヒエログリフにも描かれていますし、ビールの製造も行われていたようです。王の墓の副葬品からも大麦が発見されており、エジプトの食生活の中心的存在であったと考えられています。しかし時代とともにグルテンを含むためパンや麺など幅広く利用できる小麦が好まれ、大麦は醸造用や飼料用としての利用が主となっていきます。

日本には3世紀頃に中国から朝鮮半島を通ってもたらされたと考えられており、弥生時代の遺跡からは土器に付着した大麦が発見されています。奈良時代には広く栽培されており、平安時代になると米と大麦を混ぜた“麦ご飯”が食べられるようになったと言われています。製粉せずに食べられること・米のかさ増しになること・熟すのが早いことなどから鎌倉時代以降はコメの裏策として栽培が広がります。

食生活が豊かになると共に白米だけの飯が都市部では標準化していきます。その結果、麦飯を格の低い(下賤な)食品として蔑む傾向も出てきますが、食材や生薬についての知識が豊富で“健康オタク”もと言われるほど健康意識の高かった徳川家康は麦ご飯を好んで食したことが伝えられています。後の明治時代になると、更に白米が普及したことでビタミンB1不足による脚気が蔓延しました。この時、海軍軍医の高木兼寛氏が脚気の原因が食事であることを指摘し、海軍で麦飯を導入して脚気患者を激減させた功績もあります。

大麦はこんな方にオススメ

  • 食物繊維不足が気になる
  • 血糖値・コレステロールが高い
  • 生活習慣病の予防に
  • 便秘の予防・改善
  • 腸内フローラを改善したい
  • お腹のポッコリが気になる
  • 太りにくい体質になりたい
  • ダイエットが続かない方

大麦(押し麦)の主な栄養・期待される効果:前半

※下記項目でご紹介する成分含有量は 日本食品標準成分表「大麦/押麦」のものを記載させていただいています。

食物繊維、特に水溶性食物繊維補給

大麦の栄養成分や働きという点で外せない存在が「食物繊維」です。大麦(押し麦)100g中の食物繊維含有量は9.6gで、精白米(0.5g)の約20倍・玄米の約3倍の量を含んでいます。食物繊維が多いと言われている穀類のキヌアアマランサスでも7g前後ですから、穀物類ではトップの食物繊維を含んでいると言われています。一部豆類など更に食物繊維が豊富な食材もありますが、全食品中で見ても乾物を除いた中で大麦の食物繊維量はトップクスに入ります。

また単に食物繊維料が多いというだけではなく、大麦は不溶性食物繊維3.6gに対して水溶性食物繊維が6.0gと多いという特徴があります。白米には水溶性食物繊維はほとんど含まれていませんし、玄米の場合も水溶性食物繊維の割合は25%以下(0.7g/100g)ですから、100gあたりの水溶性食物繊維料で比較すると大麦は玄米の約8.5倍量を含んでいるのです。カロリーに大きく差がありますから一概には言えませんが、100gあたりで比較した場合は食物繊維の王様ゴボウ(5.7g/100g)よりも食物繊維が豊富で、水溶性食物繊維料はごぼうの2.5倍となります。

エシャロットやカレー粉、そのほか加工食品には勿論大麦よりも多く水溶性食物繊維を含むものも存在します。しかし“ある程度の量を摂取できる”こと“毎日食べられる”などの実用性を加味すると、大麦は全食材中トップの水溶性食物繊維を含んでいると言っても過言ではないでしょう。

便秘解消・腸内環境改善

理想的な食物繊維の摂取バランスとしては不溶性:水溶性=2:1の比率が良いと言われていますが、水溶性食物繊維をほとんど含まない白米をはじめ、食物繊維を取るために意識的に摂取している野菜・きのこ類の多くは不溶性:水溶性が3:1~5:1くらいと不溶性食物繊維の含有率が高いのが現状です。
大麦は食物繊維が豊富であるのはもちろんですが、β-グルカンなどの水溶性食物繊維が多く含まれており食物繊維比率が不溶性:水溶性=1:2と逆転しています。このため食物繊維の補給として優れているだけではなく、偏りがちな ファイバーバランスを整えることにも繋がっと考えられます。

不溶性食物繊維は便の量を増やして腸の蠕動運動を促す、腸内の老廃物・有害物質を絡め取って排泄させるという働きがあります。水溶性食物繊維は水に溶けることで粘性を持ち便の硬さを調節する、コレステロール・胆汁酸などを吸着して排泄する、善玉菌のエサとなり腸内環境を整える働きがあります。どちらも必要な食物繊維ですが、腸内フローラを元気に働かせるためには水溶性食物繊維の存在が大きいと言えるでしょう。大麦を食生活に取り入れる事で便秘の改善(便通が良くなる)に役立つのはもちろんのこと、腸内フローラを改善することで体質改善・免疫力アップ・代謝アップ・美肌効果などにも繋がると期待されています。

糖尿病・生活習慣病予防

β-グルカンなどの水溶性食物繊維は便通・腸内環境改善以外に、水に溶けると粘性を持つ(ゲル化する)という性質から一緒に食べたものの消化・吸収をゆっくりにするという働きがあります。そのため糖の吸収スピードを抑え血糖値の上昇を穏やかにする働きが認められており、糖尿病の予防に役立つと考えられています。ちなみに刑務所では麦飯をはじめ食物繊維の多い食事を採用し、運動や規則正しい生活をおくることから糖尿病持ちの服役者の過半数に症状改善がみられるという話もあります。

またアメリカやヨーロッパ諸国ではβ-グルカンを含む大麦は血中コレステロールを低下させることが広く認知されており、健康効果を表示することが認められています。高コレステロールは動脈硬化・心筋梗塞・脳梗塞などのリスクを増加させる原因となりますから、糖尿病以外にも生活習慣病と呼ばれる多くの病気の予防に役立ってくれるでしょう。